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第三話 「牛の首に念仏」承1

「つまり、あなた方は『牛の首』という心霊話を聞くためにここに集まったが、いざ蓋を開けてみたら、人の生首が出て来た、と。そういうわけですね?」

「はい。」

俺たちは、仏壇の前で、とうまさんが呼んだ警察の人たちに、話を聞かれていた。

縁側の外では長谷川さんととうまさんが別の刑事さんに事情を説明しているようだ。

「生首の身元に何か心当たりは?」

「「いや、ないですね。」」

と謙信さんと「さとるくん」さんが答えるが早いか、

「この人、医者じゃないかな。」

と、王子が突然名推理を始めた。

「だってこの人、耳の後ろに線状の傷跡があるじゃない?これって、マスクの紐で擦れすぎて出来た跡じゃないかな。今の時期、こんな状態になるまでマスクつけ続けなきゃいけないのってやっぱり医療関係者だと思う。医療関係者用のマスクって、少しでも隙間を作らないように紐がキツくなってるのもあるっていうし。この年代で男性看護師ってレアケースだから、医者かなって。」

「確かに、言われてみればこの人、医者っぽい顔してますね。」

佐野詩織が、言わなくて良かったんじゃないか、というほど希薄な根拠で同意した。

いやちょっと待て。さっきから会話聞く限り、まさかこの人達、生首直視してないか?チラッと薄目に見てみると、生首を慎重に検視している鑑識さんにドン引かれている2人がいた。

「ところで、『牛の首』の本はどこに行ってしまったのだ?」

「本?本がどうかしたんですか?」

自称吸血鬼の末裔の呟きに刑事さんが食いついた。

「元々、あの生首が入っていた箱には、『牛の首』の本が入ってるってことで、ここに持ってきて、皆で開けたんですよ。」

謙信さんが淡々と答えた。

「あ!あの時!蔵から持ってくる時、長谷川さん先に中身見てたはずだよね?」

「さとるくん」さんが興奮気味に割って入ると、刑事さんの目の色が変わった。

「その後、皆さんが開けるまでの間に箱が入れ替えられた可能性は?」

「ないと思いますよ。皆で長谷川さんを取り囲んで歩いてきたんで。」

謙信さんが冷静に返答すると、刑事さんは長谷川さんの方に向き直って、縁側のフチギリギリまで詰め寄っていった。

「長谷川さん、どうやら、あなたはあの箱に入っているのが生首だと分かった上でここに持ってこられたようですね。署までご同行願います。」

「えぇ!?わ、私は、『牛の首』の本が入っている箱だと、きちんと確認した上で、ここまで運んできたんですよ!……そ、そうだ、あの佐藤様が撮ってくださってた映像、あれをご覧頂ければ、私の無実は証明されます!」

あ、確かに撮ってたな。

「本当ですか、佐藤さん。」

振り返った刑事さんに問われた謙信さんは、「あ〜、ちょっと待っててくださいね。」と呟きながら、パソコンを操作し、映像を出した。刑事さんが近寄ってきて、パソコンを覗き込むと、俺達もついでに群がって見始めた。

「たぶん、この辺りですね。」

と言いながら謙信さんが出してくれた映像には、箱を開けた瞬間の長谷川さんが、確かに映っていた。が、肝心の箱の中身が角度的に全く映っていなかった。

「これじゃあ、箱の中身を、実際には生首なのに、口では本だと言っている可能性が全く否定できませんね。」

刑事さんがそう言って立ち上がろうとした瞬間、佐野詩織が引き留めた。

「本当にそうでしょうか?謙信さん、この映像って部分拡大できたりしますか?」

「まあ、できるけど、ちょっと待ってね画質いじるから。どこ拡大してほしいの?」

「この、開けた蓋の内側です。」

佐野詩織が画面を指差して示すと、謙信さんは少しの間、パソコンをいじった。

「あ。本当だ、よく気づいたね君。」

謙信さんは佐野詩織に目配せすると、俺達に拡大した映像を見せてくれた。

「ほら、ここ。表紙に『牛の首』って書かれた古いノートみたいなのが、黒光りした蓋の内側に反射して映ってますよね。」

うわ!本当だ!当然鏡文字になっているが、確かに『牛の首』と書かれている。ただこのノート、反射した虚像を見る限り、デザインというか、装丁というか、江戸時代のものには到底見えない。薄桃色の表紙の左側が赤い紙で綴じられていて、まさにノートだ。

「よかったぁ~〜!」

縁側にもたれかかっていた長谷川さんが、安堵の声を漏らした。

「なるほど。しかし、そうなると、箱の中身は、皆さんがずっと見ていた中で入れ替わったことになる。そんなことあり得ますかね?」

刑事さんのこの発言は、暫しの沈黙を招いた。

確かに、どういうことだ?

