第五十三話 ジーノの妖しい作戦
ジーノと、体術格闘家のマルゲリータさんとの対戦。
マルゲリータさんの激しい攻撃によりジーノは捕まえられてしまいますが、彼はバルから習った特殊なオーラでマルゲリータさんの身体に快楽を及ぼし、逃れられたのでした。
「くっ…… 何なのよこれ……」
マルゲリータさんはそう言いながらヨロヨロと立ち上がった時に――
「――?? あっ ひいっ!」
(あっ お腹が…… あっ あっ あっ ああ…… 軽くイッてしまった…… はああ…… なんで!?)
彼女の足腰がガクガクと震え、地面へへたり込んでしまいました。
も、もしかしてアレは昇天してしまったのでしょうか。
ジーノの技【キノーズ・ノーイェ】、もし悪用したら女の敵になっちゃいますよ!
バルは無闇に使っている様子は無いし、ジーノは元々女性に対してヘタレなので心配は無いかも知れませんが……
(こ、こんなところであたし!? ジーノのオーラが高まったら急にお腹の下がムズムズして気持ちよくなって…… こんな子供にあたしがイカされたっていうの?)
「ねえ君! さっきの変なオーラは何なの? あたしに何かした!?」
「え? 何のことだか……」
(やっぱここで使うのヤバかったかなあ…… 思いつきでバルに教えてもらった技を使ってみたけれど、人間に使うのは初めてだったし、こんなの誰かに試せなかったし…… ビーチェに使ったら絶交されてしまう。それよりも、DTの俺が使って良い技なのか…… うううっ どうしよう!)
「ふん、そう…… シラを切る気ね。いいわ、続けましょう」
マルゲリータさんは再び立ち上がり、両拳を握り組み手の構えを取りました。
ジーノも同様に構えます。
(迂闊にこの子と近接戦闘をするとまた同じようにヤラレちゃうわね…… 陛下がご覧になっているのに、無様な戦いは出来ない。ラジ・ディ・ルーチェも単調になっちゃったし、ここは見せ場を作らないと!)
(もう一回あのおっぱいをモフモフ…… いや、そんなこと考えちゃいられねえ。さてどんな手で攻めていこうか……)
二人とも、どのように戦いを進めていくのか決めかねているようで、距離を取って構えたまま膠着している状態です。
おや、マルゲリータさんが何か言いそうですよ。
「フフフ…… 今からもっと楽しいことを陛下たちへご覧に入れよう」
「へー、俺も楽しいのかな?」
「とおっっっても楽しいよおー うっふっふっふっ」
マルゲリータさんは不気味な笑いをしながらそう言いました。
ジーノの表情はゾクッとしていましたが、いつもビーチェにぶっ叩かれている彼ですからきっと無意識にそうなったのでしょう。
――スタタタタタッ 「それっ!」
――ピシューーーン ピシューーーン
「なんでえ、また光線かよ! 芸が無えな!」
マルゲリータさんは再び五本の指先から光線を出してジーノを攻撃しました。
いくつも光線が放たれていますが、彼はもう慣れたのかひょいと躱すだけ。
でも彼女は別の戦法があると思いますよ!
ジーノ気を付けて!
「じゃ、こういうのはどう?」
――ピシューーーーンッ ヒュルルルルルルッッ
「なっ!?」
マルゲリータさんの光線攻撃、ラジ・ディ・ルーチェはグニャッと網の形に変形し、ジーノを捕まえました。
光りの網は鳥もちのようにジーノの身体にべったり絡みつき、彼はもがいていますが抜け出せそうにありません。
「ぎゃああ! なんだこれ!? うわっ 身体にひっついてるぅぅ!?」
「ハッハッハッ 【アル・ネット・デラ・ルーチェ(Al netto della luce)】の心地はどうかな? もがけばもがくほど身体に粘着し、絶対に逃げられないよ!」
「ぬぁぁぁ!! くそぅ! 切れねえ!」
「切ろうっていうの? そんなの対策済みよ」
ジーノは手刀でオーラの網を切ろうとしても、手に網が引っ付いてしまっているので切れようがありません。
あああ…… このまま負けちゃうのでしょうか……
VIP席では――
「先生はアル・ネット・デラ・ルーチェを使ったか…… あの技は訓練の時に私もやられたことがあってな、何をどうやっても破ることが出来ない」
「ううう…… ジーノは負け確定かな……」
陛下はそう言うと、ビーチェは気を落としました。
いつも怒鳴ってぶっ叩いている相手でも、何だかんだ言って大事な幼馴染みですからね。
「抜け出せるとすれば、彼が先生以上のオーラへ高めるしかない。そう、君たちが言うノーブルならば……」
「ノーブルって、慣れていない場合は命にかかわるぐらいの危険な攻撃にならないと発動出来ません。あの技はそうじゃないから今のジーノでは無理ですよ」
「そっかあ…… バルは修行の時、簡単にノーブルを出していたもんなあ」
陛下はノーブルについてほのめかしましたが、ウルスラは否定しました。
