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14/17

14、1人じゃない

 目の前には、俺の命を喰わんとする、龍。


「悪いな。ここで死んでもらうぞ」


 ギラギラとした目に怒りを湛え、グギャーグギャーと耳をつんざく声で啼く龍。


「うるせぇ黙れ!」


 まずは小手調べに風の魔法を乗せて切り付ける。いつもの倍……いや、3倍は威力があるか。アンナを思うと、無意識のうちに口元に笑みが浮かぶ。


 ギャーーーー!!


 切られた鱗に激昂し、尾を振り回し、近寄らせまいとしているが。

 その尾が邪魔、ってことだな。


「お望み通りに!!」


 尾を狙って、水の魔法を乗せた大剣で斬りかかる。

 避けた尾が壁にびしゃんとぶつかり、壁が崩れる。

 ガラガラと落ちる岩石が飛び散り、跳ね返り、頬にぴしりとぶつかった。


 そちらに気を取られた一瞬で龍は息を吸い、目を爛々と光らせ、俺をブレスで射ようとーー


『絶対に、帰ってきてね』


 諦めるわけにはいかない。咄嗟に大剣を身体の前に翳し、盾のように構える。すると、カッと光が溢れて、俺を守るように包んでいく。

 吐き出されたブレスが光の盾にぶつかり、跳ね返るように戻された。


 グギャーーーー!!


(……まだまだ父さんには敵わないな)


 自分のブレスを返されて傷付いた龍は、しきりに喉元を気にしている。

 父が調べた資料を読み返している時に、見たことがある。龍の喉元には、一枚だけ逆向きに生えた鱗があるのだと。龍はそれを触られる事を極端に嫌がるのだと。つまりそれはーー


「そこが、弱いんだ、ーーなっ!!」


 振り回された尾を飛び越え、走り込んで飛びかかり、その喉元に刃を立てる。

 ただ必死で、なんの魔法も乗せる余裕がなかった……はずだが。

 そこには自分のものとは違う魔力が纏っていて。




 グ……ギャアアアアーーーー!!



 断末魔の叫びを残し、俺が切り付けた喉元から、龍は()()()


「火の魔法ーーアンナの親父さん、か」


 手元の大剣を見下ろすと、その紋章がキラリと輝きーーアンナを頼んだぞ、と聞こえたのは、俺の願望だろうか?



「ーーまだまだ俺は、半人前だな」


 ふっと力が抜けて、魔力が空っぽに近いことに気付く。格好付けていてもやっぱり緊張してたんだな、と笑いがこみあげる。

 立ち上がることもできず、ずるずると地べたに蹲りながら、それでもアンナと過ごす未来を、諦めることはできない。これから変わっていくこの街を、一緒に見ていきたい。

 冷たい指をなんとか動かして、アンナが持たせてくれたパンを口に運ぶ。


「……美味いな……」


 心配、不安、恐怖。応援、希望、力。アンナが込めた祈りが心に浮かんでは、染み入るように消えていく。


(愛してる)


 最後の一口を飲み込んだ時、冷えた指先から胸の奥底まで、全てがぶわりと発熱するような、そんな想いを受け取ってーー



 こんなところで油を売っている場合じゃない。帰ろう。俺の、大事な人の元へ。

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