第五十四話 ウルスラとサビーナの激しい魔法戦
ジーノとマルゲリータさんとの対戦は、ジーノの勝利に終わりました。
ジーノは、マルゲリータさんが放ったオーラの網の中に捕まり叩きのめされたのですが、彼がノーブルを発動したことに加えて、女性のお腹をムズムズさせるエッチなオーラが出る技を使うことで勝てました。
ジーノが使ったそのキノーズ・ノーイェという技、バルの師匠が作ったというのですが最初に気づいたのはウルスラだけで、それから彼女に教えてもらった私以外の女性は何が起こったのかわからないようでした。
ビーチェと陛下は身体が熱くなっただけ、教皇やアデーレさんら三人はトイレへ駆け込み、対戦で至近にいたマルゲリータはズボンを濡らして失神してしまうなど効果は個人差があるようですが、ジーノの技の作用だとみんなが知ってしまったらきっと彼は総スカンを食らうに違いありません。
ウルスラは逆に喜んでいたようですが――
まあ、私も黙っておくことにします。
「さて、次は私だなー」
そうつぶやきながら、ジーノの技のせいなのかどこかすっきりした表情でスクッと立ち上がるウルスラ。
ショートパンツから、七百歳越えの経産婦とは思えないスベスベスラッとした美脚を覗かせ、VIP室の出口へ向かいました。
彼女の魔法師クラスはディカプルSという天文学級の強さなのですが、その判定をヴィルヘルミナ帝国魔法師協会の誰がしたのか、彼女についてはいろいろ謎に包まれています。
対戦する相手はもはや負け確定なのですが、彼女の強さを知る者は僅かです。
どんな戦いを見せてくれるのか、あまりあっさり終わってしまうと興醒めしてしまいますが彼女はきっと何かやってくれるでしょう。
「ウルスラ、頑張ってねー」
「ああ、適当にやるよー」
と、ビーチェの声に右手を軽く振りながら応答し、VIP室を退出して行きました。
そのウルスラの余裕そうな様子を見た、陛下を始めとした王都の人たちは彼女に違和感を持ちました。何故ならば――
「陛下、三人目の魔法師はどんな方なんですか?」
ビーチェは隣に座っている陛下に尋ねました。
私たちはこの魔法師について何も情報を持っていませんからね。
「うむ。彼女はサビーナ・デル・ペッツォ(Sabina Del Pezzo)といって、私の同級生でな。この国一番でSSSクラスの魔法師だ。ウルスラ殿も相当手練れの魔法師と見受けられるが、どんな魔法戦を見せてくれるのか楽しみだな。ハッハッハッ」
「へえー、そうなんですか。ということは、あたしのひとつ年上で国一番だなんてすごいなあ」
ガルバーニャ国で一番の魔法師で、十七歳の女の子ですって。
SSSクラスではウルスラと戦って勝ち目が無いですが、それでも超上級魔法師同士の戦いは大変なことになるでしょう。むしろ、戦いが成立しないかも知れません。
それにしてもおいおいじゃない十七歳でSSSクラスとは、エリート天才魔法師は自分の力に驕り高ぶることがよくある話なんですが、彼女はどうなんでしょう。
「うおーい、戻ったぞー」
ウルスラと入れ替わるように、フィールドからジーノが戻ってきました。
ノーブルを発動したことにより怪我は見当たらなく、ヘラヘラとした顔ですね。
「おいジーノ、すごい戦いだったな! あたしも身体が熱くなってしまったぞ!」
「ふむ、私も熱くなった。見事な戦いだ!」
「あはっ どうもありがとうございます」
(熱いって…… こんなところまでキノーズ・ノーイェが効いたのかな。陛下とビーチェがリタみたいに効いてたらヤバかったな。チラッ―― アデーレさんたち、顔が真っ赤だ。うげっ もしかして…… 知らん顔しとこっと……)
陛下に褒められたジーノは頭を掻きながら笑って、トイレから戻ってきたアデーレさんや教皇らをチラチラと見ていました。
ビーチェと陛下が言った、身体が熱くなったという言葉に反応したのでしょう。
この二人は性的に身体が熱くなったとは気づいていないようですが――
いえ―― 個人差に加えて、そのような経験がまだだからこそだと思います。
そしてアデーレさんたちは、自分が性的に昇天したとは恥ずかしくて言えないに決まってます。
「さて―― おっ ウルスラが出てきたぞ。相手の魔法使いも――」
ジーノが席に着こうとしたときに、ウルスラがフィールドに現れました。
ウルスラの少し後で、反対側の扉から対戦相手の魔法使いも出てきました。
魔動スクリーンに映し出された姿は…… ほほう。
黒髪のストレートロングヘアに前髪パッツン、上下黒基調でブレザーとミニのプリーツスカート、杖は持っていないようですね。
学校の制服っぽくも見えますが……
スレンダーで背の高さはビーチェと同じくらいでしょうか。
「うひゃ! すげえ可愛い!」
「おまえはそこばかり見てんのか!」 バシッ
「痛あっ!」
いつものようにジーノがビーチェに頭を叩かれています。
彼女の力で毎度叩かれていると、脳細胞がどんどん減っちゃいませんかね?