バルやウルスラのように余程熟練していないと簡単に出せるものではないでしょう。
――ジーノたちに動きがあるようです。
「ほーら! お次はメインアトラクションだ!」
マルゲリータさんは捕まえたジーノの網ごと、ぶんぶんと大きく振り回しました。
みかん一個が入った網袋をぶるんぶるん振り回すように。
ジーノが入った網を片手で回しているんですから、彼女は相当な力の持ち主ですね。
「ああああばばばばば目が回るううううう!! おええええええ!!!!」
「おらおらっ 参ったと言ええええ!!」
ジーノはまるで物のように振り回され、網の中で苦しみ叫んでいます。
大変な重力が作用されているはずですが、修行で森の中を飛び回りバルに痛めつけられてるためそれで済んでいると思いますが……
「言わねえなら、それぇぇぇ!!」
――ブルンブルンブルンッ ビターーーーンッッ
「ガハアッッ」
振り回されても耐え続けているジーノですが、マルゲリータさんは光りの網を地面に叩き付けました。
こ、これはあまりにも…… ジーノのダメージが心配です。
彼を叩き付けた後、また振り回し始めました。
「ほらもういっちょー!!」
――ブルンブルンブルンッ ビターーーーンッッ
「ガッ グハッッ」
こんなの見ていられません……
マルゲリータさんは、一気に瀕死状態になるまで叩きのめして負けさせるのか。
それとも、ジーノにノーブルを出させるためにわざと窮地に追い込んでいるのでしょうか。
いずれにしても無事では済まされなくなってきました。
「先生! やり過ぎだ! あれではジーノが死んでしまう!」
「ジーノのオーラが小さくなっていく…… そんな、冗談だろ?」
「うーむ、リタにはもう止めさせたほうが良さそうだな」
「はわわわ…… すぐに回復魔法の準備に行った方が良さそうですね」
VIP席で見ている皆が心配し、軍務大臣は試合中止をほのめかし、教皇はジーノに回復魔法を掛けに行こうフィールドへ向かおうと立ち上がりました。
確かにビーチェが言うようにジーノのオーラがどんどん小さくなっており、心配です。
その間にもマルゲリータさんはジーノを振り回し地面に叩き続けるのを繰り返しています。
「ちょっと待って!」
「えっ!?」
ウルスラが、VIP室から急いで出ようとする教皇に声を掛け、制止しました。
そう言う彼女は美しい脚を組んで、冷静にジーノの方向を見ています。
「どうしてですかウルスラさん! 早く停めないとジーノさんが大変なことに!」
「ジーノのオーラは小さくなっているんじゃない。抑えているんだ」
「「「「「ええっ!?」」」」」
「ディアノラ様ならわかるでしょう」
「――た、確かにオーラの波が安定しています。ずっと辛抱しているような……」
「――あっ!? 本当だ!」
ウルスラは、ジーノのオーラをそう感じていたようで、私とビーチェも集中して彼のオーラを感じ取ってみたらウルスラの言うとおりでした。
「あなたたちはそんなことまでわかるのか!?」
「はい、鍛えております故に……」
陛下がそう言うと、ウルスラは応えました。
私やウルスラは当然ですが、バルの修行を受けたビーチェもオーラの扱いは長けているはずです。
「うーん、よく思い出したら、バルの修行であれくらいならよく叩きのめされていたよなあ。耐えられないこともないか」
「な…… なんという……」
ビーチェがそう言うと、陛下は驚愕。
次は教皇が質問をします。
「ビ、ビーチェさん…… あなたたちはどんな修行をしてきたんですか……??」
「えっと―― オーラの塊を一秒間に何千発も受けたり、街の外まで何キロ先へ投げ飛ばされたり――」
「それではやはり、ドナートも先生も最初から勝ち目が無いということだったか!」
ビーチェが答えると、陛下はさらに驚愕。
軍務大臣は難しい顔をし、無言で腕を組んでました。
まあ、私も覗いていたことを思い出すとバルの修行はハチャメチャでしたね。
とにかく修行開始からオーラに目覚めることを最優先に、そこから強化していったんですものね。
――マルゲリータさん、まだぶるんぶるんびたーんと続けています。
ジーノは叫び声を出さず、機会を窺ってじっと耐え忍んでいるように思います。
「はっはっはっは!! まだかまだか! 早くギブアップしないと本当に死んじゃうぞお!!」
――ビダーーーンッッ バチィィィィンッッ
「……」
ジーノを何度も何度も地面に打ち付けるマルゲリータさん。
彼のオーラを感じ、ノーブルに目覚めないと確信しているのでしょう。
ですが今のジーノのオーラは、殻の中で今にも爆発しそうな気配です。
それに気づいていないマルゲリータさんは、このままだと勝つことは出来ません。
ジーノ、早くっ どうしたのですか!?
