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第三十四話 朝のホテル部屋で女神ディナと

 (わたくし)の神オーラに勘づいてしまった、現在真っ裸状態の賢者ウルスラ。

 人間の中でも最上位クラスのロッカ族には、私がオーラをカモフラージュしていても気づかれてしまいましたか。

 下手に攻撃されてもいけませんから、さっさと正体を明かした方が良いのかしら。


「あのウルスラごめん。いろいろ訳ありで知り合った司祭様をここで泊まらせてあげてたんだ」


 ジーノが申し訳なさそうに説明していますが、むっつりスケベのジーノはウルスラのおっぱいや股間をチラチラ見ています。

 ウルスラったら早く隠しなさいよ! 裸族めえ!

 ビーチェはウルスラに魔法で動きを封じ込まれたまま、床にヘタレ込んでました。


「司祭様? それどころか人間ですらない、とんでもないオーラよ。あなたたち、そこに何がいるって言うの?」


 ウルスラはとても動揺していました。

 大魔王ゼクセティスとの戦いをも含めた百戦錬磨の彼女がです。

 これはもう(わたくし)が出てきたほうが良いですね。


「ウ、ウルスラ…… 悪い人じゃないから変なことしないでよね……」


「そうだよ! 人っていうか女神様なんだけれど、面白くて()い女神様だよ!」


「はぁぁぁぁ!? 女神さまあ!?」


 ウルスラは全裸で仁王立ちになって驚いていました。

 ジーノは股間をガン見していますよ!

 そのジーノにとって、私は面白い女神だったのですね…… トホホ

 確かにドジなのは自覚してますから。ううう……

 さて、そろそろ出るとしましょうか。


『あのう…… 初めまして。昨夜からお邪魔しております、女神ディナと申します…… 都合で下界ではディアノラと称しております……』


「えっ? 女神ディナって…… この感謝祭の?」


『はあ…… そうです。彼らが大聖堂に置いてある私の像へ祈っていたら、何故か下界へ落ちてしまったんです。天界へ帰る方法がわからなくて、それでこの二人に保護されているというか…… 神なのに情けない話です……』


「うーん…… あのオーラなら女神様というのも納得だけれど、七百年以上生きてきて神様に会うなんて初めてだし、そもそも現実にいるなんて思わなかったわ」


 動揺していたウルスラは落ち着きを取り戻し、ベッドの上であぐらをかいて座ってます。

 ちょっとちょっと! 何もかも見えちゃってますよ!

 ジーノの目が飛び出してますよ!


(わわわっ ウルスラのも見ちゃった! ナリさんのとだいぶん違ってて、何だか吸い込まれそうだ…… みんな一緒だと思っていたのに、男と同じで人によって形が違うってことか! むふふ、今晩のおかずにしよう―― って、この部屋じゃみんながいて発散出来ねえじゃん! うううっ)


「ねえウルスラ…… そろそろ解いてよ。何もしないからさあ……」

「ああごめんごめん。ホイッと」


 ビーチェは動けなくてちょっと(つら)そうにしていたところ、ウルスラに魔法の解除を頼みました。

 ウルスラは右人差し指をクルッと一回転させると、ビーチェの身体がピクッと動き始めました。


「おおっ やっと動けた。で…… こんにゃろお!! ウルスラの裸ばかり見てやがってええええ!!!!」


 バチバチバチバチィィィィン!!


