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オタゲーマーに転生しました。 第七話

 大きなログハウスの2階、階段を上がった奥にある大扉の中で、オタゲー部の緊急会議が開かれていた。

 平蔵と初対面の顔が数人いる。一人はショッキングピンクのスーツに身を包んだ、シルクハットを被った男だ。ガラガラしたネクタイを締め、顔は光り輝いている。どうやら光を反射しているわけではなく顔自体が発光しているようだ。もう一人はスラリとした女性で、フルフェイスのヘルメットにスーツを着ている。ところどころ緑色に光ってたりしてよくわからんがかっこいい。

 そして丸っこいスイカにつぶらな瞳、三角の耳、猫のような口と小さな手足がついて赤縁のメガネをかけた謎の生物が先程の二人の間に鎮座している。あれの中の人はかなり操作が難しそうだなあと、平蔵は呑気に考えている。

「余裕そうじゃん、あんた」

「へ?」

 突然話しかけられて、変な声が出た。声の方に向くと、黄緑色の髪に、髪の色より少し濃い色の胴着を着た切れ長の目の小柄な男が立っていた。この人は確かずっと不機嫌そうに黙っていたはずだ。

「君は......?」

 平蔵がそう聞くと、

「うち?さつきっていうんだ。ここでは怪魚らしいけど。目が覚めたら体が突然変な男になっててさ、あんたも同じなんでしょ?あの黒いデカブツに聞いた」

 さつきの視線を追うとsatyがいた。こちらに気付き、軽く手をあげる。

  「うちはこのままじゃ次のライブ行けなさそうだから、結構きついけどね。あんたはなんか楽しそうだね?」

(確かに、私はこの状況を楽しんでいる.....)

「そうだな、なぜだろう、私は──」

「みんな揃ってる?会議を始めるよー」

 元の身体に戻りたくないのかもしれない、と言う前に先程翁と呼ばれた白髪の壮年が会議室に入ってきた。


「とりあえず今日の議題は、あぉたん、れんさん、阿修羅さん、怪魚氏がなぜか知らない人と入れ替わっちゃったことだね」

 翁が話し始める。

「っつってもよお......」

 ピンクの顔面発光男が言う。

「何もあいつらのことを信用してないわけじゃねぇんだけどさ、いくらなんでも話が荒唐無稽すぎねぇか?人の中身が入れ替わっちまうなんてさ。それにやるにしても、誰が?何のために?」

「せやね」

 フルフェイスの女性が引き継ぐ。男の声だった。

「俺たちの戦力を削ぐためなのか?そうだとして、どこのクランがそんな回りくどいことをやるん?それにフクロウ氏の言うように話が絵空事過ぎるんよ。あぉたんさん達が悪戯で入れ替わったフリをしてるだけっての方がまだ今のところ納得できる」

 フクロウと呼ばれたピンクのスーツの男が頭を掻く。それからまかちーがさらに引き継いだ。

「ま、つまる所俺達はれんとニキ達が本当に入れ替わっているのかは半信半疑って所っす。それになんで入れ替わっているかもわからんと。ウオタメ氏はどう思います?」

「んーそうっすねえ......」

 ウオタメと呼ばれたスイカ型の生物が応える。ボイスチェンジャーを使っているのか、機械的な音声だ。

「どうもこうも今の情報だけじゃ何もわかんないっすよ。今分かってるのは『悪ふざけなんじゃないか』ってことくらいっすよね?」

「そうね、ぱくちーさんたちの言うことも分かる」

 翁が言う。ぱくちーと呼ばれたフルフェイスの女性は、肯定の意を表すかのように唸った。

「でもさ、俺がこの場を取り仕切っていることが状況の深刻さを物語っていない?」


 確かに、会議を取り仕切っているのがこのクランのリーダーであるあぉたんでないことはかなりおかしい。出張しているなら話は別だが、あぉたん(と思わしき人物)はここにいる。皆の注目を浴びたその人物は首を傾げた。

「俺の顔に何かついているか?」

「......翁さんも一枚噛んでるんじゃないんすか?」

 フクロウが言う。

「はは......まぁ『バレちゃった?』って言えればそれで良かったんだけどね......

