8、一緒に
「魔力の暴発? だったそうよ」
「ーーそうか。魔力が枯渇して……そのまま、ということかな」
「おじさまは……あのとき私を庇ってくれたせいで、身体が悪くなってしまった……のでしょう?」
「いや、そんなことはないさーーもうかなり呪いが進んでいたんだ。アンナを庇えるほど動けたのが奇跡みたいなものだ。本当はあの時に君を引き取れたら良かったんだろうけど……俺もまだ修行中で半人前だったし……診療所に運ばれた親父の元に駆けつけた時にはもう、アンナは別の場所に連れて行かれてしまっていたからな。それがアンナの育った孤児院だったんだろう? 良い場所だったみたいで、それは本当に良かったよ。こうしてまた出会うまで、何で俺は忘れていられたのかーー信じられない」
「ギルだってまだ子供だったでしょう? 私たち家族のせいで、迷惑をかけてしまって……」
「迷惑だなんて思ってないさ。凄い冒険者だったおじさんには憧れていたし、おばさんのことも残念だったけど……それでも、アンナに会えたんだから。こうしてアンナとまた会えた、俺はそれだけで十分だよ」
「ギル……」
ギルの記憶と、ギルが昔おじさまから聞いた話。そして私の記憶と、孤児院の先生から聞いた話などをすり合わせて、私たちが幼い頃の出来事が整理された。
まさか、そんな昔から、私とギルが出会っていたなんて。驚くようなーーでも、あるべき所に収まったような。不思議で、でもなんだか温かい気持ちで、私は今日もパンを捏ねる。
「ギル、お待たせ。今日も来てくれてありがとう」
「アンナ、お疲れ様。さぁ、帰ろうか」
「ええ。今日はお土産があるのよ。あなたのために焼いたの。貰ってくれる?」
「もちろん! ありがとう、アンナのパンは本当に美味しいから嬉しいよ」
凛々しい眉に、真っ直ぐ前を見つめる眼差しは、黙っているとどこか厳しい顔付きにも見えるギルベルト。その彼が、眉をへにょりと下げて目を細め、ふわっと笑うその顔が好きだ。
一緒に歩いていても、自然とアンナのペースに合わせてくれて。ダンジョンの中の話や、ギルドの仲間の話を面白おかしく聞かせてくれて。サイラスさんがジュディさんに叱られていた話をすれば、お腹を抱えてゲラゲラと笑ってくれて。
そんな毎日が楽しくて、幸せで……失いたくなくて。
(ギルが、怪我しませんように)
(力が湧いてきますように)
(……ギルとこれからも一緒にいられますように)
そんな思いを込めて、パンを焼いた。
「それじゃあ、また明日迎えにくるから」
「ええ、ありがとう」
そっと肩を抱き寄せられて、金の輝く瞳が近付いて来る。瞼を閉じると唇に柔らかなものが触れてーーそっと離れていく。
視線を上げると少し照れたように笑うギルベルトと目があって。
この時間がずっと続いたら良いのにーーと、思った。