第五十八話 おまえを男にしてやる
※やや露骨なシーンがありますが、言葉は極力抑えてます。
読み飛ばしてもストーリー進行には影響ありません。
王宮野外パーティの締めは、パンタロニ・カルディによるア・カペラ(a cappella)で一曲の歌を歌って、お終いになりました。
曲名は『星空の下で』といい、今宵に相応しくしっとりした曲です。
ジーノは観覧している皆の一番前で、正座して涙と鼻水を出しながら曲を聴いていました。
「ううううっ 最高だよおおおっ 生ぎででよがっだあああっ」
「チッ 大袈裟だなこいつは……」
『まあまあ、夢を見ているかと思って温かく見守っていましょう』
彼を見ていてちょっと恥ずかしいのでビーチェは愚痴っていましたが、陛下の計らいで大人気アイドルを貸し切ってるわけですから、たぶん二度は無いでしょう。
---
その晩は真っ直ぐにホテルへ帰り、お腹いっぱいになった私たちはそれぞれの部屋へ戻って休みました。
さすがのウルスラも今日は飲み過ぎベロベロですぐに寝てしまったようです。
おや、ビーチェの様子がおかしいですね。
ベッドに寝転がって、一人で何かブツブツと言っています。
上下薄いピンクの綿製ショートパンツとキャミソールという、もう寝るだけの格好ですね。
「くっそー 何だかモヤモヤする。ジーノってば、アイドルにデレデレしているし、マルゲリータに結婚しようって言われるし、陛下や教皇、サビーナさんにまで視線送ってさ…… あいつの周り、近頃女が増えすぎなんじゃないか?」
あらら、焼き餅なんですかね?
彼女自身はそう思っていないんでしょうけれど。
「あっ? ロッツァーノのホテルでもジーノはおかしかったな。ニーチェと仲良くなってるし、ウルスラの裸をガン見してたし。アレッツォではメリッサ先生にも…… うぬぬ」
十五歳の男の子じゃ、目に入った女の子に対して過剰に反応して、頭の中がピンクになってるんでしょうよ。
むっつりエロガキとはいえ自然の内です。
「ああもう、なんかイライラするう!」
ビーチェは枕に顔を伏せて、ベッドに脚をバタバタさせていました。
結局ビーチェは、ジーノを他の女に取られたくない、ジーノがいない自分周りの環境なんて考えられない、言葉には表さなくてもそのような気持ちがモヤッと存在しているのです。
自分の気持ちを言葉に具現化出来ない、だから余計にイライラしてるのでしょう。
「あいつ今ナニやってんだろう。もう寝たかな」
もしかして、それこそ一人でナニをやってたりしてね。いっひっひ
あ、私としたことが下品でした。
「ハァ…… アレッツォに帰ったら、またいつもの生活に戻るんだろうな。あたしはお母さんの手伝いをしなくちゃいけないけれど、あいつは将来どうするんだろ? お兄さんがいるから家を継ぐ必要も無いしさ……」
「――ああ、あいつが学校卒業したら、街を出るのかな。そんな話、したことも無かった。もしかして、マルゲリータがドナートのパーティへジーノを引き抜くかもしれない。そんなことはさせないぞっ でも、あたしに止める権利は無い…… そうなったら寂しいな…… あいつ、このアルテーナに住んでたらあたしのこと忘れちゃいそう」
ほほ…… ビーチェったら、本音がポロッと口に出ちゃいましたよ。
独り言だから言えたんでしょうが。
そうですねえ。ジーノがアルテーナへ行ってしまうことも考えられなくないです。
「やだよ…… あいつが他の女と……」
(よしっ 決めた。今晩にしよう! あたしはもう十六だし、ジーノも十五だ。もういいよね)
---
ジーノの部屋も覗いてみましょう。むっひっひ
もしあんなことをしてたらどうしましょう。
――どれ あ、ただ寝転がってるだけでした。残念……
彼の格好は白いシャツとカーキのハーフパンツ。
「えへへー エルマちゃーん…… アーンしてもらって…… うひひ」
どうやらパーティでアイドルと仲良くしていた余韻に浸っているようです。
アイドルとそんなことが出来たのは奇跡みたいなものですから、こじらせておかしなアイドルオタクにならなければ良いのですが……
――コンコン
「おい、起きてるか?」
「ああ? 起きてるぞ」
「じゃあ入る」
ビーチェが、ジーノの部屋のドアをノックして入ってきました。
表情は少しムスッとしていますが、顔が赤いですね。
この旅で二人きりになるのは珍しくなかったですが、彼に何か話したいことがあるんでしょうか。
「あのさあ……」
「ななっ なんだ?」
(ビーチェ、いつもと何か様子が違う…… 何しに来たんだ?)
