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おもいで

作者: 山本啓一

ゆうせいみんえいか。


郵政民営化。そうです。あれば私が三十路のときでございました。


私は大学すら出て居ないばかでしたので、郵政民営化の意味、意義などは、さっぱりだったのです。

上の、えらいお方たちが、やたらめったら、郵政民営化だぞ、これからは郵便局が、自立していく、そんな時代になったのだぞ、とわめいておられました。私なんぞは、その、やはりばかでしたので、えらい政治家のかたが、お決めになったことですから、間違いのない事だとばかりおもっていた訳でございます。そのころの私はと言えば、口笛を吹きながら、郵便バイクに乗って郵便配達へ出かける毎日でございました。わたしはこの仕事が、そりゃあもう、大好きだったのです。



「廣島にさ、なんでも人道を無視するような爆弾が落ちたらしいね」

静かに客人がいった。

夕陽が空気をあかく染め上げていた。この家の、ちいさな、七つになるおんなのこが、庭を走り回っている。蝶々を追いかけ、ときどき、たちどまり、家のなかを見てふしぎそうな顔をする。おとな同士がしんけんに話をしているのが、気にかかるのだ。

「長崎もあぶないらしいな」

主人もまた静かにそう言った。おれたちも、しぬのかな。客人は、そう言うのを堪えてじっと黙っていた。ふたりとも、つかれていたのだ。


そうです、りすとら。

リストラです。

なんでも、郵便局は、民営化したのだから、効率よく仕事をせねばならん。それが出来ぬ奴はくびにする、ということらしいのです。そうして、働きのわるい社員を、えらい方々が、虐めはじめたのでございます。わたしなんぞも、年賀状の売り上げがわるい、と言う理由で虐めをうけました。無視、無視、無視。だあれも私なんかと口をきいてくれませんでした。あるときは、上役のかたが、私の耳もとでこう言ったのでございます。

「死ね」


塹壕の

ヴィトゲンシュタイン

血まみれの

ノートブック


お茶が、おいしい。



私は泣きたくなりました。郵便配達のしごとがすきでしたから。まいにち、まいにち、虐められました。いじめられました。そこで、私は、妙案を思いついたのでございます。自分が「鬱病」である、という嘘を会社にも、家族にもついたのでございます。「鬱病」が流行ったじだいでしたから。そうやって仕事を辞め、家から飛び出し、誰も彼にも、「鬱病」と嘘を言いまくって逃げてまいりました。私はもう、このよのなかが、いやになったのでございます。そうしたら、ついには、私は病院送りになったのでした。ははは。にんげんの人生は、なんだかおかしなものですね。今までお話してきたことは全てしんじつです。嘘ではありませぬ。皆様、今日はありがとうございました。お話をきいてくださって。それでは、さようなら。さようなら、じんせい。


「空に樹にひとに

私は自らを投げかける

やがて世界の豊かさそのものとなるために」


なあに、それ?


「谷川俊太郎さ」


明日がまた、くる。



















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