第五十一話 Gカップおっぱいと光線の拳
二年前の修行で、オーラを越えるノーブルに目覚めていたビーチェとジーノ。
ノーブルは窮地に追い込まれた場合でないとなかなか発動しないのですが、ドナートの苛烈な攻撃によりビーチェは無事に発動することが出来ました。
この先の展開は如何に?
――ズダダダダダダダダダダダダッッ
ビーチェがノーブルを発動し始めた最中も、ドナートのメッツァルーナ乱れ撃ちが彼女に向かって隙間無く攻撃が続いています。
ドナートはビーチェの異変に気づくも、あまり動揺せず攻撃の手を緩めないのは流石ですね。ですが……
「ハァァァァァァァァァァァ!!」
ビーチェの身体は青白く光り、メッツァルーナ乱れ撃ちの三日月か半月状の塊がたくさん彼女にぶち当たるも、霧散しています。
これにはドナートが度肝を抜いています。
「なっ!? そんなバカなああ!?」
「いくぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ビーチェは右手の拳を腰のあたりで構え、一気に高速拳を繰り出します。
一秒間に何万発!?
いけませんビーチェ! ドナートが死んじゃいます!!
――バゴォォォォォォォォォン!!!!
「ガフッッ?????」
音速を遙かに超えた速度で、衝撃波のものすごい音があたりに響いています。
ドナートは何が起こったのか理解出来ず、あまりの速さで私は彼がどうなったのかよく見えませんでした。
――どうやら観客席の壁に打ち付けられたようです。
教皇が掛けたバリアが彼を受け止め、大きな怪我は無いように見えますね。
「はぁ はぁ ふぅ…… 勝ったのかな?」
ビーチェは息を切らしながら、力尽きたようにフィールドで立ちすくんでいました。
ドナートは壁の下でのびています。
彼がこのまま立ち上がれば試合続行になりますが……
おや? 彼の右手がゆっくり上がろうとしています。
「ありゃ? まだやる気かなあ……」
ビーチェは一瞬身構えましたが、ドナートのオーラを感じて悟ってしまいました。
もう動けないと。
最後の力を使い果たす寸前の彼女はヨロヨロと、彼の方へ近づいて歩いて行きました。
「おーい…… まだやるかあ?」
「――うぅ……」
ドナートは弱い声を出しながら、上げた右手を小さく振りました。
ビーチェはそれに注目しています。
「こ…… 降参だ……」
「え? やった…… 勝ったぞおおおおおお!!」
ドナートの降参を聞いて、ビーチェはVIP席のほうを向き万歳のポーズ。
「おお! ビーチェが勝ったのか!?」
「見事だ! 良い戦いを見せてもらったぞ!」
「なんとあのような少女がドナートに勝ってしまうとは、ゴッフレードを倒したのも納得だな! ハッハッハッ」
陛下や軍務大臣からも賞賛の声がありました。
教皇やアデーレさんたちも驚きの表情です。良かったですね。
おや? VIP席の隅にいつの間にか見かけない女の子三人と男性が一人座っています…… 誰でしょう?
「ドナート、あたしの手に掴まれよ」
「スマンな……」
ビーチェは、すぐ立てそうにないドナートに手を貸して立ち上がらせようとしました。
しかしドナートの右手が勢い余って…… あらら!?
――ぽにゅっ モミモミ……
「え? 何で柔らか……? あっ!?」
「な…… ああ…… あたしのの胸をををを……」
「いや! 違うんだ! 目がかすんで…… 信じてくれ!」
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ドナートはビーチェの攻撃によって目がかすんでよく見えなかったようで、彼女の手を掴むつもりがおっぱいを掴んでしまい、あろうことか揉んでしまいました。
ドナートにとってラッキースケベかも知れませんが、ビーチェの顔はみるみると鬼の顔に豹変しています。
そういえばジーノって、ビーチェの胸を触ったことがあったんでしたっけ。
「こんの野郎ぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「まっ 待て! 話を聞け!」
「聞く耳なんか無い! くらええええええ!!!!」
――ボゴォォォォォォォォォォ!!!!