「ぎゃぁ!! 痛ててててててててっ!! 何もしないって言ったろお!?」

「ホテルの部屋には何もしないって意味だああ!!」


 ウルスラに動きを封じられていたのを解除してもらったビーチェは、むっつりジーノの頬を両手で左右両方向から猛烈なビンタを何度もお見舞いしてました。痛そう……


「あーぁ。可哀想ねえ」

「ウルスラもいい加減服着ろよ、みっともない!」

「はーい。それっ」


 ビーチェに怒られたウルスラは素直に返事して、右腕を挙げてクルッと振り回すと、いつもの上着にショートパンツと黒タイツの姿になりました。

 ワンパターンなコーディネートですから、彼女ってそれほどお洒落でもないんですね。

 ビンタをやられまくったジーノのほっぺたは、パンパンに腫れてしまっています。


「ジーノ、そんな顔じゃ外へ出られないでしょ。それっと」


 ウルスラが右手の人差し指をジーノに向けてクルッと回すと、ジーノの頬の腫れは数秒後には治ってしまいました。

 この力はほとんど神クラスですね……


「おおっ 痛みも無くなった! ありがとおおおウルスラぁぁぁ……」

「ウルスラはこいつに甘いんだよっ」

「まあまあ。若い男の子だから仕方ないよ。だったらビーチェがじっくり見せてあげればいいじゃん。うっひっひっひっ」

「ああああたしはいつも…… んんんんん何でもなあいっっ!!」

「いつも? いつもって何? もしかしてあんたたち……」

「知らん知らん!!」


(あわわわ…… ビーチェは頭で考えず先に口が出るからすぐに口を滑らすんだよ。確かに小さい頃から一緒にシャワーや裸で川遊びしてたし、ボナッソーラで何故かビーチェが裸を見ろって言うから見たんだけど、そんなのウスルラが知ったらずっと揶揄(からか)い続けるに決まってる……)


 (わたくし)たち四人は寝室で話が盛り上がってますが……

 あうう…… 神様なのに、(わたくし)の存在が空気になっています。

 ある意味さすがと言うべきか、並外れた力を持っているこの三人は私のことをたぶん自分たちと同じ立場と認識をしてるんです。

 それとも私は神の威厳が足りないからでしょうか……


『あのお…… 今後のことについて、ウルスラさんも交えてお話をしておきたいのですが……』


「ああごめんなさい。じゃあ、えーっとディアノラ様でいいんですかね? 話を聞きましょうか」

「それよりさあ、お腹空いたから先に朝ご飯食べたいよ」


『えっ……』


「そういや俺も腹減ったなあ。このホテルの朝食、絶対高級料理だよな!」

「そうだよ! 食べておかないと損だよな!」

「はぁ…… あなたたち……」


 ウスルラは呆れ顔。

 この子たちったら、神様より自分たちの空腹を満たすことが優先ですか。

 育ち盛りだからわかりますけれど……

 ううんっ 私もお腹が空いてきました!


『構いませんよ。私もお腹が空いていましたので、朝食を…… あの…… お願いします――』


「わかりましたよ。そんな言いにくそうにされなくても―― 私が御馳走しますから」


『ありがとうございますぅ! うううっ』


「ハッハッハッ またディアノラ様ったら拝みながら泣いて喜んでるよ」

「ビーチェ…… 言ってあげるなよ……」


 神様に見られないのは、やっぱり私が原因のようですね。トホホ……


---


 ホテル内のレストランへ、四人揃ってやってきました。

 高級レストランですから、ジーノの服装はラフすぎるのでスーツを、ウルスラは今朝と変わらずショートパンツ姿、ビーチェはブラウスとプリーツスカートです。

 そして私は、ほらっ 神の力で形成したスーツに、セクシーなタイトスカート!

 これであの子たちも見直すことでしょう!


「ディアノラ様のそれって、ウチの学校の先生みたいだね。すぐ怒るんだよな」

「あー! あのオバサン先生か! あたしよく教科書で頭叩かれてたっけ。懐かしいなあ」

「はぁ…… あんたが学校にいた時の様子が目に浮かんでくるわ……」


『お、オバサン先生…… ガクッ』


 十代半ばのあの子たちの感覚では、やっぱり私はオバサンなんですか。

 女はまだ捨ててませんよ!