陛下は二人を見てハッハッハッと笑っています。
ジーノがすごく可愛いという魔法使いサビーナさん、何故かおどおどしているようですが――
(うううっ あのケバい魔法使い、何なんでしょう…… 感じる魔力はせいぜいAクラスなのに、普通のAクラスの魔法使いとは波長が全然違います…… クラス偽装をしてるんでしょうが、私には通じませんよ)
両者がフィールドの真ん中で、五メートルほどの距離をおいて立ち止まりました。
ウルスラは微笑し、サビーナさんは変わらずおどおどビクついています。
「サビーナ・デル・ペッツォです…… よ、よろしくお願いします……」
「うふふ、ウスルラ・ユーティライネンよ。よろしくね」
「あの…… お名前、外国の方なんですね。外国人の魔法使いとお手合わせするのは初めてです。どちらの国なんですか?」
「ずっと北の国、カーマネン国よ。あなた、とても可愛いわね」
「か、可愛い? 私がですか……??」
(ううっ 小綺麗にはしてるつもりですが、この力のせいで男の子には声を掛けられないし…… ハッ!? ウルスラさんでしたっけ。あの人にジロジロ見られている気がします。もしかして魔法でスキャンされてるんじゃ?)
「勿論よ」
(うーん、魔力もオーラも思っていた以上に力がありそうね。SSSクラスと聞いているけれど、実質SSSSクラスか…… ヴァルプリに匹敵するとんでもない娘がこの国にいたとは気づかなかった。少し怯えている様子、AかBクラスに抑えている私の魔力にも気づいていそう…… 負けるとは思わないけれど、苦戦しそうね)
二人は軽く自己紹介をし、一見和やかですがお互いに相手を模索してるように見えます。
前代未聞の、超上級魔法師同士の戦いがこれから始まるとは思えない空気ですね。
「――さっ 始めましょ。全力で来て良いのよ」
「余裕ですね……」
(ならば早速超強力な麻痺魔法ポテンテ・パラリジ(Potente Paralisi)を掛けさせてもらいます!)
――ペィーンッ
「弾かれたぁ!? 最高レベルの麻痺魔法なのにいとも簡単に……」
「私に麻痺系の魔法は効かないわ。それだけじゃない。即死、眠り、精神操作、あらゆる攻撃補助魔法は対策してる。私もそれは使わないから、直接攻撃魔法を使いなさい。あ、教皇が掛けた結界魔法が壊れない範囲でね。それもわたしたちではちょっと難しいかしら。ふふふ」
「ううう……」
(消耗戦になりそうですが、仕方がありませんね……)
サビーナさんが強力な麻痺の魔法を掛けても、ウルスラにはあっさり弾かれてしまいました。
この世界の魔法は原則無詠唱で、杖は威力を増幅させたり調整するものですが今回は試合なのでその必要も無く、手を使うか相手に向けて意識を集中するだけです。
魔法が使えない人から見ると、攻撃方法によってはオーラを発動しているようにも見えます。
「せっかく陛下の御前なんですから、ちょっとくらい派手にやって楽しんでもらいましょうよ」
「――」
サビーナさんは、ウスルラの言葉に反応せず黙っていましたが、急に宙へ浮き上がりました。
「そうこなくっちゃ」
彼女に続いてウルスラも宙に浮き上がります。
その途端、サビーナさんが白いレーザー光線のような魔法でウルスラさんへ猛攻撃が派始まりました。
――ピシュピシュピシュピシュピシュッッッ
――ドカドカドカドカドカッッッ
しかしウルスラはドーム状に自身を覆っている防御魔法で跳ね返しています。
というより吸収しているようにも見えますね。
「あれれ? リタの攻撃にそっくりだ!」
「似てるようだが全く別物だ。リタは自分のオーラで、サビーナは魔素を凝縮させて発射している」
「へえええ、そうなんだー」
ジーノの言葉に、陛下が説明をしています。
彼の無作法な言葉でも、陛下は随分気さくなんですよね。
「そんなんじゃただの無駄撃ちよー」
