第五十五話 サビーナの極低温魔法 vs ウルスラの超高熱球魔法
ウルスラと、十七歳でSSSクラスの魔法師サビーナさんとの対戦が始まりました。
激しい空中戦が行われ、フィールドの上空数十メートルまで張られている結界いっぱいをあちこち飛び回り、お互いに光線や光の槍などを発射し防御魔法で防ぐことを繰り返しています。
――シュピピピピピピピピピピピッッッ
――ドカカカカカカカカカカカッッッ
――ピシュイーンピシュピシュピシュッッッ
――ズバーンズバババッッッ
ウルスラはショートパンツを履いていますから良いのですが……
サビーナさんは戦いに夢中でミニのプリーツスカートから純白ぱんつが見えまくっていても、気にしないで攻撃をし続けています。
ジーノの目線を追うと、ビーチェにバレないよう済ました表情でサビーナさんばかり見てますね。
全く、むっつりスケベなんですから……
「いいねいいねえ! 久しぶりに滾ってくるわ!」
「――私もですよ。こんなにお強い方と戦うのは初めてです。ふふふっ」
二人は攻防を続けながらそう言いました。
常人では考えられないほど高速で飛び回っているわけですが、いくら魔法師といえど身体も鍛えていないと耐えられません。
そこはビーチェたちと同じようにオーラを発動出来るように訓練し、このような激しい動きが出来るわけです。
個人差はありますが、初級・中級魔法師では彼女らのような動きは無理ですね。
「これならどうかしら? 氷の地獄、コキュートスををを!!」
「むぅ?」
――シャリーーーンッ ズバァァァァァァァァッッッ パリィィンッッ
空中で二人が数メートルの至近になった瞬間、サビーナさんはウルスラに両手を向けて超極低温の魔法を放ちました。
こ、これは…… -273.15℃―― その絶対零度に近いです!
ただの氷漬けの魔法を放つように、あんなに易々と……
ウルスラの防御魔法ごと凍らせて防御機能を失わせ、すぐに割れてしまいました。
そしてウルスラの身体が一瞬にして凍り、真っ白になってしまいました。
空中戦なのでウルスラはそのまま落下していきます。
危ない! 地面に叩き付けられたらウルスラがバラバラになってしまう!
サビーナさんはどうしてそこまで!?
――ブォォォォォォォォッッッ ブワァァァァァッッッ
ウルスラの身体が急に青白く光り、すぐに紅蓮の炎へ変わりました!
彼女には超極低温魔法が効かないと!?
そしてウルスラの姿が現れ、彼女の右手は何かを持つように高く挙げられています。
その上には―― まるで太陽のミニチュアのような、直径二メートルほどの燃え滾るオレンジ色の光球がありました。
あれ、ウルスラ自身が熱くないんですかね?
たぶんそれも防御済みなんでしょうけれど……
「ふぅ…… よくもやってくれたわね…… ちょっと遅れてたら本当に凍ってたじゃない」
「あなたならば何とか防ぐと思ったからですよ」
「高評価ありがとう。じゃあ、これでボール投げして遊びましょうよ」
「はは…… そんなもので…… 冗談ですよね?」
「ええっ? 楽しいよ?」
ウルスラ、何を言ってるんですか……
あんな熱光球…… いえ、高熱エネルギーの塊をキャッチボールしようっていうんですか?
頭のネジが外れてるんじゃないですかね? ひいぃぃぃ!
