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13、あなたのために

「これが封印の鏡だ」


「ーー父さんの魔力が込められているな」


「あぁ……そうか、祖父の代で龍を封印したのが、ギルベルトの父上だったな。あの時は隣国からの侵略に備えて金と魔核が必要だったと聞いている。だからと言って龍の封印を解いたのが正しかったとは言いたくないがーー罪なき領民を死に至らしめたこと……祖父は死ぬまでずっと悔やんでいたよ。それを聞いていた父上は、もうこの悲劇を繰り返してはいけないと、改革案を作っていた。これからは私がそれを引き継いでいくが」


「頼むよ。父さんも……多分、龍が何なのかは、わかっていたんだと思う。だから俺に頼んだんだ。あれを断てと。この手の中にあるものだけで、人は幸せになれるから、と」


「そうだな。私も、そう思う。皆がそう思える世の中を、作っていかなければならないな」


「よし、そんじゃあ、あともう一踏ん張りといきますか」


「ギルドにも応援を依頼してある。小物はそちらに任せよう。長年この地で、命を喰わせて育てた龍だ。ーー強いぞ」


「分かってるさ。でも俺には、アンナがいるからな」


「ああ、アンナ嬢なら聖女の力で君を守ってくれるだろうな」


「ーー違う。俺が、アンナを守るんだ。アンナの両親とも約束したんだ。アンナは……俺が守る。聖女だからじゃねえ。力なんてなくたっていいんだ。アンナがアンナであれば、それだけでいい。アンナが待っているから、俺は帰ってくる。ただ、それだけだーーーーそれにな?? あんなに可愛いんだぞ。俺が留守の間に、どこの男に狙われるか分かったもんじゃねえ。今だって、熊鈴屋にはアンナ狙いの狼がうろちょろしてんだ。ギルドでも話題になってるんだぞ。あの髪の毛の煌めき、あの瞳の輝き、あの笑顔の素晴らしさったら言葉じゃ表現できないだろう!! だから!! 俺は、最短で戻る!!」


「お……おう、分かった。では明日、封印を解く。今日はゆっくり休んでくれ」





(ギルが無事で帰ってきますように)


(ギルに力が湧いてきますように)


(ギル……愛してる)


 想いを込めて生地を捏ねる。明日、ギルベルトは龍と戦うのだ。

 父は帰ってこなかった。行って欲しくない、と言ったら、彼は側に居てくれるかもしれない。ーーけれど。

 今私に出来ることは、やっぱりパンを焼くことだけなのだ。



「ーーこれ。あなたのために、焼いたの」


「ありがとう。アンナのパンがあれば、何も怖くないよ」


「……ギル。絶対に、帰ってきてね」


「もちろんだ。アンナこそ、知らない人に声をかけられても、着いて行ったらダメだぞ? お菓子をくれるって言ってもだ。あと、脇道の暗いところに入ってもダメ。サイラスさんとジュディさんから離れないこと。それから……」


「ーーギル! 分かったから!」


「はは、やっぱりアンナには笑顔が似合う。俺の大好きなその瞳を、よく見せてーー」


 ギルベルトの月の光のような瞳が、私を覗き込むように近付いてきて。

 背中にぎゅっと腕がまわり、唇が触れ合う。

 何度も繰り返されるそれは、私が今ここにいる事を確かめるようで。

 その腕は少し震えて、縋るようだったから。私も、ギルベルトの背中に腕をまわして、力一杯抱きしめた。

 

「待ってるね」


「ああ。行ってくる」



 最後にもう一度、ちゅっと音をさせながらキスをして、ギルベルトは、行った。

 もう振り返りはしなかった。

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