「ならばこれならどう!?」
――ピシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュッッッ
――ガガガガガガガガガガガッッッ
「おっとっと、やるねえ。でも――」
「なっ!? そんなデタラメな!」
サビーナさんは光線の数をさらに増やし、光線を曲げてウスルラの上下左右全方向へ攻撃をしました。
しかしウルスラは防御魔法でそのまま光線を反射し、全てサビーナさんへ向けて跳ね返しました。
――シュシュシュシュフヮァァァァァァァァッ
(よっ よかったぁ…… 解除魔法も作っておいて…… こんなこともあろうかと、だなんて想像もしてなかったけれど……)
サビーナさんは跳ね返ってきた自分の光線を別の魔法で霧散させました。
恐らくサビーナさんの光線魔法は他の魔法師には使えない自分専用で、それで霧散させることが出来るのですね。
他の魔法師が霧散魔法を使えたら意味がありませんから。
「おおっ…… おおおっ!」
「いかがなさいました? 陛下」
両手を握りプルプル震えてる陛下に、ルイーザさんが尋ねました。
まさかオシッコを我慢してるわけじゃないですよね。
「すごい…… こんなすごい魔法戦を見たのは初めてだ! まさかサビーナが押されているなんて夢を見ているようだ!」
「陛下、私も信じられません。ウルスラ殿があれほどの力を持っているとは……」
「試合を非公開にして正解だった。民衆に紛れて外国に知れ渡ったら驚異の誤解があるやもしれん」
「全くです。彼女はカーマネン国出身らしいですが、本来の力をずっと隠してこの国へやって来たんでしょうね」
「当然だ。ウルスラ殿の噂は外国からも聞いたこと無かったし、本人も自分の力の強さを承知で生きてきたのだろう」
陛下の言葉に、軍務大臣が応えました。
確かに特別に大きな力を持っている者がいれば十分に兵器となり得るので、外国にいらぬ誤解をされて戦争の火種になることさえあるのですから。
「ああっ 今度はオーラランスそっくりだ!」
「ウルスラはオーラアローに似てる!」
次の戦いはフィールドに張られている結界をいっぱいに使い飛び回り、サビーナさんは光の槍を、ウルスラは光の矢で攻防を繰り広げています。
VIP席から見ると、まるで光の針が無数に飛び交っているように見えます。
宙に浮いている魔動スクリーンは物質ではないので、魔法が当たっても壊れません。
そのスクリーンにちょうどサビーナさんが大きく映し出されましたが――
「うおっ!? 白だあ!!」
「おまえはまたそっちかあああ!!」
「うげっ!?」
――ボカァァァァァッッ ぶぎゅる……
なんとサビーナさんの黒いプリーツスカートの中が映し出されてしまい、清純派の純白おパンティーが見えてしまいました。
ジーノはソレを見てあからさまに喜びましたが――
その瞬間、ビーチェはジーノの頬をぶん殴り、VIP室の壁にまで吹っ飛ばしてしまいました。
『ビーチェ。たまたま見えたぱんつなのに、過剰反応ですよ……』
「だってあいつのニヤニヤした顔を見たらつい反射的に……」
『ハァ……』
その様子を見ていた皆は苦笑い。
ずっと後ろの席で目立たず観覧している皇弟アルバーノ様は、ちょっぴり顔を赤くしてます。
イケメンなのに女慣れしてないんですかね。
「痛え……」
「ああ…… 悪かったよジーノ……」
「ビーチェにぶっ飛ばされるのは毎度のこととはいえ、これじゃ耐久力の修行だぞ」
「――だから悪かったってば。おまえもぱんつ見たぐらいでいちいちヘラヘラすんな!」
「うう……」
ビーチェが謝っていても、結局怒られるのはジーノの方。
彼はビーチェやナリさんの裸を見慣れていても、まだ十五歳ですから他の女の子のパンチラは新鮮なんですかねえ。
この先、どれだけラッキースケベに遭遇するのでしょうか。うぷぷっ