「はわわわわわわっ」
「なんだ教皇?」
「あ、あれ……」
「あのビリビリとエネルギーを感じる高熱の球のことか?」
「ただの高熱の球ではありません。あれがもし爆発したら、私が張った結界が持つかどうか……」
「なっ!? あなたの結界は王都が吹っ飛ぶエネルギーでも持ちこたえるはずではないのか?」
「つまり、それ以上のエネルギーということで……」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!? ウルスラ殿は何を考えているんだ!!」
教皇がブルブルと震えてそう言うと、それを聞いた陛下が驚愕して立ち上がりました。
――まあ、当然の反応ですよね。
ですが、ウルスラ自身が自滅するようなことは有り得ないと思いますが……
『ま、まあウルスラさんが何も考えずにああやっているとは思えませんから、落ち着いて……』
「そうですよ陛下。ウルスラはバカだけど世界一頭が良いから」
『ビーチェ…… それ、フォローになってませんよ』
なんて私たちが騒いでいるうちに、ウルスラとサビーナさんとのキャッチボールが始まっていました。
高熱エネルギーの球がブオンといわせながら空中に浮かんでいる二人の間を行き来しています。
「それえっ」 ブオンッ
「ひいぃっ! 熱いんですけれどおお!!」 ブオンッ
「やー すごいねえ! 私が作った高熱の球を完璧に制御してるなんてねえ!」 ブオンッ
「こんな危険なものを投げ合って、ナニ考えてんですかああ!!」 ブオンッ
「なかなかスリルあるでしょ!」 ブオンッ
「スリルどころじゃないですぅ! 早くこれを処分して下さい!」 ブオンッ
「えー 勿体ないしー 私、楽しいよ?」 ブオンッ
「もう!! いい加減にして下さい!!」
すると怒ったサビーナさんは球をウルスラへ返さず、両手の平を上に挙げた状態でその数メートル上に球がプカプカと浮いています。
彼女は何をするつもりでしょうか?
「あっ キャッチボールをやめちゃった」
「全く…… 何もかも非常識だ」
「部屋まで暑くなってきたぞ。あの二人、よく耐えてんな」
『あのクラスの魔法師になると、無意識に耐熱魔法が身体の周りに掛かるみたいですよ』
「ふううむ…… これほどまでの魔法師が、我が軍にも情報が入っていないうえに、しかも特別秘密にしないでこうやって大魔法を使うとは、ウルスラ殿は一体何者なのだ」
皆が口々に言う中、軍務大臣はそう疑問を持ちました。
ですがきっと軍や大臣が、ヴィルヘルミナ帝国で起こった大魔王ゼクセティスとの戦いをあまり研究していなかったのでしょう。
教科書にも載っていることですが、戦いの内容まで詳しくは書かれていないようです。
詳しい様子が書かれた本は、バルの仲間が書いたヴィルヘルミナ語の著書でしか存在しないのですから、知る人も少ないのでしょう。
「ハァァァァァァァァァァ!!」
サビーナさんは両手の平を上に挙げたままの状態で、魔力を最大限に高めています。
すると――
――ズズズズズズズ――
高熱の球はゆっくりと上昇していきます。
ウルスラは驚きもせず、両手を腰に当てて眺めていました。
「おおー すごいすごい。もしかして……」
「そうですよ! 天まで上げて捨てるんですよ!」
「ありゃー 大気圏で爆発させないように気を付けてね」
「ヌヌヌヌヌ…… えいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
高熱の球は垂直に上昇し、フィールドの上に掛かっている教皇の結界をパリンと破り、まるで地球のロケットを打ち上げたように空高く上がっていきました。
球から発生する気流がフィールド内で吹き荒れています。
――ゴォォォォォォォォォォォォ!!
サビーナさんはスカートが捲れようが球を制御するのに必死になっており、全く気にしていません。
みんなは球を見上げているのに、ジーノの視線だけはサビーナさんを向いています。
「なんてことだ。サビーナ…… いや、人間が魔法を極めるとあのようなことが出来るとは……」
陛下はそう言いながら驚くばかり。
他の皆もあんぐりと口を開けて見守るしかありませんでした。ジーノ以外ね。
球が空高く上がり見えなくなるのに一分も掛かりませんでしたが、サビーナさんはまた両手を挙げているのでまだ制御しているのでしょう。
――キラッ
「あっ 光った!」
「おおっ!」
『あれは高さ五百キロまで上げて、球を爆発させたのですよ。あれくらの高さなら危険は無いですからね』
「五百キロってアレッツォから王都までと同じくらいじゃん! 一分ちょっとで行っちゃうんだなあ」
と、ビーチェとジーノが騒いでいるほかに、陛下の周りもガヤガヤとしてました。