ジーノはベッドから飛び起きて、何かを話しかけようとしているビーチェの姿をジッと見ています。
また何か文句を言われると思っているのか、ちょっと嫌そうな顔をしてますね。
「おまえを……」
「あ、ああ……」
「今日、おまえを男にしてやる」
「――は? 何それ」
「だから! おまえと交わりに来たんだよ!」
「なっ? 交わりって…… 何言ってんだぁおまえっっ!?」
「わかんねえのかよ! その…… アレだ、アレだよ! もういいだろ、あたしたち十五、六になるんだから!」
ギャー! ま、交わりって…… まさしくアレのことですよね?
ビーチェから…… その…… 私の口から恥ずかしいいいい!
「まずは…… キスからだ」
「あああううう…… ビーチェ、本当にどうしたんだよ?」
「うるさい、そこに立ってろ!」
「うぐっ」
呆然と立っているジーノに向かって、ビーチェはゆっくり近づいて自分の両手をジーノの首の後ろと背中にまわし、やや強引にも見えるキスをしようとしています。
「や、ちょっと、ま……」
――んちゅ
はわわわわわっ とうとうビーチェとジーノの初キッス!? たぶん……
こんなキスもあるんですねえ。
ジーノは気を付けの体勢で、手が僅かにぷるぷる震えています。
二人は無言のまま、唇と唇をくっ付けたまま何秒か過ぎていきました。
(ビーチェの唇…… ぷるんぷるん。いやそれより鼻息がこそばゆい……)
(ジーノ…… 心臓がドキドキしてるのが伝わる…… あたしで興奮してくれてるんだ)
(う…… キスってレモンの味がするんじゃなかったのか? 何にも味がしない)
(こいつ、ハミガキ済ませていて良かった…… パーティの食事でニンニク臭かったらどうしようかと思ったよ)
「くふわぁ……」
「――」
ビーチェから唇を離しました。
十秒にも満たなかったですが、二人にとってはその何倍もの時間に感じたと思います。
知識が無いので、さすがに大人のキッスではなかったですねえ。
ジーノはほぼ硬直状態。
――ゴソゴソ フワッ
あっ ビーチェがキャミソールを脱いでしまいましたよ!
Eカップだけれど、若いので張りがある素晴らしいお胸をジーノに披露しました。
ここここのまま本当に最後までいっちゃうのでしょうか。ぷるぷるっ
「あ…… え……」
「ほら触れよ」
「さっき殴られたのに……」
「悪かったよ。だからほらっ」
ビーチェはジーノの右手を引っ張って、自分の左胸を触らせました。
(うおっ とんでもなく柔らけえ…… マシュマロみたいとよく聞くけれど、それどころじゃないぞ。揉んでもいいのかな?)
ジーノは、手の平に胸を載せるようにしてふにっと軽く掴みました。
今度はビーチェが硬直状態で、目を瞑って恥ずかしさに耐えているように見えます。
ベテランの激しいのもいいけれど、若い子同士の緊張した様子もなかなか……
あらっ 私ったらお下品。
(もっと揉まれると思ったら、何でそんなに優しく触るんだよっ 余計に緊張するじゃないかっ)
「こっちも触れっ」
ビーチェはジーノの左手も引っ張って、両胸を触らせました。
彼女の性格もありますが、こういうときは女の子の方が積極的なんですかね。
(わっ わっ ビーチェのサクランボがピンピン…… 川で水浴びしてる時と全然違う……)
(なああっ!? そんなとこ親指でこねくり回すな!)
