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第三十九話 宮内庁長官と秘書

 ロッツァーノから(わたくし)はお空で別行動とし、ビーチェとジーノ、ウルスラの一行はひたすら走り続け、王都アルテーナへはお昼前に到着することが出来ました。

 街中で三人は、地球の路面電車に良く似た魔動軌道車に乗って宮内庁へ向かっているところです。


《間もなくコッポラ宮殿前、コッポラ宮殿前です。お降りの方は忘れ物が無いようお願いします》


「ほら、宮内庁に着くよ」


「え? 目の前にお城が見えるけど?」


「宮内庁は王族のお世話をする組織なんだから、お城で当然でしょう」


「「ええええええっ!?」」


 ビーチェとジーノはお城に行くと今頃気づいて、びっくりしています。

 地球の日本だって、皇居敷地内に宮内庁があるんですから不思議ではないですよね。


「はい到着~ 降りた降りた!」


「あ、あの……」


「おおっ おう……」


 ビーチェとジーノはウルスラに押されるように軌道車から降ろされ、コッポラ宮殿前停留所に降り立ちました。

 敷地外の停留所からでもよく見える王宮がそびえ立っている様子に、二人は口をあんぐり開けながら眺めていました。


「でっけぇぇ! これが俺たちの国の王様が住んでいるお城かあ!」


「でもコッポラ宮殿って、何か可愛いよね!」


「前のコッポラ(Coppola)王朝からある宮殿だからよ。あなた歴史の勉強が苦手なのね」


「えへへへー」


 ウルスラのつっこみに、ビーチェが笑いながら頭を掻いて誤魔化しています。

 もっとも、彼女が勉強家という認識は誰も持っていないと思いますけれどね。


「さっ 行くわよ。厳粛な場所だからあんまり騒がないようにね」


「「はぁーい」」


 まるで引率の先生と二人の生徒のように、三人は王宮入り口へ向かったのでありました。

 さて、この先はどんなことになるのでしょう。

 三人ともただ者ではありませんから、きっと面白いことが起きるでしょう。

 おおおっと。私も早く降りないと!


 ――シュコーン!


『すみません、ここから(わたくし)もご一緒します』


「わっ 急にディアノラ様のオーラを感じたからびっくりしたぁ!」


「俺も今気づいたよ」


「わたしはずっとわかっていたわよ。まだまだ修行が足りないわね」


「「ううう……」」


『アレッツォへ帰ったらまたバルの特訓が始まりますわね。ふふふ…… では参りましょうか』


 二人は私の言葉を聞いてぐんにょりしつつ、私たち四人で再び入り口へ向かいました。


---


 王宮の入り口。つまり城門でありますが、長銃を装備している近衛兵が数人だけで守衛していました。

 王都アルテーナにはゴロツキぐらいはいるものの、ゴッフレードみたいな野盗はいませんから地方より平和なのです。

 王宮の職員が頻繁に出入りしているのが見えますが、彼らは近衛兵に通行許可証を提示しているようですね。

 私たちはどうやって入ることが出来るのでしょうか。

 おや、ウルスラは懐から書状を出しましたよ。

 そしてその書状を一番近くにいた近衛兵に差し出し、こう言いました。


「私たちは野盗集団ソーニョ・ネロとその首領ゴッフレードを倒した者です。国王陛下からお呼び出しがあり、こちらへ参りました」


「むっ!? 見せて頂けますか?」


 ウルスラは冷静な表情でその近衛兵に書状を渡し、周りの近衛兵も集まってきました。

 書状を見て近衛兵たちは目を大きく開き、驚いています。


「ここっ これは確かに陛下のサインと押印です! あなたたちがあのゴッフレードを倒したのですか!」


「へへーん! あたしとこのジーノがほとんどやっつけたんだよ!」


「お、おい、ビーチェってば……」


 と、ビーチェは胸をふんぞり返してドヤ顔で言いました。

 あのね、あなたは最初、過去のことに()()づいて動けなかったでしょ!