 どなたか素敵な男神が拾ってくれないかしら……


「うっひょお!? これって好きなの取っていいの?」

「こんな夢のようなレストラン、初めて見た! みんな美味そうだ…… じゅる」

「ここはビュッフェ型式といって、自分が食べたい物を取って食べるの。でもルールがあって、一気に取らないで残さないよう自分が食べられるだけ取って、他のお客さんも食べるんだから一つの物に偏って取ってはダメよ」

「「はーい」」


 レストランの朝食はビュッフェ型式、バイキング形式とも言いますが数々のおかずとフルーツ、デザートが色とりどりにタッパーやお皿に並べられています。

 肉料理もたくさんありますし、これ本当に朝食メニューなんですかね。

 皆が思い思いに欲しい料理を取って、テーブルに集まりました。


「あなたたち…… いくら一品が少しずつといっても、みんな肉料理じゃないの。野菜も食べなさい」

「えへへー」

「フライドポテトもあるぞ」

「ジーノ、それ野菜って言っちゃうの? もう……」


 ウルスラに注意される二人。

 この子たちが取ってきた物、ウインナー、ベーコン、鶏唐揚げ、サイコロステーキ、生ハム、ミートボール、羊のあばら骨付き肉―― みんな肉料理じゃないですか!

 朝からこれだけ肉料理を用意しているレストランもどうかしていると思いますが、十代の肉に対する欲求は凄いですね。

 あ―― こんなことを思ってるからオバサンに見えちゃうんですかね――


 私はライ麦パンとお野菜。この国はトマトが特産なので是非食べておきたいのです。

 パンには濃厚なバターを、キャベツの千切りとキュウリスライスのサラダにはフルーティーなオリーブオイルを掛けて、トマトスライスはそのままで。飲み物はミルク。

 うぅぅぅん、美味(おい)()いですう!

 ウルスラも野菜多めの美容食のようですよ。


「モグモクモグ―― うううん うんめええ! 肉食べ放題、夢みたいだ!」

「この生ハム、ペトルッチのおっちゃんとこのより美味いんじゃね? バクバク――」

「ああもう、上品に食べなさい。つまみ出されてしまうわよ」


 レストランの中でも一際賑やかなのが私たちのテーブル。

 ウルスラが言うように追い出されてしまわないか心配になってきます。

 特にビーチェはそろそろ女性の(たしな)みというものを持ってもらいたいですね。

 その後ビーチェとジーノは何度もお代わりに行き、ウルスラの言うことを聞かず肉ばかり。

 どうなっても知りませんよ。


---


「あ゛あ゛あ゛―― 気持ち悪いぃぃ…… もう肉なんか見たくないぃぃ……」

「俺も食い過ぎた…… 今日は昼ご飯いらないや……」


 部屋に帰ると案の定、ビーチェとジーノはお腹パンパンに膨らまし、二人して寝室のベッドに寝転んでいます。

 ビュッフェ型式の食べ放題で欲張って食べるからこうなるんです。


「あなたたち…… 言わんこっちゃないわね。まあいいわ。そこでしばらく休んでいなさい。私はディアノラ様と話しているから」


「「――」」


 ウルスラがそう言いますが、もう口がきけないほど苦しいようです。でも静かになっていいですよ。

 ウルスラと(わたくし)がソファーに座って話を始めようとしていた時に――


 ――コンコン


「おはようこざいます。お掃除と洗濯物をお届けに参りました!」


「入って()いわよ」


 ドアノックが鳴りました。

 あの声は地味子メイド、ベレニーチェさんのようです。


「おはようこざいます。お邪魔いたします。お洗濯物はどこへ置きましょうか?」


「そこのテーブルでいいわ」


「かしこまりました」


 ベレニーチェさんがテーブルに洗濯物を置くと、ウルスラと(わたくし)の姿見つけてこう言います。

 夕方はビーチェとジーノしかいませんでしたから彼女とは初見になりますね。


「いらっしゃいませ。ご挨拶が遅れましたが、このお部屋の担当でございます、ベレニーチェと申します。今晩もお泊まりと言うことで、明日の朝までお世話させて頂きます。よろしくお願いします」

(わっ こっちがユーティライネン様かな。すっごい綺麗で色っぽいですね。もう一人のお姉さんも綺麗だけど…… タイトスカートから白いぱんつが覗いてませんか? うひょほっ えっろぃ!)