「うっ あ……」
(ひいっ!? ビーチェのあんな声、初めて聞いた……)
「はぁっ ちょっ…… やめろ……」
「あああっ わかった……」
ビーチェのぽっちは敏感のようですね……
ドキドキドキ……
あっ 私自身もいつの間にか胸に手が…… モミモミ
「おまえもシャツ脱げ……」
「お、おう……」
――ゴソゴソ ファサッ
ジーノがシャツを脱ぐと、ビーチェは彼をギュッと抱きしめました。
大きなお胸が変形するくらいに密着して。
(うわわわわっ ビーチェの胸が直にっ ふわふわなのがわかる……)
(ジーノと裸で抱っこするの、十年ぶりくらいかなあ。お母さんもお風呂で一緒の時に、そんなことあったよね。ふふふ…… あの時のジーノの身体と全然違う…… ゴツゴツしててすっごい男くさいな……)
(ひいっ!? ビーチェの息が耳にっ なんかムズムズするうっ)
抱いている間、ビーチェが一瞬クスッと笑いました。
何かを思いだしているのでしょうか。
女の子は、好きな男の子と精神的な一体感を持ちたがるものなんですね。
だからハグはそれをより高めるために効果的なんですよ。
――もう五分も抱き合ったまま…… まるでチークダンスのよう。
私も素敵な殿方と熱いチークダンスを踊りたぁぁぁぁぁい!
「ベッドへ行く……」
「あ、うん……」
ふわわっ ついに始まってしまいますかっ
私はこのまま見ていて良いんでしょうか……
いやその今も見ちゃいけないんですけれど、神として見届けてるだけですよ?
ビーチェから先にベッドへ仰向けに寝転がり、恥ずかしいのか両腕で胸を隠しました。
「早く来いよ……」
「――ああ……」
ジーノはおどおどとしながら、ベッドの上の、ビーチェの足下に座りました。
彼はどうしたら良いのかわからず、その場で佇むだけでした。
ビーチェも無言で彼の顔を眺めています。
「早く…… 脱がせろよ……」
「う、うん……」
女の子から脱がせろとの言葉!
男であればそこで脳が爆発しているでしょう。
ジーノはどうなんでしょうか。
彼は恐る恐る、ショートパンツの紐に手をかけました。
(これ、普通に脱がせばいいんだよな…… 紐を解いて……)
(は、恥ずかしいっ ジーノの顔が見られない!)
ビーチェは恥ずかしいのか、首を上向きにして目線を天井へ逸らしました。
昔、エロオヤジの定番なセリフがあったじゃないですか。
天井のシミを数えているうちに終わるよーって、ただ自分が楽しみたいだけの言葉なんですよね。
ジーノがズズッとショートパンツを下ろすと、純白レースのおぱんつが現れました。
これはシルク製でしょうか。
アルテーナで買った物はウルスラの亜空間に預けているはずだから、きっとボナッソーラで買った物でしょうね。
ビーチェの勝負ぱんつはこれなんですね。
清潔で、レースも派手すぎないデザインで、相手に威圧させないこのおぱんつは誠に素晴らしい選択だと思います。
(うわぁぁぁっ ジーノは変に思ってないよな? さっきぱんつを履き替えたばっかだし……)
(ここここれがビーチェのぱんつか…… 裸より見るチャンスが無かったけれど、こんなの履いてんだ…… 良かった…… ウルスラみたいなエロいぱんつだったらどうしようかと思ったぞ……)
「――ぱんつも脱がしていいぞ……」
「あぁ…… うん…… ゴクリ」
ジーノは両手でビーチェのぱんつに手を掛けて、ゆっくり下ろしました。
髪の毛と同じ明るい赤の、うっすらとした茂みが現れ……
ここまでは、ジーノは水浴びで見慣れていた上に、ボナッソーラのホテルでビーチェが謎の行動(第十二話参照)をした時にじっくり見てしまったわけですが……
ジーノは脱がした純白ぱんつをビーチェの足下に置き、彼女の両脚の間に入るようにゆっくり開きました。パックリですよっ
ビーチェは恥ずかしさのあまり、両手で自分の顔を塞いでしまいました。
(ははは恥ずかしいっ あんなとこ、じっくり見られるの初めてじゃないかっ)
(わっ わっ わっ ビーチェの…… こんなふうになってんのか…… お風呂でナリさんのを見てしまった(第二十一話参照)けれど、よく似てる気がする…… 顔は似てないけれど、やっぱり親子なんだな……)
「おまえも脱げってばっ あたしばっかり……」
「おっ おう……」
(うーむ…… 俺の俺が、もう爆発しそうになってる…… ひっかかって上手く脱げない……)
ついに! ジーノが自分の下着を脱ごうとしてますぅ!
彼はまだハーフパンツも履いたままなので、紐を解いて座ったままで両手をかけ、下に履いているトランクスとまとめて下ろしています。
お尻がペロッと覗いて、そこから動きません。どうして?