 ここで話してても仕方ないから入れ替わった人──便宜上、『転生者』と呼ばせてもらうけど、転生者を連れてきた人に話を聞かせてもらおうぜ。satyさん?」

「はい?」

「どうやってれんさんが入れ替わってるって気づいたの?」

「うーんあんまり強い理由じゃないんだけど......」

 satyが応える。

「れんさんが最初正座で座ったんよね。胡座じゃなくて。でそこでちょっと違和感を覚えた。それで『私』って言ってたところでちょっとカマかけてみたんだよね。でれんさんて嘘下手だからさ、演技だとしたら続けられないと思うんだよね。すぐボロが出ると思うんだ。だけどこの人は嘘をついているようには思えななかったんだよね。れんさんが遊んでない間に演技力を鍛えてたならわかるけど、2日でそんなに鍛えられるものでもないと思うし」

「......弱すぎん?それ」

 ぱくちーが言うが、翁は

「そうね、まぁ俺もれんさんが演技下手ってのは納得かな」

 と言っている。こいつはどれだけ信用がないんだ?平蔵の中で篤人の株がさらに下がる。

「なーんか怪しいなあ。翁さん、やっぱりなんか知ってるんじゃねぇの?知ってるなら吐いたほうがいいぜ?な?」

 とフクロウが言う。しかしそれも翁は

「いーや?何も知らんよ俺は」

 と惚けた顔をして躱す。

「いやいやいや、絶対なんか知ってるでしょそれ!」

 まかちーが抗議するも、

「まあまあ。それで、なかなか人員が厳しくなってますが編成を見直さんといかんねこれ」

 翁に話題を変えられている。


『ピロン♪』

 その時、会議室に音がなった。会議室の中央の机に備え付けられたデバイスから鳴っているようだ。翁は黙って中央のデバイスを操作し、メッセージを開いた。

「......『アドラー領』上層部『ヒルシュバーム』から各クランに通達。各地の地相に異常あり。放置すればレイドボスが活動範囲外を越え活発に動く可能性あり。『アドラー領』はこれを危険視し、レイドボス掃討作戦を開始する。従って、各クランのリーダーは『アドラー領』本部に集まり、作戦の概要を確認されたし」

 転生者を除く全員に緊張が走る。

 このゲームにはレイドというシステムがあり、

 アドラー領とは、オタゲー部の所属するクラン連合である。クラン連合とは、クラン同士が集まって情報や物資などを交換するシステムで、時には他のクラン連合と決闘することもあるそうだ。

 そしてオタゲー部は少数精鋭のクランである。そこから4人も実質欠員が出ているのは損失として計り知れない。

 アドラー領は大勢のクランからなる連合だが、オタゲー部は少数精鋭ながら戦力の一つとして数えられている。オタゲー部に欠員が出たままだと、アドラー領にとってもそれなりに影響が出てしまう。

 皆が大騒ぎしている中、翁は落ち着いていた。

「まぁまだ何もわからないし、とりあえずこのレイドボスを調べてみようかね。そうなると編成をますます組み直さなきゃね」



 その後編成を組み直し、会議は終了した。皆が会議室から出ると、翁はため息をついた。横を見ると、ウオタメがトテトテと歩いてくる。

「翁氏、流石に誤魔化すの下手すぎますよ......」

 何の用かと思ったら、小言を吐かれた。

「うーん、それはそうだったかもね」

 翁は笑いながら応える。

「どうして、皆に言わなかったんですか?」

「いずれは言うさ。ただ、今じゃないかもってだけ」

 それに、忘れていたのだ。

 この世界があまりにも平和すぎて、忘れてしまっていた。あの竜と交わした約束を。

 翁は腰に差した刀に手を置いた。金と紺を基調としたその刀は美しくはあるが、どこか近寄りがたい雰囲気を放っている。

「んじゃ私も巻き込まんでくださいよ......。」

 ウオタメは不服そうだが、翁は首を振る。

「いや、裏では俺含めて4人しか動かさないつもりだ。それに一人一人バラけて行動することになる。」

「......それにこの作戦の目的はあくまで『裏を掻かれる可能性を潰すこと』でしょ?分かってますよ、それくらい。

 はぁ、なんでこんなスキルとっちゃったんだか」

 ウオタメはため息をつくが、翁は笑っている。

「昔の俺がもしもの時に備えて、当時一番良さげなポジションにいたウオタメさんを巻き込んだんだよね。ま、今の俺は全部忘れちゃってたんですけどね!」

「あんたのはただ記憶力がないだけでしょうに」

「まあまあまあ、ほんとに悪ふざけの可能性も俺の痛6スロ3の護石レベルで存在してるから!それでウオタメさん、相手の位置とかわかる?それなら話が早いんだけど」

「相変わらず伝わらん比喩使いますね翁さん……逆探知を試しましたがまあ無理でしたね。あと何度も言いますが、私のスキルは相手の特定に長けたものではありませんよ」

「あらら、んじゃれいさんとかみりあさん辺りも巻き込むかね」

 静かになった会議室に二人の声が響いた。


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