「……ぅぅ」
聞こえます。私の、神の耳でしか聞こえないジーノの小さな呻き声が。
オーラの波が完全に水平状態になっています。
一切乱れがない、完全な精神集中状態になっている証拠です。
いよいよでしょうか!?
「ハァァァァァァァァァァ!!!!」
――ズバァァァァァァァァァァァンッッッ
「な、なにいいいいい!!??」
ジーノの身体から強く青白い光が放たれ、マルゲリータさんのオーラの網が飛び散って、破られてしまいました。
彼の青白い光…… あれはノーブル!
ジーノもとうとうオーラをノーブルへ昇華させたのですね!
でも特別窮地に陥ったわけでもないのに、どうして?
「ジーノの作戦勝ちね。あの子の耐久力なら地面に叩き付けられたくらいではダメージが少ない。でもオーラの網からは抜け出せなかった。そこで精神集中させて一気にノーブルを爆発させて抜け出したんだよ」
「へぇぇぇ! すげえじゃんジーノ!」
「先生は、ジーノがノーブルを出さないと見込み違いをしてしまったわけか」
「うーむ、つまりなんだ。ジーノのオーラが小さくなっているのを、ノーブルを出すことは無いだろうとリタが想定出来なかったというわけか」
「そういうことです。しかもジーノがノーブルをコントロールして発動したなんて、私も想像出来ませんでした。見事です」
ウルスラが説明すると、ビーチェと陛下、軍務大臣から反応がありました。
マルゲリータさんは驚き、ブルブルと震え立ち尽くしています。
「そ、そんな……」
「うりゃぁぁぁぁ!!!!」
「ひっ ひいぃぃぃぃぃ!!」
ジーノが猛ダッシュでマルゲリータへ向かって行きました。
マルゲリータさんは必死にラジ・ディ・ルーチェで攻撃を仕掛けましたが――
――ピシュピシュピシュピシュイーーーーン
――ピシュピシュピシュピシュイーーーーン
――バスッ バスバスバスッ
ジーノの身体に光線がまともに当たっても、光が反射するようにダメージになってしません。
彼はあっという間に駆け寄り、マルゲリータさんにベアハッグを掛けました。
え? ベアハッグですって?
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
「ギギギギギギギ……」
ジーノはマルゲリータを力一杯締め付けてますが……
ちょ、ちょっと。自分からパ◯パフしにいっちゃダメじゃないですか!
ビーチェの顔を見ると……
あ…… 赤鬼ですね。
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「あひぃぃぃぃぃぃぃ!!」
やっ!? 私の身体が熱い!
もしかして!? ジーノはまたキノーズ・ノーイェを掛けてますよ!
しかもノーブルと合わさった強力なエロノーブルです!
ああああっ お腹の下がキュンキュンきちゃいますうぅぅ!!
「はわわっ 何ですかまた!? ト、トイレへ行ってきますぅ!」
「あふっ 私も!」
「ふひっ 私も……」
あらら…… 教皇、アデーレさんとルイーザさんまで慌ててトイレへ行ってしまいました。
私も行ってこようかしら……
ああ…… ジーノのことが気になりますし、我慢します……
「また身体が熱くなってきたが…… みんなどうしたんだ?」
「変だなあ。あたしもまた熱くなってきましたよ」
謎の女の子三人も帽子で顔を隠しながら俯いていますが、やはり陛下とビーチェだけはあまり効いていないようです。
ウルスラは…… ウゲッ!? なんて露骨な?
「うへへ……」
赤茶のショートパンツの上から、手で股間をモゾモゾと擦っています。
このド変態賢者め!
あっ そういう私もお腹がぐにゅぐにゅしてきますうぅぅ!
「おりゃぁぁぁぁぁ!!」
「あひゃひゃあひぃふひほへあうっはっはっううううっっ!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「あはっ うっ はっ はあああああああああああああん!!」
――クタッ
ジーノにベアハッグで捕まえられているマルゲリータさんはグッタリしてしまいました。
だらしないアヘ顔になってますし、あの様子では激しく昇天してしまったようですね。
――何てこと。私も同時にビクンッとイッてしまいましたわ……
あとで下着を換えましょう。シクシク……
ウルスラさんは…… ニヘラと満足げな表情をしてました。
神と賢者が二人揃って変態とは、自分で嘆かわしくなってきます。
「むう? 勝負がついたようだな」
「おおっ やったなジーノ!」
「凄い戦いを見せてもらった!」
「おーい! 勝ったぞおお!!」
ジーノは、アヘ顔で気絶したままのマルゲリータさんを地面にそっと寝かせ、こちらへ向けて両手で手を振っています。
マルゲリータさんの股間部分がべったり濡れているようですよ。あちゃあ……
すぐに近衛兵がやって来て、彼女を担架で運んで行きました。
さて、次はウルスラさんと、三人目の戦士との対戦です。
三人目は魔法使いとのことですが、どんな人なんでしょうね。