ウルスラとサビーナさんはいつの間にかフィールドに降り立っています。
「ふぅ…… な、何とか処分しました……」
「おー ご苦労様。パチパチパチッ」
「あ、あなたですねえ! あれをどうするつもりだったんですか!?」
「えっ? 出したら自分で片付けるに決まってるでしょ。ほら、こうやって……」
――ブオンッ ゴゴゴゴゴッ
ウルスラは右手の平を上に挙げ、また同じ高熱の球を出しました。
あんな高エネルギーの塊を手品のように出すなんて、ディカプルSクラスの魔法師というのはやはり神業を越えていますね……
大魔王ゼクセティスの戦いの時から彼女の力は知っていましたし、戦闘時の理性は強かったから、あの時たかが外れて戦闘狂になってしまったバルのように監視はしませんでした。
あっ 昔話はまたの機会にしますね。
「よっと……」
――シュルルルルルルッ
ウルスラが挙げている右手の平をグーにすると、なんと彼女の握りこぶしへ吸い込まれるように高熱の球が消えてしまいました。
それを見たサビーナさんは腰を抜かし、地面にへたり込んでしまいました。
「あ…… ああっ……」
「私ならこれくらい出来る。あら? あなた、ぱんつ丸見えよ」
「ひいっ!?」 ガバッ
へたり込んでM字開脚状態だったサビーナさん、白のおぱんつ丸出しをウスルラに見られて指摘されてしまい、顔を真っ赤にしてすぐに脚を閉じて女の子座りになりました。
魔動スクリーンは彼女の後ろから映し出されていたので、幸いVIP席からは見られなかったようです。
ジーノ、残念でしたね。私は神眼がありますから…… むふふ
「ウルスラ殿はあんなエネルギーの塊を簡単に収めることが出来るのか!?」
『何もかも超越してますよ。皆さん、今ここで見たことは安易に口外なさらぬようお願いしますね。国が大騒ぎになりますから』
「わかった。皆もそれを守るようにな。口外すれば私自ら、厳しく取り締まる!」
陛下の強い口調で、室内の皆がコクコクと頷きました。
再び、フィールドでは――
「あなた、嫌いです……」
「えっ ええ…… 嫌われちゃった。でも、あなたは可愛いし、私は好きよ。うふふ」
「なっ!?」
サビーナさんは半泣きでそう言いましたが、ウルスラは何というか、大人の余裕なんですかね。
そう言っているわりに、酒癖が悪かったり生活がだらしなかったり、大きな子供が居る母親とは思えませんけれど。
「で、まだやる?」
「もういいです。私の負けで……」
「そう。私はもうちょっと楽しみたかったけれどなあ」
サビーナさんの敗北宣言で、どうやら試合終了のようです。
ウルスラはVIP席に向けて両手で大きく手を振りました。
「ウルスラ殿の勝ちのようだな。まさか君たち三人が全勝するとは思わなかった。ハッハッハッ」
「おめでとう! よくやった!」
「すごいですうぅぅ! もし魔物が現れても、あなたたちがいると安心ですね!」
「おめでとうございます!」
陛下、軍務大臣、教皇、皇弟と祝いの言葉がありました。
他の皆からも拍手があり、勝利のムードがVIP室の中に漂っています。
「いやあ、どうもどうも」
「えっへへへっ」
ビーチェは周りに手を振り、ジーノは頭を掻いたりしてました。
取りあえず王都に来た目的は半分済んだということですね。
おや、ウルスラとサビーナさんがこちらまで戻ってきましたよ。
「ただいまー! いやー、サビーナちゃん強いねえ。びっくりしましたよ」
「ウルスラ殿! アレにはハラハラしたぞ!」
「ああっ 申し訳ございません陛下。サビーナちゃん、思っていたより強くて一発ドーンと見せつけてやりたかったものだから、つい……」
「ハァ…… まあ良い。ウルスラ殿もすごかったが、サビーナよ、よくやった。おまえにあれほどの力があったとは、私もワクワクしてしまったぞ」
「あ、ありがとうございます…… 陛下」 ポッ
ウルスラは陛下に少し怒られ弁解をしましたが、それ以上はお咎め無しでした。
サビーナさんは陛下に褒められ、頬を赤く染めました。
彼女にとって陛下は憧れなんでしょうか。
いったん空気が止まったところで、ジーノが陛下へ話しかけました。
「あのー、陛下……」
「なんだ? ジーノ」
「パンタロニ・カルディに会わせて頂けるというのは、叶うのでしょうか?」
「うむ、勿論だ」
「そうなんですかあ!? やったあ!」
「すぐ会える。おーいパンタロニ・カルディのみんな、こっちへ来てくれ!」
「「「ハーイ!!」」」
「えええっ!!??」
ななななんと、VIP室の隅に座って観覧していた三人の女の子はパンタロニ・カルディのメンバーでした。
後ろにいたザマス風の男性は、マネージャーだったんですね。
彼女らは帽子を被っていて顔がわかりませんでしたが、三人ともショートパンツを履いているので、確かに!
