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第三十八話 王都アルテーナへ到着

 ロッツァーノの街を抜け、街道に出ました。

 王都まではこの道が主要街道になっており、一番近道になっています。

 そのため徒歩、馬車、魔動車の交通量が多く、ビーチェとジーノにとっては少々走りにくそうです。

 私たちは四人で街道を歩いて、進んでいました。


「そろそろ走ってもいいんじゃない?」


「ああ、そうだな」


 街道を進み、交通の流れがスムースになってきました。

 ビーチェとジーノは走りたがっていますが、マラソン選手と同じ気持ちになっているんでしょうか。


「馬車や魔動車とぶつからないでよ。あなたたちの身体のほうが強いんだから、向こうのほうが壊れちゃう」


「わかってるって。で、ディアノラ様は光の球に変身するの?」


 ウルスラがそう注意すると、ビーチェがそれを流す返事をした後に私へ質問しました。

 この子たち、慣れてきたのかだんだんため口が多くなって来ましたね。

 私、一応神なんですよ。それなのに……

 でもドジってるのをたくさん見られていますから、自業自得でしょうか。ううう……


『ええ、人に見られないくらい高く飛ぶから怪しまれないで済みます』


「へー」


『では、私は高いところからあなたたちを見守っていますから』


「あっはっ 神様みたいだ!」


『だから(わたくし)は神ですってば!』


 ジーノが私を揶揄って…… もうガキは黙ってなさい!

 あらイヤだ。(わたくし)としたことがつまらないことで熱くなってしまいました。

 ではそろそろ上に参ります。


『それでは皆さん、お先に!』


 スゥーッ ピキィィィンッ ドシュゥゥゥゥゥゥッッ


「あっ もう飛んでっちゃった。思っていたより小さかったね。ボールみたいだ」


「あのボールで遊んでみたいよな!」


「あっはっはっ それいいね!」


「あなたたち…… ディアノラ様を全然神様と思っていないよね」


 私が空へ上がっている最中にあの子たち、何かとんでもないことを言ってる気がします……

 さて、丁度良い高さまで来たので三人に付いていきながら観察しましょう


---


 ビーチェとジーノは街道を猛進し、その後ろからウスルラが杖に乗って追いかけています。

 交通量が多い分道幅が広いので、それほど走るには苦で無さそうですね。

 盗賊や魔物が出るような道ではないので順調に進んでいます。


「この調子なら昼飯に間に合うかも知れないな!」


「あたしもう腹減ってきたよー」


「バルも若いときは良く食べてたけれど、あんたたちのお腹もどういう消化をしてるんだかねえ」


 というウルスラも、あれだけ焼き鳥を食べてビールを飲みまくっていたのに、どうしてお腹ぽっこりしないで抜群のプロポーションなんでしょうか。

 (わたくし)のお腹…… ちょっと危ないです。

 途中の街を越えると、ビーチェとジーノは見たことも無い大きな乗り物を見つけ、びっくりしていました。


 ――ゴォォォォォォッ ガタンゴトン ガタンゴトン


「ねえ! 何アレ!?」


「すっげー! デカい馬車みたいなのがずっと連なってる!」


「あれは魔動鉄道といって、レールという長い鉄の鋼材を二本敷いて、その上を走っているのよ。一番前の魔動機関車が、馬車の何百倍もの重い客車や貨車をひっぱって高速で運んでるんだ。今は王都の近郊しか走っていないけれど、将来はボナッソーラまで伸びる計画があるらしいからアレッツォにもこれが通るかも知れないね」


 街道に平行して、鉄道線が走っています。

 魔動機関車の見た目は地球のディーゼル機関車に似ていますが、魔力で動いているのでとてもクリーンですね。

 客車は二軸ボギー台車を履いている大型車両です。

 鉄道が発達していないこの国でこんな立派な鉄道車両が走っているということは、きっと外国から輸入したり技術供与をされたからでしょう。

 お客がたくさん乗っているのが見えますね。

 ビーチェたちが列車の速度に合わせて走っているので、乗客の中で彼らを見つけた人は目を白黒させています。


「へー! あれに乗ってみたい!」


「俺も俺も!」


「ダメよ。修行のうちなんだから、バルに言われたとおり走って行くのよ」


「ちぇー」


「ダルいわー」


「あんたたちロッツァーノから(たる)んできたわね。さあさあもっと速く走りなさい!!」


 ビービビビビビリビリビリ バシバシバシィィッッ


 ウルスラはまた後ろから電撃魔法で二人を煽っています。

 こんな交通量が多い街道で危なくないですか?


