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第四十一話 ライブ開演! 二人の隣にいるのは?

 アイドル『パンタロニ・カルディ』のライブ会場であるコロッセオの、階上のVIP席に招待されたビーチェたち。

 そこへ開演ギリギリになって現れたのは、アルフォンシーナ・ディ・ステファーノ国王陛下でした。

 自己紹介もままならぬタイミングで、ライブが開演されました。

 薄暗くなってきた会場は、観客たちが手に持っている魔道具のサイリウムで(きら)びやかです。


 ――ズンズンズンズンッ デデーン! ジャージャーン!


「さあ始まるぞお!」

「ふぉぉぉぉぉぉ!」


 アルフォンシーナ様とジーノはVIP個室正面のガラスに貼り付いて叫んでいました。

 最前列の席で、ビーチェは脚を組んで少々面白く無さそうな表情で座っています。

 ウルスラと私も同じく最前列の席に座って観覧し、アデーレさんとルイーザさんは無表情で横に立っていました。

 国家元首である陛下が意外にも護衛を付けていないのは――

 あっ ドアの外に何人かいるようですね。


 ――ズンチャンズンチャンデデッデーン!


 曲のイントロが演奏されると、会場真ん中のステージがパッと明るくなりました。

 すると三人の女の子が現れ、歌い始めます。

 なるほど。グループ名の通り三人ともショートパンツを履いており、瑞々しい美脚を惜しげも無く披露しています。

 ステージ真上の空中には、どこの座席からでも見えるように強大な魔法のスクリーンが四枚、四方に投影されています。

 とんでもない魔力が必要なはずですが、どれだけ大容量の魔力パックを使っているのでしょうか。


「おお、今日もみんな可愛いな!」

「うひょぉぉぉ! 本物のパンタロニ・カルディだあ! 感激ぃ!!」

「なんだ、君はライブが初めてか?」

「ははっ はい!」

「誰が一番好きなのだ?」

「エルマちゃんです!」

「そうかそうか! 私はみんな同じくらい好きだ! ハッハッハッ!」


 ジーノと陛下は二人でそんな会話をしていました。

 夢中になるものが同じだと、意気投合するのも早いんですね。

 国で一番偉い人が隣ではしゃいでいるのに、ジーノはさほど緊張していないのも同年代だからでしょうか。


 ジーノの推しはエルマちゃんらしいですが――

 赤毛のポニーテールで元気そうな女の子ですね。

 気のせいか、雰囲気はビーチェに似ていませんかね?

 左側の女の子はロレッタちゃんで、金髪ツインテールのはつらつとした子ですね。

 右側の子はミーナちゃん。濃いめのブラウン、ショートヘア。凜々しくお姉さんタイプ。

 三人ともそれぞれ違ったタイプで、推しがはっきり分かれそうですね。

 彼女らが歌ってるのは、どうやら蜜蜂の歌のようです。


 ♪Bun Bun Bun! Bun Bun BuBun!

 ♪さあ今日も花の蜜集めだ

 ♪みんなお花畑へ行こうよ

 ♪誰が一番美味しい蜜を見つけられるかな

 ♪Bun Bun Bun Bun!!


