15、ペンダント
ジョアン様のところで、ダンジョンのその後の様子や、街の今後の運営などについて話をした帰り道。
ギルベルトと手を繋ぎながら、ゆっくりと夕暮れの街を歩く。
「あの時……龍を倒した時、アンナの親父さんが守ってくれたんだ。短い間しか一緒にいられなかったかもしれないけれど、親父さんは、アンナのことをとても愛していたんだなって思ったよ」
「そう……なの。そうなのね……。私……お父様のことはほとんど覚えていないけれど……そうだったんだとしたら、嬉しい」
「ああ、きっと、そうだ。そしてこれからは、俺がアンナの家族になりたい。アンナ。ずっとーー俺とずっと一緒に、いてくれないか」
その言葉に、嬉しくて飛び跳ねてしまいそうになる。
もちろんよ、と答えようとしてーー
(ギルと、これからもずっと一緒にいられますように)
ひゅっと息が止まりそうになる。
だってそれは。アンナがパンに込めた願いだったから。
「アンナ? どうした?」
「ーーいえ……なんでも、ないの。一緒に、いられたら……嬉しいわ」
「アンナ。君はーー俺と一緒にいたくない? なんでそんなに……苦しそうな顔をする?」
「違うっ!! 一緒に……私は一緒にいたい!! でも、それはーーっ、ギルの本当の気持ちなの?! 私……私が、操ってしまったのかもしれない……」
「操った……? なぜそんな風に思う? 俺は本当に、アンナと一緒にいたいと思っているよ。今までもアンナを愛しく思う気持ちは伝えてきたつもりだ。信じられない?」
「私……ギルのパンに『ずっと一緒にいたい』って、想いを込めたわ……。それは、私が無理やり誘導したことに、なると思う。そんな風にーーそんな風に人の気持ちを操ろうとするなんて、間違ってる。そんなつもりじゃなかったけれど……でも、それはギルの本当の気持ちじゃーー」
「アンナ。聞いて? 俺がいつから、アンナのことを好きだったか、知ってる?」
「ーーえっ?」
「アンナの、そのペンダント。開いてみて」
「これは……お父様の形見……よね?」
物心ついた時には、もうアンナの首に下がっていたペンダントは、父の持つ剣の意匠と同じもので。アンナは自然と、これは父の遺したものだと思っていたのだが。
裏を返すと、確かに開けそうな窪みがあった。今までどうして気付かなかったのかしらーーそっとそこを押し開くと、その中には。
月を溶かしたような金色の魔石と、サファイアのようにキラキラと揺らめく、夜の海のような青い魔石。
「これ……私たちの、誕生石……?」
「そうだよ。俺はアンナが生まれた時から、この子とずっと一緒にいたいって思ってた。だからおじさんとおばさんにお願いして、アンナを守る役目を下さいって、俺の誕生石も預けておいたんだ。アンナが成人した時に渡すって、その時までにアンナの気持ちもしっかり捕まえておけよって言われてな。そんなことも、アンナと再会するまで忘れてたんだから、格好つかないけどさ」
はははと照れたように笑うギルベルトから目が離せない。
赤ん坊が生まれる時、その手に握っている魔石は、一生に一度しか得られない貴重なものだ。それは、結婚する時に相手に渡すものなのに……それを、私が、ずっと持っていたというの……?
ぽろりと溢れた私の涙を、ギルベルトがそっと拭う。
「これで、信じられるか? 俺は、アンナとずっと一緒にいたい。誰に強制されたわけでもないよ、俺が、そう思うんだ」
「ぅ……ギル……ありがとう……私も。私も!!」
「ーー粉まみれの姿で再会した時に、2回目の恋に落ちたんだ」
悪戯っぽく笑うギルベルトの胸を、トンと叩く。
ずいぶんと長く伸びた2つの影が、その時、1つに重なった。