「よろしく」

『こちらこそよろしくお願いします』


 さすがに表では礼儀正しい子ですね。

 洗濯機の前では変態になっていましたけれど。


「これからお掃除やタオル・シーツ交換をさせて頂きますが、他に用はございますか?」


「掃除は簡単でいいわ。そこで寝転んでいる二人の部屋は構わなくて良いから、替えのタオルとガウンだけ用意してちょうだい。あっ その前に、紅茶を二つ私たちに用意してくれるかしら?」


「はい、承知しました」


 ベレニーチェさんは早速、部屋に備え付けの魔法ポットで湯を沸かし、ティーカップを用意しています。

 気のせいか、先ほど彼女が(わたくし)を見て僅かにニヤッとしていたような。

 ――はっ!? タイトスカートだから、座ると丈が上がってこんなに太股が見えてますっ!?

 これ、見えちゃってますかね……

 人間の女の子に、神のパンチラ見られちゃいました…… ううっ


「それでディアノラ様、この先どうなさるおつもりかお聞かせ願いますか?」

『はい、どうするも…… あの子たちの祈りがきっかけでこの世界へ落ちてきたので、戻るにもあの子たちに頼るしかないのです。明日は王都まで向かわれるということで、私もお供させて頂いてよろしいでしょうか?』

「えっと、つまり戻るきっかけも、満腹でうなされているそこの二人じゃないといけないということですか?」

『はい。もしかしたら(わたくし)の上司であれば何とかしてくれるかも知れないのですが、未だに連絡が取れませんので…… きっと別の世界へ出張してると思います』

「じょ、上司ね…… 付いてこられるのは構いませんよ。で、移動する時はどうされるのですか?」

『神…… いえ、魔法のようなもので(わたくし)も飛ぶことが出来ます。転移も出来ますが一度行ったことがある場所にしか使えませんし、とてもたくさんのエネルギーが要りますから――』


(あのお姉さんたち、何かすごいお話をしている気がします。世界へ落ちた? 転移? なんですかそれ?)


 ベレニーチェさんは、入れてくれた紅茶をソファー前のテーブルへ置いてくれました。

 彼女は何やら私たちの会話に不信感を持ってる顔です。

 ウルスラは気を遣って言葉を選んでくれてますが……


(あっ こっちの寝室のドアが開いてますね。あらら!? ベアトリーチェ様とジーノ様が二人並んで寝てる! 満腹でうなされてるって聞こえましたけれど…… 夜もご一緒だったんでしょうか? もしかして、ゆうべは二人で大運動会!? はわっ はわわわわっ)


「あ!? ニーチェじゃん! おはよお」


「あわっ おおおはようございますっ」


「ごめんねー 朝ご飯腹一杯食い過ぎて動けなくってさ。ゲフッ」

「げっぷすんなよ、ニーチェに失礼だぞ。ゲププッ」

「おまえこそ何だよ。ゲフー」


「ああ…… いえ。ごゆっくりおやすみなさいませ」


(何だかあんまりラブラブな雰囲気ではありませんね。いえ、あれだけ慣れてらっしゃるということは、私の想像を超えるすごいプレイをしているに違いありませんわ! だって、エッチなTバックを履いてらっしゃるんですから! ハァハァ…… あいや、いけないわ。もう一つの寝室のシーツを取り替えないと!)


 ベレニーチェさん、二人の寝室の前で何やってんですかね?

 牛乳瓶眼鏡を曇らせてハァハァしてますよ。

 あら、彼女は一旦退室して、すぐにシーツやタオルを持って戻ってきましたよ。

 ウルスラとの話で、王都で行われるビーチェとジーノの表彰式の様子がわからないので、取りあえず私も付いて行ってまたそこで考えることにしました。


「二人とも、私出掛けてくるからあなたたちは好きなようになさい。じゃ」


「「あーい……」」


 ウルスラが出掛ける前、彼女からお小遣いを貰っちゃいました。

 (わたくし)も出掛けてみようかしら。

 このセクシーなタイトスカートなら、イケメンに声を掛けられるのかしら。うふふっ


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