\ブンブンブンブン!!/


「「ブンブンブンブン!」」


 五万人の観客と、ジーノと陛下も曲に合わせてそう叫び、お尻を振って踊っています。

 それを後ろから見ているビーチェはポカーンと口を開けて驚いていました。

 国王のはしゃぎっぷりに驚いているかもしれませんが、ジーノがそれほどアイドルに夢中になっているとは、ビーチェは考えもしてなかったのでしょう。


「えっ? えええ……」


「陛下、ライブを見に来たときはいつもこうなんですよ。陛下もまだお若いですからたまには思いっきり楽しみたいんでしょうね」


 と、アデーレさんは言いました。

 その口ぶりは半分諦めているようです。


「おい! 君もこっちへ来い! 楽しいぞ!」


「あ、え? あたし!?」


 突然陛下は後ろへ振り向き、ビーチェに向かって言いました。

 ビーチェは最初、自分に言われているのかわからずあたふたしていましたが、陛下は明らかに自分へ目線を向けているので、自信なさげな返事をしました。


「ベアトリーチェさん、早く行った方が良いですよ。陛下はしつこいですからね」


 アデーレさんはビーチェに耳打ちしてそう言いました。

 ウルスラにもそれが聞こえているようで、クスクスを笑っています。


「う、うん…… じゃあ……」


 ビーチェは座席から立ち上がり、仕方なさそうにジーノの隣へ行きました。

 彼女は横目でチラッとジーノを見ると、ビーチェが来たことに気づかずにパンタロニ・カルディのほうを一生懸命見て身体を振るわせ踊っていました。


「ヘイ! ヘイ! ヘイ! ヘイッ!」


(チッ なんだよこいつ。そんなにアイドルってやつが好きだったのか? あーそういえば前にあいつんちって魔動ビジョン買ってたっけ。それでアイドルが出る番組を見ていたわけか。もしかして魔物狩りした時の肉を売った金をつぎ込んで買ったのか?)


 魔動ビジョンとは、魔力で動く地球のテレビのようなもので、理屈はステージ真上に投影されている魔動スクリーンと同じです。

 非常に高価で普及率は低く、ビーチェの家にはありません。

 片手で持てる大きさのプロジェクターのような魔動装置から薄いスクリーンで空間投影され、場所を取りません。


 ♪Bun Bun Bun! Bun Bun BuBun!

 ♪蜂蜜いっぱい花粉もいっぱい

 ♪今日の夕食御馳走だ

 ♪早くみんなお家へ帰ろうよ

 ♪Bun Bun Bun Bun!!


(あれれ? 身体が勝手に動いてる? なんか楽しいぞ!?)


