彼女が去って行くのをベランダから見ていた
この作品は「なろうラジオ大賞6」応募作品です。
「あ!鍵、返さなきゃね」
彼女はバッグからキーホルダーを出し、この部屋の鍵を外そうとする。
「オレ、やってやるよ」
「いい! 私が!……」と言い掛けた彼女は
「まあ、あなたの合鍵だから……任せるわ」とキーホルダーをオレに渡す。
こうやって彼女から何かを頼まれるのも久しぶりだ。
『それも……オレが口ばっかりだったからか……』
自分の部屋の鍵を外しながら今更ながらに思う。
彼女との時間は……さっき宅配業者が来て引き上げて行った荷物の数くらいで……
いや、それも違うか……
彼女の熱量がオレよりずっと大きくて……その齟齬が、彼女がオレに愛想を尽かす事となり、彼女がオレの部屋で作り上げた物の大半を……惜しげもなく打ち捨てて行く結果となった。
勿論オレは!
浮気なんかしない!
彼女に手を上げた事も声を荒げた事も無い!
それでも彼女は住むべき部屋をさっさと用意し、手際よく荷物をまとめた。
「それは他に男が居るんだよ!」と友人はビールジョッキをグイッ!と飲ってオレを諭し煽るけれど……それは心の内に不毛な嫉妬を起こさせるだけで……オレはますます惨めになる。
「もう行くわ!」
最後の荷物であるキャリーバッグのファスナーの引く音が別れのファンファーレ。
オレの目の前からサッ!とキーホルダーを取り上げて彼女はコートを羽織る。
やり直しを懇願する言葉がオレの中で溢れかえっているけれど……背中を向けたままのオレはドアが閉まる音を聞いただけだった。
部屋がしんとしてしまって……
手持ち無沙汰にタバコを持ち、ベランダへ出る。
彼女はもうこの部屋に居ないのに……こうして彼女との約束事に縛られて……やりきれなく視線を泳がすと、日常を刻んでいる国道に沿って歩いて行く彼女が見えた。
背筋を伸ばし、カツカツとヒールの音が聞こえてきそうな勢いで、駅へ向かってカートを引いて行く彼女の姿が……
まあ、ダメな男の話で……私は彼女に同情もしますが……こんな男、居ますよね?(^^;)
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