あまり気にしていなかったせいもありますが、全然気づきませんでした。
「ジーノくぅーん、初めまして! エルマでえす!」
「ロレッタだよお!」
「ミーナです」
「は…… は…… は…… 夢みたいだ…… エルマちゃんが俺の名前を呼んでくれたあ……」
「ジーノ君、とっても強いんだね! 私びっくりい!」
エルマちゃんは両手でジーノの右手を取り、ギュッと握りました。
もうジーノの顔はだらしなくフニャフニャで原形を保っていません。
「またエロジーノが…… でも、近くで見るとみんなもっと可愛いなあ」
「あなた、ビーチェちゃん!? かわいいいいい!!」
なんと妹キャラのロレッタちゃんが、ビーチェに抱きつきました。
それを横目でチラッと見ているジーノが羨ましそうな顔をしていますね。ぷぷぷっ
「あなたもすごく可愛いわ。ねえ、マネージャー。四人目のメンバーになって良いくらいじゃないかしら?」
「うーん、そうザマスね。顔とスタイル、運動神経も申し分ないし、歌が上手ければ考えても良いザマスよ」
「へ? ひぇぇぇ!?」
お姉さん風のミーナさんが、マネージャーにそう言いました。
私、ザマス言葉をしゃべる人って初めて会いましたよ。さいザンスー
「ねえねえどう? ビーチェちゃん!」
「いやー、とても光栄だけれど、あたし歌が下手だし、アイドルって柄じゃないし、都会より田舎が性に合ってるしなあ」
ロレッタちゃんに抱きつかれたまま煽られるビーチェでしたが、彼女はその気が無いようですね。
「そうザマスか…… 残念ザマスね」
横でビーチェの言葉を聞いていたジーノはひやひやしていましたが、アイドルになる気が無いことを聞いてホッとした顔になりました。
ビーチェが遠い存在になるのは考えたくなかったんでしょうね。
――パンッ
「さて、試合はこれでお開きだ。本来ここで表彰を行うつもりだったが、念のために最低限の人間だけをここに呼んだから式にならない。常識を逸した戦いだったから、人を外して正解だった。改めて、明後日の午後に正式の表彰式を王宮にて執り行うことにした。それまで四人は緩りと王都に滞在するが良い」
陛下は場の空気を変えるため一回手を叩き、表彰式について説明しました。
確かに陛下が仰るようにしたほうが良さそうですね。
すぐにアレッツォへ帰ると思いましたが、今日明日は王都でゆっくり出来そうでまた美味しいモノが食べられそう!
あら、陛下の話はまだ続きがありますよ。
「で、私とサビーナは午後から学校だ」
「ありゃ、陛下は学生だったのですか?」
「何を言う。私はうら若き十七歳だから学校へ行くのは当然だろう。ビーチェはどうなのだ?」
「田舎だから高等学校が無くて、あたしは外の街へ出るのが嫌だから領主様のところで令嬢と一緒に家庭教師の…… えへへ」
ビーチェは週にたった二、三回だけ勉強しに行ってるのは誤魔化しましたね。
「ふむ、そうか。で、学校から帰宅次第に王宮の庭でパーティを行う。服装は普段着で良いからな。このパンタロニ・カルディも一緒だぞ」
「ふえええええ!! 地を這ってでも行きますよ!!」
今晩はパーティですって!
王宮の料理…… じゅるっ 楽しみですう。
パンタロニ・カルディも来ると聞いて、ジーノはあんなことを言ってますよ。
エルマちゃんたちは彼の言葉を聞いてクスクス笑っています。
単に、面白い男の子ねクスクスなのか、バッカでえぇぇクスクスなのか、どっちなんでしょう。
はぁ…… 私の性格が悪くなってきた気がします……




