閑話、リリア
「リリア!! ただいま!!」
「父さんと母さんが帰ったぞー!!」
「お父さん……! お母さん……!」
その日、熊鈴屋に、サイラスさんとジュディさんの息子と義娘、つまりリリアの両親が帰ってきた。
2人は腕利きの冒険者として、ダンジョンに篭っていたのだ。
龍を屠ったことにより、ダンジョンが正常化して、魔物の大量発生が収まった。それによって2人も久しぶりに帰宅することができたのだという。
「あら……あなたは……」
その日も私はいつも通り、粉まみれになっていた。
真っ白な姿での挨拶は実に間抜けだが……お宅の娘さんのせいなので、勘弁してほしい。
「こんにちは。2年前からお世話になっています、アンナです」
「あ、ああ……君が。話は聞いているよ。よく働いてくれているようで、ありがとう」
「それで……なぜ?」
「あーーえっと……」
「お父さんとお母さんも……アンナに取られるの……? なんで……なんでよ! 全部あんたが! 全部!!」
「リリア? どうしたの。話を聞かせて?」
「どうしても何もないわよ! みんな、私のことなんてどうでもいいのでしょう?! お父さんとお母さんはダンジョンから帰ってこないし!! おじいちゃんとおばあちゃんはアンナに付きっきりで私のことなんて見てないし! 悪いことをしたって叱りもしない!! 興味がないからでしょう? アンナにはあんなに厳しく店の仕事を教えているのに! 店に来るお客さんだって、アンナが目当てだし! 物だけ買ってくれたって、そんなの嬉しくもなんともないのよ! 私を見てよ! 話を聞いてよ!」
「リリア……そんな風に思っていたのね。お母さんたち、間違っていたわ。リリアに少しでもいい暮らしをさせてあげたいと思って、冒険者の仕事を頑張っていたのだけれど……そうよね。あなたの話を、もっと聞くべきだったわ」
「悪かった。これからはもっと、一緒に過ごそう」
「リリア。私たちも、悪かったわ。ただ甘やかすだけが愛情ではなかったわね」
「おじいちゃん、おばあちゃん……」
抱き合って涙を流すリリアとその家族たちを見ながら、私はそっと抜け出した。
お風呂に入ってこよう……どんなに仲違いしても、話し合って、またやり直せる家族がいること。それがとてもーー羨ましくて。
頬を流れる熱いものは、流れるお湯だった、と、思う。