「ヘイ! ヘイ! ヘイ!」


 それまで少々ふてくされ気味だったビーチェは、ジーノと陛下と一緒の場所で観覧していると、どういうことかひとりでに身体を動かして踊っていました。

 運動が好きな子だし、戦いにもリズムがありますからそのせいなんでしょうかね。


「にっひっひっひー」

「なっ なんだよ……」


 ジーノはビーチェがはしゃいでいる様子に気づいたようで、ニヤニヤと笑っています。

 そりゃそうですよね。


「おまえアイドルに興味無さそうだったのに、そのノリはなんだ? うっひっひっ」

「うるさい!」 バシイィィッ

「あ痛たたたた!」


 ビーチェはジーノの後頭部を手の平で叩きました。

 いつもの逆ギレですが、こんなことをする相手はジーノしかいないので、喧嘩するほど仲が良いとはこのことですね。


「なんだなんだ? 君たち楽しそうだね」

「いえ…… 楽しいってわけじゃないですが……」

「それよりほらっ MC(ライブ中でのトーク)が始まるぞ」

「あっ! それは聞かなきゃ!」


 陛下が横から口を挟み、MCが始まるので二人のいざこざを中断させました。

 ジーノはビーチェに叩かれたことも忘れ、すぐにステージのほうを注目しました。

 ビーチェも渋々とステージに目線を合わせます。

 ジーノが大好きな、真ん中のエルマちゃんが声を上げます。


「みんなー! こんばんはー! Buona sera! エルマでぇぇぇす!!」

\こんばんはーーーーーー!!/


「今日は、私たちの結成3周年ライブに来てくれて、ありがとーーーー!」

\おめでとぉぉぉぉ!! うぉぉぉぉぉぉ!!/


「これから二時間、一生懸命歌います! だからみんなも一生懸命楽しんでいってねーーー!!」

\うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!/


「ロレッタでぇぇぇす! 今日もお兄ちゃんたちにズッキュンドッキュン!」

\ズッキュンドッキュン! ロレッタちゃぁぁん! 萌ぇぇぇぇぇぇ!/


「ミーナでえす! お姉さんの言うことを聞けない子は、お尻ペンペンよ!」

\むふうぅぅぅぅぅぅん!! お姉さまぁぁぁぁ!/


 うっわー 何なんですかね。観客からの、このコールは。

 エルマちゃんが標準的なのに、ロレッタちゃんは妹属性のファン、ミーナちゃんはお姉さん属性のファンとはっきり分かれてるようです。


「すっげー…… 本場のライブってこんなふうなのか……」

「ええ…… なんか掛け声がキモいんだけど?」


 ジーノはライブ会場の観客に圧倒し、ビーチェの感想はさすがに露骨ですね。

 そこへ陛下がまた口を挟みます。


「まあそう言うな。私は三人とも食べちゃいたいくらい、可愛いと思っている。フフフ……」

「あわわ……」

「そ、そうなんですか…… はははは」


 ジーノとビーチェは退()いちゃってますね……

 アデーレさんとルイーザさんは、あちゃーと目を押さえてます。

 ウルスラはお腹を押さえ笑いを(こら)えています。

 この国王陛下ってば、女の子なのに女の子好き?

 ビーチェも可愛いですから、目を付けられなければ良いのですが。


「さあ二曲目は、【君に恋してズキュンドキュン!】でえす!」

\うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!/


---


 それからパンタロニ・カルディは二十曲を歌い、無事にライブを終えることが出来ました。

 陛下たちはそそくさと帰ろうとしていますが……


「ぷはぁぁぁっ もう感激です! ありがとうございます、陛下!」

「ああっ あたしも楽しかった…… かな」


「そうかそうか、それは良かった。出来ればパンタロニ・カルディを君たちに会わせてやりたいところだが、向こうも忙しいし、私も早く帰らなければ夕食が遅くなると怒られるからな。ハッハッハッ」


「ええっ!? じゃあもし忙しくなかったら会わせて頂けるんですか?」


「ううん…… まあ、今度の表彰式で君たちが面白い戦いをしてくれたら考えよう」


「ほほほほ本当ですか!? やったあぁぁぁっ!!」


 ジーノは飛び上がるほど喜んでいましたが、陛下の口ぶりではあまり当てにならなさそうですね。


「面白かったら、だぞ? 私はお腹が減ったからもう帰る。ではな!」


 アルフォンシーナ・ディ・ステファーノ国王陛下と執事のルイーザさんは、慌ただしくVIP個室から退出して行きました。

 あれだけはしゃいでいたんですから、お腹が減っても仕方がありませんね。


「さてと、俺たちも帰るか。お城で陛下と一緒に食事なんて期待してたんだがなあ」

「バカね。いくらお城でも急に料理の人数を追加されても調理の人たちが困るじゃない。それに私たちはホテルで美味しい料理を用意してくれてるんだから、食べないと勿体ないわ」

「あっ そうだよな。あはははっ」


 ジーノはそんなことを考えていたんですね。

 それをウルスラが応えましたが……


「ふんっ いくら陛下が美人で仲良くなっても、一緒にメシ食おうだなんてイヤらしいったらありゃしない」

「何でそういう話になるんだよっ!?」


 ビーチェったら、陛下にまで()いてるんですか?

 本当にこの子はわかりやすいですね。


「ばーかばーか。アイドルとも会いたいって? 図々しいねえ」

「そ、それは……」

「あたしも会ってみたいから、絶対勝つぞ!」

「おっ おう……」

「ズコォッ あんたたち…… 私も戦うことになってるんだから。まっ 勝つのは当たり前だけどね。ふふん」


 ジーノとビーチェのやりとりに呆れたウルスラですが、戦いのほうはやる気満々のようですね。

 三日後の、コロッセオでの対戦相手はどれほど強いんでしょうか。

 どんな戦いを見せてくれるんでしょうか。楽しみですね。


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