「君たちが!? 話には聞いていたけれど、まさかこんな若い子たちだったなんて―― それはともかく、案内しましょう」


 初老の近衛兵が一人、案内役を買って出てくれました。

 書状は国王陛下がパウジーニ伯爵へ送った物でしょう。

 これを見せてトラブルが起これば、この国がどうかしていることですね。

 スムースに進みそうで良かったです。


---


 案内されたのは王宮敷地内にある宮内庁の施設。

 その中の応接室で、私たちは待つことになりました。


「では長官を呼んで参りますので、しばらくお待ち下さい」


 案内してくれた初老の近衛兵がそう言うと、兵隊らしくキビキビとした動きで部屋から退出して行きました。


「――へ? 長官って、すごく偉くない?」


「そうよ。王族以外で、王宮では一番偉い(かた)ね」


「ほえー!」

「俺たちとんでもないところへ来ちゃったんだなあ……」


 パウジーニ伯爵家へ頻繁に出入りしているビーチェたちでも驚きの様子です。

 ウルスラはどんとこい状態で落ち着いていますが……

 近衛兵と入れ替わりにスーツ姿のキリッとした女性が現れ、私たちにお茶を入れてくれました。

 ジーノが美人な彼女の動きを目で追っているので、ビーチェはそれを見て少々不機嫌な顔です。

 相変わらずですよね、この二人。

 五分もすると、スーツ姿で口髭を蓄えたダンディーな男が現れました。

 彼はニコニコしながら私たちに話しかけてきます。

 私たち四人は一斉に立ち上がりました。


「おお…… おお! 君たちかね! ゴッフレードを倒したというのは!」


「うん! いや、はい! あたしとジーノがやっつけて、こっちのウルスラと今アレッツォにいるバルが助けてくれて―― このディアノラ様はおまけでついてきただけ!」


『こ、こら何てことを! あいや、失礼しました。私、パウジーニ伯爵領で特別神官をやっているディアノラと申します。オホホホホ……』


 まったくビーチェってば、私がオマケとは失礼しちゃうわ。

 でもこの世界での立場はこの子たちの助けがあってのもので、実際オマケみたいなものですよね。トホホホ……


「そ、そうかね。まずはかけてくれたまえ――」


 私たちは長官に言われたとおり、ソファーにかけ直しました。

 見た感じ、高圧でなく嫌みな感じの男ではなさそうです。

 どこか苦労人のような影がありますが、どういうことなんでしょうか。


「私は宮内庁長官のブルーノ・ヴァレンツィ(Bluno Valenzi)だ。手紙を出してから期日まであまり余裕が無かったから心配していたんだが、早めに来てもらえて良かったよ」


「あたしたち一昨日出発して、ロッツァーノで一日遊んでからここに着いたんで、よゆーよゆーですよ。あっはっはは」


「ええっ!? どどどどうやって来たんだね?」


「ん? 走ってですよ」


「「はぁぁぁぁ!?」」


 ビーチェがあっけらかんと答えるので、長官とスーツの女性は大層びっくりしました。

 秘密にしているわけではありませんが、ここにいる三人はいろいろ常識外れですからね。

 え? (わたくし)? 神の中では常識の中だと思っていますよ。


「ささっ さすがゴッフレードを倒すだけのことはあるねえ…… それで表彰式なんだがまだ日にちがあるので、王宮指定のホテルを用意しよう。手配させるので、帰るまで身の回りのことは彼女に相談してくれたまえ」


「長官の第二秘書、アデーレ・ヴェント(Adele Vento)です。よろしくお願いします」


「「「「よろしくお願いします」」」」


 スーツの彼女は秘書だったのですね。

 道理でそのような立ち振る舞いをしてると思いました。

 滞在中のお世話係とわかり、ジーノは僅かにニヤニヤとしていますよ。

 アデーレさんは蜂蜜色のショートヘアで、背が高いですねえ。

 胸は…… ぬくくっ (わたくし)より大きい……


「表彰式は、三日後。王宮から近いコロッセオで行われる」


「何故コロッセオで? 闘技場ですよね?」


 長官が言うと、ウスルラが尋ねました。

 闘技場とは、何かありそうですね。


「陛下たっての希望でね。ゴッフレードを倒すほどの者ならば、是非戦いを見てみたいとの(おお)せで……」


 なるほど―― 陛下の強い要望とは、ビーチェとジーノを誰かと戦わせるということですか。

 長官の表情は少々苦笑いになっており、恐らく陛下から強引に頼まれたのでしょう。

 苦労人とはそういうことだったのですね。

 陛下の人となりがだんだんわかってきました。


「へえ! 面白そうじゃん!」

「でも俺たちと戦える人なんているんですか?」


「ガルバーニャでも指折りの戦士を出す。君たちで勝てるかどうか。ふふふ……」


 長官は自信ありげに微笑みました。

 ビーチェたちの強さは常識外れですが、まさかこの国の他にそんな戦士がいるとは意外です。


「そんなに強いんなら、どうして今までゴッフレードを倒せなかったんですか?」


「ほら、あいつら神出鬼没だったじゃない。いくら強くても見つからなきゃどうしようもないわよ。運が良いのか悪いのか、アレッツォへはたまたま襲って来たんだ」


「ああそうかあ」


 ジーノの質問にウルスラが答えました。

 確かにどこにいるのかわからない相手に、近頃魔物が出始めている時に強者があまり王都を離れる訳にはいきませんからね。


「彼女の言うとおりだ。彼らには普段、王都近郊の野党や魔物の討伐任務に当たってもらっている。困ったことに、王都の周りにも魔物が増加しているのだよ」


「大変なことになってるなあ。で、彼らということは、一人じゃなくて、何人もいるんですか?」


 長官が言うと、ビーチェが尋ねました。


「うむ。三人いる。今は大きな問題が無いので彼らに王都で駐在する条件で長期休暇を与えているのだ。その中で―― まあ、表彰式の名を借りた闘技戦を催すことになっている」


「三人! ちょうど良いね! ウルスラも出ようよ!」


「あー 私は魔法使いだし……」


「三人のうち一人は魔法使いだ。魔法使い同士の魔法戦になろうとは、楽しみだな」


「ウルスラぁ、手加減してあげなよ。ひっひっひ」


「あんまり目立ちたくないんだけどね。まあいいけれど」


 こうして三日後には、コロッセオにて国王主催の、三対三で行われる闘技戦が開催されることになってしまいました。

 一体どんな戦いが繰り広げられるのでしょうか。

 桁外れの強さの三人に対して、アルテーナの戦士たちは健闘してくれたら良いですね。


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