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第二話 「石の上にも怨念」承2

俺と佐野詩織は翌日、さくら先生の案内で例の自称超能力者の屋敷に向かった。

「ここです。」

さくら先生が指差した屋敷は、何度か見かけたことのあった、石塀に囲まれた庭園付きの大きな和風屋敷だった。

「ここって、ヤクザの家じゃないんですか!?」

佐野詩織がデカい声でそんなことを言ったので、俺は慌てて詰め寄った。

「シーッ!もっと間接的な言い方があるでしょうが!ヤのつく自営業とか、その筋の人とか!」

「どうせ今から喧嘩売りに行くんだから、そんなところに気を遣ったってしょうがなくないか?」

「まあ、どっちにしろ反社ですもんね。」

さくら先生まで向こうについたので、俺は大人しく引き下がった。

門の前に行くと、「ご自由にお入りください」という筆で書かれた木の看板が立てかけてあったので、俺たちはインターホンは鳴らさずに入ってみた。さくら先生曰く、前回もそうしたという。

門をくぐると、石灯篭や池、しめ縄で巻かれた大きな岩などが見え、一見立派な庭園のようだったが、よく見ると池には鯉もおらず、濁っていて、木も雑草も手入れがあまり行き届いてないようだった。ただ、石灯篭だけは、ピカピカだった。

「ようこそ。お待ちしておりました。」

うっわ!びくった。

俺が庭を観察していたら、突然信者の女性一人が現れた。40代後半~50代ぐらいだろうか。ていうか、待ってたって何?俺らアポなしですけど?と思って佐野詩織の方を見ると、戦闘態勢に入ったのか、目が座っていた。

「一応言っておくと、今の『お待ちしておりました。』は来る人みんなに言ってるやつで深い意味はないから。」

「そ、そうなんだ。」

なんでそんな内部事情に詳しいんだよ、お前は。

「姉を返して頂きに来ました!」

さくら先生が毅然とした態度で前に出ると、信者の女性の笑みが一層不気味になった。

「ああ、貴方のお知り合いでしたか。何人で来られても変わらないと思いますよ。石玄(しゃくげん)様のお力の前には。」

しゃくげん……?

「石の玄人って書いて『しゃくげん』って名乗ってるんですよ、ここの教祖は。」

さくら先生からご解説頂いて納得した。

そうこうするうちに、女性の後ろから戸の開いた玄関先に信者が新たに2、3人集まってきた。

「そうでしょうね。ただ、その石玄殿とやらの力、私の前では通じませんよ。」

すごいドヤ顔で言いきっちゃったけど、大丈夫だろうか。佐野詩織には前科があるので若干不安。

「石玄様のお力を実際にご覧いただいた方が早そうですね。日向さん、石玄様をお呼びして。」

信者の一人らしき日向さんという小柄な若い男性が奥に消えていった。

しばらくして、白装束のおじさんとさくら先生の面影を少し感じる30歳くらいの女性を連れて、日向さんが帰ってきた。

「お姉ちゃん……!」

やっぱりさくら先生のお姉さんだったか。

「さくら、もう私のことは放っておいて、って言ったでしょう。」

淡々とした、でも芯のある言い方だった。

「この人は本物の超能力者なんかじゃない!帰ろうよ!この人たちはお姉ちゃんのお金が目当てなんだよ!それに、こんなところにいたら、余計に東原さん帰って来ないよ!」

東原さん?誰だ?

「ふふっ。」

さくら先生が必死で心を込めた説得の言葉を、石玄とやらは、笑いやがった。

「石玄殿、勝負をいたしましょう。先日の彼女の借りを返しに参りました。」

佐野詩織の言葉にほんの少しだけ、余裕綽々だった石玄の顔が曇った。

「あなたは、石を念力で熱することが出来るとか。しかし、私はその力を封じ込めることができます。そこで、私の手の平に、石を乗せ、私が石の熱さに耐えることが出来なくなったら負け、5分経っても石の温度が熱くならなければ私の勝ち、という勝負をしませんか?」

佐野詩織は、指を5本とも立てた右手を石玄の前に出し、「5」という数字を強調した。お前どんだけ「5」が好きなんだよ。

「力比べ、ということですか。良いでしょう。」

石玄の顔に余裕の笑みが戻ってきてしまった。たぶん、中二病がなんかほざいてやがる、ぐらいにしか思われてないんじゃないだろうか。

石玄はこちらの方へ歩いてきて、かがんで玄関横の砂利の石を一つ取り、「外では難ですから。」と家の中に入るよう、促した。

「いえ、ここで結構です。」

そう言って左手を差し出した佐野詩織の手の平の上に、石玄がさっき拾った石を乗せた。佐野詩織の右側にいた俺は、佐野詩織に言われて、スマホのストップウォッチ機能で5分を測り始めた。石玄が、「ハァーッ!」と両手で念じ始めた。佐野詩織はというと、至って冷静に、右手をかざすだけ。フリとはいえ、もうちょっとなんか、こう、頑張ってる感出せよ、と思った。皆が息を呑んで見守る中、5分間も佐野詩織の手の上に乗った石を見つめてじっとしたまま、というのも、ひたすら時間が長く感じられて耐え難かったので、俺はストップウォッチを見つめることにした。

俺の手元のストップウォッチが残り2分を切った頃、信者たちがざわめき始めた。心なしか石玄も焦っているように見える。

佐野詩織は、というと、全く顔色一つ変わっていなかった。

石玄は佐野詩織にもう一歩近づき、「ハアーッ!」の声を一層大きくした。

そのまま何も起きずに、俺のスマホが鳴った。

え………、佐野詩織が、あっさり勝った。

佐野詩織は勝ち誇ったようにニヤッとした。

「一応、石が熱を持っていないか、確認されますか?」

佐野詩織が煽る煽る。

俺が石を触ろうとすると、石を持った左手を俺から遠ざけて拒否された。

「触るならちゃんと手汗をしっかり拭いてからにして下さい。」

絆創膏だらけの手なので、手汗とか関係ないような気もしたが、俺は大人しく、ズボンで手汗を拭ってから、触らせてもらった。

「え、全然冷たい。」

秋の涼しい気温の下にある石そのままの温度だった。

信者たちも、ざわめきつつ、佐野詩織の持った石を触りに来た。

「手汗はしっかり拭って下さい。」

誰にでも言うんか、それ。佐野詩織は案外潔癖症なようだ。

「え……?!」

石を触った信者たちの反応は皆同じ。目を剥き、石玄の顔を一目見たあと、佐野詩織の顔を見るのだ。

「どうやらあなたのお力も本物だったようですね。」

堪りかねた石玄が、負け惜しみを言った。

そして、「ふふっ。」と先ほどの石玄の笑い方を真似た佐野詩織が決めた。

「その石を操る力とやらは、否定させてもらう。」

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