オタゲーマーに転生しました 第六話
建物の中に入ると、木製の床や壁に囲まれた大きな空間が目に入る。その空間を囲むように階段が設置されているが、ベランダが張り出しているので2階の様子は見ることができない。1階に目を向けると、その大きな部屋の中に内に長テーブルがいくつか、大きな丸テーブルが一つあり、それらのテーブルの周りの椅子に3人がバラバラに座っている。なんだ、意外と静かじゃないかと平蔵は思った。
satyは3人のうちの一人──大部屋の片隅の黒いコートをきた女性に近づき、話しかけた。
「ゆずさん、どうも」
「ちす。あ、れんとさんもども」
見た目は女性だが、その声は歴とした男性であった。おそらく現実世界の彼は男性なのだろう。椅子に座り、壁に背をもたれて動かないが、前にウィンドウが開かれている。おそらくゲームのシステムか何かだろう。
「れんとさん、今日は静かやな」
いつのまにかゆずがsatyの側により、耳打ちしている。おそらく自分のアバターが耳が良いのだろう、かすかに会話が耳に入ってきた。
「あー、それなんだけど、実は......」
Satyが答えようとすると、
「なになに?れんとさんがどうしたって!?」
突然ヘッドホンをつけたツンツン頭が割り込んできた。よく見ると灰色の着物を着ている。なかなかに奇抜な見た目だ。
「......しょーぐんさん、今説明しようと思ってたんだけど」
Satyが呆れた声を出す。しょーぐんと呼ばれた男はなおもニコニコしている。
「いやーれんとさんごめんね!WWOでこの間こっぴどく負かせちゃって!まあカスタムだったからそんなになクヨクヨすんなって!強いてれんとさんの弱点を挙げるとするなら同じ方向から来すぎかなーあとは......」
どうやら別のゲームでれんとはこの男にこっぴどくやられたらしい。勿論そんなことは知らない平蔵は、ぽかんと口を開けることしかできない。
「......あれ?れんとさん、大丈夫?おーい」
しょーぐんが平蔵の前で手を振る。君のせいで情報処理が追いつかないんだよとすらも平蔵は言えなかった。
「しょーぐんさん?今から説明するけど、れんさんは......」
Satyが話そうとした時、突然後ろの扉が爆発した。
「あー……、あの人来ちゃったか…….これはまた説明が難しくなるぞ」
Satyが隣で何か言っているが、平蔵はあまりのことに声が出せない。
煙と粉塵の中から、呑気な声がする。
「あ、また入る扉間違えちった。まいいか。また研究班に請求すれば。あ、どうもっす皆様」
突然出てきた筋骨隆々の大男に、今度こそ平蔵の頭はパンクした。
「!ま、まさか......れんとニキ、私のことを忘れて......!?」
わざとらしく泣き崩れる筋骨隆々の大男─まかちーというらしい─の言葉を聞き、
「えー!?じゃあ俺のことも忘れた!?じゃ俺も泣いちゃおっかなー!」
としょーぐん。
「え、れんとさん大丈夫なん?」
とゆずが言い、
「いや大丈夫じゃないんだけど、まかちーさんが最悪のタイミングで来るからさあ......」
satyは頭を抱えていた。
わんわん泣く大男と着流しの少年に状況が掴めず頭の上にクエスチョンマークを浮かべたコートの女性、その隣には頭を抱える色黒の男性。ついでに近くの椅子には目をしばしばさせた人型の黒いもやが座っている。側から見ればかなりの地獄絵図であることは言うまでもない。
「はあ、誰かまともな人来てくれないかな......」
「帰ったよー、ってなんだこりゃ、どうゆう状況?」
satyが呟くと、後ろから声がする。satyは振り向いた。
「翁さん!遠征から帰ってきたのか!こっちは色々大変でさ、実は......」
とsatyが話そうとすると、
「戻りました、こちらも少々大変な事になってます」
「......」
「凄いんだな最近のゲームって。最近の若者がハマるのも頷ける。うちもこういうのに手を出せるかなあ?」
「お兄ちゃん、こっちだって!」
「待て、俺は方向音痴なんだ。そして今俺は『食器棚になぜ曲線が多いのか』という問いと格闘中なんだ。」
「......とりあえず、全員まとめて話を聞こうか?」
翁と呼ばれた白髪の腹巻をした壮年は、目を瞑りながらその見た目からは想像もできない若い声で言った。