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ビーチェは怒りにまかせてドナートの全身に連続高速拳をぶちかましました。
ドナートは避けることも出来ず、ただビーチェの攻撃を受けて絶叫をあげています。
おおお…… 怖い怖い。
一方、VIP席では――
「――あれ? もう試合は終わったはずなのに何やってんだ?」
「あのドナートってやつ、ビーチェの手を取ろうしてたら間違えておっぱい揉んじゃったんだよ。うぷぷぷぷぷっ」
ジーノが彼らの行動に疑問を持っていると、ウルスラがそう応えました。
魔動スクリーンにはその様子が映されていなかったのですが、ウルスラは持ち前の魔眼魔法で見ていたのでした。
「げっ あいつ殺されちゃうんじゃね?」
(あいつの生おっぱいは見放題だったのに、前に修行してて水浴びの時に冗談で触ってみたらボッコボコにされたんだよなあ……ブルブル あいつの感覚わかんねーよ)
「あっはっはっはっはっ! これは愉快だハッハッハッ」
「陛下、いけません。笑いすぎですよ…… うぷっ」
と、大笑いしている陛下を執事のルイーザさんが窘めます。
でもルイーザさんも笑いを堪えてますよ。
「あ…… しまった。やり過ぎたかな…… オ、オーラは感じるから生きてるよね……」
胸を触られた怒りから我に返ったビーチェは、目の前で顔までボコボコになっているドナートの姿を見てゾッとしていました。
すると、どこからともなく王宮の近衛兵が二人やって来て、ビーチェは彼らに何も咎められずVIP席へ行くように言われ、ドナートを担架で運んでいきました。
「い、良いのかな……」
申し訳なさそうにそう言いつつ、ビーチェはVIP席のほうへ向かいました。
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「よっしゃ! 次は俺の番だな!」
「ジーノ、二番目の戦士も強いぞ。私を楽しませてくれ」
「はい! 頑張ります!」
ジーノが威勢良く席から立ち上がり、陛下は彼を激励しました。
いよいよ第二戦目、ジーノの対戦相手は彼と同じ素手で格闘するタイプとのこと。
どんな戦いを見せてくれるのでしょうか。
――ビーチェと同じく、先にジーノがフィールドの真ん中に出ました。
彼はどこか緊張しているのか、直立不動で相手を待っています。
(ひえー いざここに立ってみると、すげえ広いんだなあ。もし観客席が埋まっていたら気になって戦えないかもなー)
ジーノがフィールドに立ってから一分もしないうちに、向こうの扉から対戦相手が出てきました。
あれは女性?
ショートヘアの黒髪に、胸の部分が大胆にカットされている黒いタンクトップ、軍服ズボン…… カーゴパンツっていうんでしょうか。そんな姿でした。
お顔はやや童顔ですが眼がちょっとキツめですね。二十代前半ってとこでしょうか。
薄い緑色の瞳は、ガルバーニャ国で黒髪の人に多い特徴ですね。
(わっ すっげーおっぱいの女の人が出てきた。ビーチェと同じくらい…… いや、もう一回りか二回り大きいかもな。あんなのでぷらぷら揺れて戦えるんだろうか。この国で強いんだからそうなんだろうなあ)
「あいつめ! あの人の胸をガン見してるじゃねーか!」
「ハッハッハッ 彼女の名はマルゲリータ・ペスタロッツァ(Margherita Pestalozza)と言ってな、私の武術の先生でもある。とんでもなく強いぞ」
「へー!? 陛下も武術を習っていたんですか! 初耳でした!」
ジーノがマルゲリータさんのおっぱいを注視している様子が魔動ビジョンに映っているのを見て、ビーチェがプンプン怒っています。
やっぱり女性目線で第三者でも、男が何を見ているのかわかるものなんですね。
それにしても彼女、何だかピザみたいで美味しそうなお名前です。
あら、お腹が空いてきてしまいました。
「今回、私が一番楽しみにしている対戦だ。ジーノはどう出るかな? フフフフ……」
陛下は少し不気味な笑いをしています。
そのマルゲリータさんがどれくらい強いのかわかりませんが、ゴッフレードの副官である手練れのジルドをあっさりと倒した(第十七話にて)こともあるので、そう易々と負けるとは思いません。
さて、視点はフィールド上に戻ります。
「初めまして坊や、あたしマルゲリータっていうの。リタって呼んでくれていいよ」
「は、初めまして…… ジーノと言います。よろしくお願いします」
「ジーノ…… 礼儀正しくて良い子ね。あたしそういう男の子好きよ。ふふふ」
「どうも……」
お互い自己紹介を済ませ、戦闘開始です。
達人同士らしく、合図も無く互いの空気を読んで構えました。
そこから十秒ほど無言の時間が過ぎましたが、先制はマルゲリータさんから。
――スタタタタッ バシバシッ ババババッ ドカッ
マルゲリータさんは高速でジーノへ駆け寄り、オーソドックスに手脚で攻撃を掛けました。
何でしょう…… 彼女はまるで空手とCQCを合わせたような型ですね。
ジーノは応戦していますが、防御に徹してしまいなかなか攻撃が出来ていません。
それもそのはず、ジーノは彼女のおっぱいが気になって仕方がありません。
胸の谷間を見ている視線が丸わかりですよ。まったく……
「ええいっ 何やってんだよジーノ! そんなに大きなおっぱいが好きなのか?」
「あっはっはっはっはっ! 可笑しすぎて腹が痛いわ! ハッハッハッ」
「ぷー クスクスッ」
ジーノの動きより、ビーチェの言動を陛下とウルスラがウケて大笑いです。
他の人たちは苦笑い。
――ババッ ドシュドシュドシュッ ズバーンッ ドカッ
(くっそぉぉぉ 何だあの破壊的なおっぱいは! これも作戦のうちなのか?)
