14、1人じゃない
目の前には、俺の命を喰わんとする、龍。
「悪いな。ここで死んでもらうぞ」
ギラギラとした目に怒りを湛え、グギャーグギャーと耳をつんざく声で啼く龍。
「うるせぇ黙れ!」
まずは小手調べに風の魔法を乗せて切り付ける。いつもの倍……いや、3倍は威力があるか。アンナを思うと、無意識のうちに口元に笑みが浮かぶ。
ギャーーーー!!
切られた鱗に激昂し、尾を振り回し、近寄らせまいとしているが。
その尾が邪魔、ってことだな。
「お望み通りに!!」
尾を狙って、水の魔法を乗せた大剣で斬りかかる。
避けた尾が壁にびしゃんとぶつかり、壁が崩れる。
ガラガラと落ちる岩石が飛び散り、跳ね返り、頬にぴしりとぶつかった。
そちらに気を取られた一瞬で龍は息を吸い、目を爛々と光らせ、俺をブレスで射ようとーー
『絶対に、帰ってきてね』
諦めるわけにはいかない。咄嗟に大剣を身体の前に翳し、盾のように構える。すると、カッと光が溢れて、俺を守るように包んでいく。
吐き出されたブレスが光の盾にぶつかり、跳ね返るように戻された。
グギャーーーー!!
(……まだまだ父さんには敵わないな)
自分のブレスを返されて傷付いた龍は、しきりに喉元を気にしている。
父が調べた資料を読み返している時に、見たことがある。龍の喉元には、一枚だけ逆向きに生えた鱗があるのだと。龍はそれを触られる事を極端に嫌がるのだと。つまりそれはーー
「そこが、弱いんだ、ーーなっ!!」
振り回された尾を飛び越え、走り込んで飛びかかり、その喉元に刃を立てる。
ただ必死で、なんの魔法も乗せる余裕がなかった……はずだが。
そこには自分のものとは違う魔力が纏っていて。
グ……ギャアアアアーーーー!!
断末魔の叫びを残し、俺が切り付けた喉元から、龍は燃えた。
「火の魔法ーーアンナの親父さん、か」
手元の大剣を見下ろすと、その紋章がキラリと輝きーーアンナを頼んだぞ、と聞こえたのは、俺の願望だろうか?
「ーーまだまだ俺は、半人前だな」
ふっと力が抜けて、魔力が空っぽに近いことに気付く。格好付けていてもやっぱり緊張してたんだな、と笑いがこみあげる。
立ち上がることもできず、ずるずると地べたに蹲りながら、それでもアンナと過ごす未来を、諦めることはできない。これから変わっていくこの街を、一緒に見ていきたい。
冷たい指をなんとか動かして、アンナが持たせてくれたパンを口に運ぶ。
「……美味いな……」
心配、不安、恐怖。応援、希望、力。アンナが込めた祈りが心に浮かんでは、染み入るように消えていく。
(愛してる)
最後の一口を飲み込んだ時、冷えた指先から胸の奥底まで、全てがぶわりと発熱するような、そんな想いを受け取ってーー
こんなところで油を売っている場合じゃない。帰ろう。俺の、大事な人の元へ。