(俺の俺がこんなになってるの、初めて見られてしまう…… めちゃくちゃ恥ずかしいいいいっ)
「何だよ、さっさと下ろせよ」
「あ、ああ……」
(おい、そんなに俺の俺を見たいのかよっ!? それなら存分に見やがれってんだ!)
ジーノは思い切ってハーフパンツを下げ、脱ぎ捨てるように足下へそれを置きました。
すると――
――ビヨヨヨヨヨ~ン
ぶはぁぁぁっっ
あまりにもご立派過ぎて、私が見ちゃいけないモノでした!
若い男の子って、あんなふうなんですね……
ビーチェは……
寝転んだ状態のまま、ばっちり大きく目を開いてガン見をしています!
(ひえええええっ アレ…… アレがあたしの中へ入るの? 無理無理無理ってば! 水浴びの時は摘まむほどだったのに、何であんなふうになってるの? ゴム風船よりすごいじゃん!)
「こ、これからどうしたらいいんだ?」
「あたしもわかんないよっ」
二人ともまだあまりそういう知識を持ってないんですね。
友達同士で話をしなかったのかしら。
アレッツォは田舎だから『エッチなほん』が売れてないんですよね。
はううううっ この先、私は本当に見たらいけません!
目を塞いでます! でも、音だけなら……
「――」
「――」
(どどどどうするんだ? 俺、学校の性教育で何となくしか知らないんだよお! ビ、ビーチェのここに、俺の俺が…… 本当に? あひぃぃぃぃ!)
「あっ ちょっ 待てっ!?」
「なんだあ?」
「俺、もう…… あ……(空白)ああ…… あああああ……」
「うわあっ」
「あうう……」
えっ!? あの声、何が起こったんです?
チラッと見てみますか……
あ…… ビーチェのお腹や胸に何か散らばってます……
そ、そういうことですか……
若いですからね。我慢出来なかったんですね……
「あ…… あああ……」
「あの…… ごめん……」
「し、ししし、仕方ないな。あたしが魅力的過ぎたんだな。あはっ あはははは……」
「タオル、取ってくる……」
「うん……」
トランクスだけを履き直し、自信なさげにトボトボと洗面台に置いてあるタオルを取りに行きました。
この二人、次回はいつになってしまうんでしょうか。
ジーノの精神的ダメージが心配ですね……
---
翌朝、ホテルのレストランで四人揃って朝食を取りました。
二人の様子が変なのをウルスラが気づき、声を掛けています。
「どしたの二人とも? なんか元気無いね。せっかくゆうべは楽しんだのに…… あ、また二人で喧嘩したんだー マルゲリータか、あいつしつこかったもんねー」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
「ありゃ。じゃあジーノがエルマちゃーんって鼻の下を伸ばしてたことか」
「そりゃムカついたけれど、それじゃないし……」
「じゃあ何だってのよ…… お姉さんに言ってみなよ」
「――」
「――」
『まあまあ、若い二人だけの秘密なんてたくさんあるでしょう。オホホホ』
「ふーん、蜜月の夜か……」
((ギクッッ))
ビーチェとジーノは表情を強張らせ、冷や汗ダラダラのように見えます。
蜜月とは本来結婚後にハネムーンだとか仲良しをしてる様なんですが、この二人の場合は長い付き合いですから、この旅ではそれに当てはまっても良いかも知れませんね。
---
その間、マハーさん(第四十七話登場)がお部屋の掃除をやってくれています。
ジーノの部屋から始めてますね。
(若い男の子の部屋みたいですが、私と同じくらいかな? もう何泊目なのになんだか緊張してしまいます。あら? 今朝はベッドが散らかってますね……)
マハーさんはまずベッドのシーツを剥ぎ取ろうとしましたが……
上に置いてあるタオルを見つけました。
あのタオル、まさか……
「こんなところにタオルが…… あら…… 何か変わった香りが…… クンクン…… 初めての匂い…… わからない……」
ギャー! あれを拭いたタオルを嗅いじゃってますぅ! わからないって、マハーさんも純潔だったんですね。しかし何と言いますか、メイドさんは大変なお仕事ですね。
「キャッ ベトって何か着いた!? これって鼻水? お風邪をひかれたのかしら…… だけど変わった匂いの鼻水…… きっとこれは重い病気の前兆ですわっ 部屋へお帰りになったら病院をお勧めしましょう!! ふんすっ」
あららら……
タオルを放ったらかしにしたばかりに、面倒なことになりそうですね。
私、どうなっても知りませんよー