「まさに『牛の首』の話にそっくりな状況ですね。」

「え、長谷川さん、『牛の首』読んだことあるんですか?」

「えぇ、はい。一応皆様がいらっしゃる前に本物であることを確認しておこうと思いまして。」

「江戸時代の言葉で書かれてるのに読めたんですか?」

どこ疑ってんだよ佐野詩織。

「ああ、そうなんですよ。定期的にその時代の言葉に合わせた訳を寺の者が繰り返していたようで、直近ですと、昭和頃の訳がされた一冊があったんです。その、歴代の翻訳本並びに原本全てをあの箱にまとめて保管しておったのですが………。」

なるほど、だからあんなに高さのある箱に入ってたのか。本一冊を保管するにしては箱がデカいなと思ったんだ。

「差し支えなければ、その『牛の首』とやらの話、お聞かせ願えますか?」

警察の人が長谷川さんに問うと、長谷川さんは苦虫を噛みつぶしたような顔をして、俯いた。

「聞くと呪われる話ですよ。」

謙信さんが真顔で刑事さん達に釘を刺した。

「そんな迷信に惑わされて捜査できない奴が警察なんかやってられるかってんですよ。」

動画を一緒に確認した刑事さんが鼻で笑いながら答えた。

「……分かりました。では、別室でお話いたしましょう。」

「あ、俺たちも聞いて良いですか?」

おいおい、さとる。「俺たち」って、俺らを巻き込むんじゃねぇ。

「元々、その話を聞くために俺たちここに来たんですよ。だから、聞かせてもらいたいです!あと、撮っても良いですか?」

こいつのメンタルはどうなってんだ?悟りの境地ってそこなのか?

「あの……、撮ってもらうために我々がお呼びしたのに、本当に申し訳ないのですが、動画の話は一度白紙に戻して頂けないでしょうか。……正直、『牛の首』の呪いを舐めていました。こんなことになってしまった以上、『牛の首』の話を動画にして世界中に配信してしまえば、世界中でどんな被害が起きるか分かりません。そうなったとき、我々ではもう、手に負えないので……。」

「そうですよ!長谷川さんの仰る通りです。私も『牛の首』を記事にしようと思って来ましたけど、私の記事の読者が生首になったら、なんて考えたら、恐ろしいです!」

バスの中では脱力系だった滝さんが、ハキハキした口調で訴えた。

「そうね……。今回は、これ以上首突っ込むのはやめといたほうが良いんじゃない?」

水川さんも同調する中で、さとるも、諦めるしかないか、という顔をした。

「いや、俺は配信は別として、動画は回すべきだと思います。さっきの、蓋に映った『牛の首』みたいに、あとから動画を見直さないと気づけないことが、この事件の解決の糸口になるかもしれないし。」

謙信さんが真剣な面持ちで長谷川さんの目を見て語りかけた。

「それは、同感ですね。」

刑事さんもそれに同意し、周囲の人間もまばらに頷き同調する中で、滝さんが声を荒らげて「ちょっと待ってよ!」と言った。

「動画回す、ってまだここに残るつもり?私はもう帰る!駅までで良いから車出して。」

そう言って立ち上がる滝さんを、刑事さんがその前に立って制した。

「いやぁそういう訳にはいきませんね。あなたも容疑者の一人なんですから、ここでお帰しするわけには、ね?署員を護衛につけますから、今夜はお近くの宿にお泊まりください。」

「署員を護衛に?ふざけないでよ!警察ごときが呪いを防げるわけないでしょ!?」

滝さんが激昂すると、佐野詩織が笑い始めた。

「いやいや、呪いって!良い大人が!」

「は?何を偉そうに!こんなの『牛の首』の呪いじゃなきゃ、何だって言うのよ!」

滝さんが佐野詩織に掴みかかろうとしたので、俺と刑事さんで慌てて止めた。そして、俺の背後から佐野詩織のいつものセリフが飛んできた。

「その『牛の首』の呪いとやらは否定させてもらう。」

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