そうしているうちにジーノは後ろを取られ、羽交い締めにされてしまいました。
「ぐはあっ」
「ふっふっふっ 案外あっさり掴まっちゃったねえ」
(ぐふうっ く、苦しいけれどそんなことより背中に当たってるおっぱいがふわふわで最高だあ…… 確かにビーチェより大きいぞっ)
ジーノは苦しんでいるより、どう見ても気持ち良さそうな変顔になっています。
それがデカデカと魔動スクリーンに映し出されていますよ。
ああ…… なんて情けない。私の方が恥ずかしくなってきます。
「あのバカッ! もしかしてあたしと訓練しているときもあんな顔をしていたのか!?」
「あはっ あはっ あはははははははっ!! おまえたち面白すぎる!」
「へ、陛下…… また笑いすぎですよ…… うぷっ」
「あんなギャグじゃなくて、戦いの方で楽しませてくれ! あはははっ!」
ビーチェは顔を真っ赤にしながら彼と訓練中のことを思い出し、先ほどのように陛下は大笑いしルイーザさんも笑いを堪えてました。
軍務大臣はやれやれといった表情。
「予想通りの展開になってしまったわね。ぷすすっ」
「わ、私はあんなおっきな胸が羨ましいです……」
ウルスラと教皇はそんなことを言っています。
さあジーノ。この状態からどう切り抜けるんですか?
まさかこれでお終いでは興ざめですよ。
(うぐっ こんなことで負けてたまるかよっ)
ジーノはそのままの体勢で強引に両脚を上げて一気に自分の身体の重心を下げ、マルゲリータさんの体勢を崩しました。
そして下ろした足で勢いよく地面を蹴り上げ、マルゲリータさんの顎に頭突きを食らわしました。
――ガツッ
「痛あああい!」
「ふっ へへへ」
頭突きを食らったマルゲリータさんは後ろへよろめき、口の中を切ったのか血が垂れていました。
ジーノの脚力とジャンプ力は素晴らしいこそ、あのような強引な動作が出来るわけです。
彼女は気持ち的にも相当なダメージを受けているでしょう。
「な、なんてデタラメでズルい動きなの……」
「俺たちはいつもそういう訓練をやってきたんだ。常に相手に意表を突くってね」
「――」
彼らの師匠であるバルらしい考え方ですね。
人間よりも魔物向けの戦闘方法ですから、何でもありと言えばそうなんですが。
「おおっ!? やったなジーノ!」
「ふーむ、とても強引な抜け出し方だな。私では真似が出来ない」
「もっと柔軟な抜け出し方があるんだが…… まあ相手がリタではああいうのも有りか……」
陛下は感心し、厳つい軍務大臣は型どおりの抜け出し方を想像しているようですが強豪相手ではそれも難しいからジーノのやり方も有りかと納得していました。
「――ペッ」
マルゲリータさんは口の中の血を吐き出し、口元の血を手で拭いました。
そしてジーノをギロッと睨みます。
「フンッ まさかあたしがこんなことでヤラレるなんてねえ。ちょっと早いけれど本気を出させてもらうよ。君にとってあたしの技が意表を突くんじゃないかな。ふふふっ」
「お、おう……」
マルゲリータさんは右手を広げて指先をジーノへ向けました。
すると五本の指先から、同じく五本の白いレーザー光線のようなものが飛び出てきました!
「あたしのラジ・ディ・ルーチェ (Raggi di luce) を味わいな!」
――ピシュイーーーーン
「なにっ!?」
ジーノは紙一重で躱すことが出来ましたが、マルゲリータさんはすぐに次の体勢に移り指から出る五本のレーザー光線でジーノを攻撃します。
「うわっ あれはオーラなのか!?」
――ピシュイーーーーンピシュイーーーーン
光線から逃げ回るジーノにマルゲリータさんは次々と攻撃を仕掛けます。
彼女のレーザー光線によってフィールドの地面があちこちでえぐれてます。
オーラを纏っていればかすり傷で済むかも知れませんが、普通の人間ならば身体に穴が開くか、切断されてしまうでしょう。
「あんなに易々とオーラの高速拳を……」
「よくわかったな。先生のアレはオーラが光線状になって相手を攻撃する。しかも威力はあんなものではない」
「そんな……」
「止めさせるなら今のうちだぞ。フフフ……」
驚いているビーチェに、皇帝陛下はそう言いました。
そんなに危ない技であれば途中で棄権せざるを得なくなりましょう。
ジーノにはこの技に対抗出来る術があるのでしょうか。