「うぎゃぁぁぁ!! こんな人通りが多いところで電撃を撃つなよお!!」


「私は天才だから、当たるのはあんたたちだけだよ!」


 ジーノもそう言ってますが、彼らが人をすり抜けながら走っていても電撃が当たらないよう器用に電撃で煽ってますね。


(たる)んでいたのはウスルラのほうじゃん!! ひいぃぃぃ!!」


「たまに羽目を外すくらいいいじゃないか」


「いつもウチの店で羽目外してるのは誰だっけえ!?」


「知らなーい! 聞こえなーい!」


「チクショーーー!!」


「私は畜生ではない。誇り高いロッカ族のウルスラ様だよ!」


 などと子供のようなやりとりをしながら、ウルスラは二人を煽り続けたら新記録樹立のような速度で順調に進み、王都の目前まで来てしまいました。


---


 ガルバーニャ国の首都、アルテーナ(Artena)は人口百万人を越える大都市です。

 この国は王政ながらも議会政治を行う立憲君主制であり、国の政治機能は全てこの王都アルテーナに揃っています。

 人通りが多くなって来たので走るわけにもいかず、三人は街の中を歩いていました。

 ボナッソーラやロッツァーノとは比べものにならない大きな街を、初めて来るビーチェとジーノはどういう反応をするのでしょうか。


「どっひぇぇぇぇぇ!! 他の街で見たよりも倍くらい高い建物ばっかり!!」


「人も車も凄く多い! 馬車がほとんど走ってないじゃん! 王都の人金持ちばっかなの!? ウスルラ、あれも魔動鉄道なのか?」


「あれは魔動軌道といって、普通の道に鉄のレールを敷いて決まったところを走るんだよ。重いけれど魔動バスよりたくさんの人が乗せられて、時間も魔動バスより正確なんだ」


「へぇー よく知ってるね」


「私は七百年以上生きてるし、何度もこの街へ来ているから歴史の証人なんだよ。ふっふっふ」


 案の定、お上りさん的な反応で、ビーチェの質問に答えたウルスラはドヤ顔でした。

 魔動軌道とは地球の路面電車と同じようなもので、王都の市街に路線が張り巡らされており、迷っちゃいそうなほど。

 架線が要らないので空を見上げるとスッキリしています。


「これから宿探しをしなくちゃいけないんだけれど、その前に到着の報告をしておかないとね。あの事件だから警察庁か内務省から通達が来てるものだと思っていたのに、宮内庁からなんだよ。だから、今から宮内庁の庁舎へ行くよ」


「宮内庁って、国王陛下の?」


「そうよ。アルフォンシーナ国王陛下ね」


 名前の通り、アルフォンシーナ国王陛下は女性です。

 そう、女王様なんです。女王様とお呼び! とは言わないと思いますが。

 本名はアルフォンシーナ・ディ・ステファーノ(Alfonsina Di Stefano)といい、二百年以上続くステファーノ王朝の第十二代目国王です。

 後は追ってお話をしましょう。ウルスラが話してしまいそうですけれどね。


「あれに乗って宮内庁へ行くよ」


「えっ? いいの!?」


「やった!」


「あなたたちが走ると目立つからね。二百リラを入り口にいる車掌に渡すんだ」


 三人は魔動軌道に乗って宮内庁へ移動することになりました。

 ボナッソーラで魔動バスに乗ったときのように、二人の騒ぎようは小さな子供のようです。

 三人は、停留所に停まった路面魔動車の車掌へ二百リラずつ払って乗り込みました。

 さほど混んでいませんが、両側ロングシートは全て乗客で埋まっています。

 (わたくし)もこのまま空から付いていくことにします。


「へぇー 魔動バスよりずっと広いじゃん!」


「おっ 動いた! ゴリゴリ振動がくる!」


 ウルスラは呆れ顔で二人を見守っており、近くの席に座っているお婆さんは微笑ましく思っているのかクスクスと笑っていました。

 そのお婆さんがビーチェに話しかけます。


「お嬢ちゃんたち、どこから来たんだい?」


「ずっと南のアレッツォという町から来たんだよ」


「アレッツォ…… 知らない街だねえ」


「うーんと、ボナッソーラのちょっと北にある田舎の町だね」


「おや!? ボナッソーラなら知ってるよ! まあ随分遠いところから来たんだねえ」


「へへへー でもたった二日で来れ…… あっ フガフガフガッ」


 ビーチェが話していると、察したウルスラが後ろから手で口を塞ぎました。

 アレッツォから二日で来られる交通機関なんてこの国ではまだ有りませんから、(わたくし)もハラハラしてしまいました。

 ロッツァーノで一日遊んでましたから、本当は三日なんですけれどね。


「ああごめんなさい。たった二日でアルテーナへ行くことが決まったんですよ。オホホホホ……」


「まあそうなんですか?」


 お婆さんはキョトンとし、ウルスラが適当に話していることを聞いていました。

 それからにっこりと表情を変えて三人にこう言いました。


「それはそれはようこそアルテーナへ。楽しんでいってね。うふふ」


 さて、三人が宮内庁へ着いたその先はどうなるのでしょうか。

 私も地上へ降りた方が良いのかしら。


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