表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/17

12、聖女の罰

「……ジョアン。エリーシアをどこへやった」


「おや、やっとお気づきですか。下品な女を侍らせて、賭け事に忙しくなさっていたので、報告が遅れてしまいましたね」


「ーーっ! 小僧が舐めやがって……」


「叔父上こそ冷静になった方がいい。人質も失った今、叔父上の手駒はあまりにも少ないのでは? この領を豊かにしたいという想いは、我々共通のものではありませんか。話し合えばいい妥協点も見つかりましょう。さぁ、今はまず温かいうちに食事をいただきましょう」


「くそっ!」


 苛立たしげに食事に手を伸ばす叔父上は、言い争っているうちに入れ替えられたパンには気付かない。


(本当に愚かな人だ)


 乱暴な手つきで千切り、パンを口に入れる姿を眺める。アンナからは『想いを込めた』とだけ聞いている。何が起きるか分からないが……あの腹痛は辛かったな、と思い出し、ふっと笑みが漏れる。


 そんなジョアンと、不審気なブライアンの視線が絡み合いーー



「ーーおにいちゃん、だあれ?」


「……」


「ぼく、ブライアンっていうの。おにいちゃんはきれいな髪だね」


「ーー私は、ジョアンだ。ブライアン、君はどこから来た? 何を覚えている?」


「ぼくは……5さいで……どこから……? うんと……わかんない」


 瞳いっぱいに涙を浮かべて俯く50がらみの爺に可愛げもなにもあったものではないがーーこれが、聖女の罰ということか。

 色と金と権力に溺れ、領民の命を使い捨てのように扱った叔父は。

 全てを忘れ、物の道理も分からぬ子供に戻ったらしい。


「こんなやつにもやり直しの機会を与えるか……アンナ嬢らしい、な」



 父の命を奪った叔父上を恨んでいた。その上大事な人まで危険に晒して、領を私物化して。

 殺してやりたいとーー思っていた。今の叔父を殺すのは容易いだろう。なにせ、呑気に目の前のスープを飲んでいる5()()()だ。

 殺したら、スッキリするだろうか。恨みは晴れるだろうか。それでーーいいのだろうか。

 知らぬうちに、ふふふ、と笑いが溢れていたようだ。

 不思議そうにこちらを見て首を傾げるブライアン。


 ベルをひとつ鳴らし、父の代から仕えている執事を呼び出す。


「孫が巣立って、生きがいがない、寂しいと言っていたな? ーーこれを、やる。お前の好みに躾けてやってくれ。ブライアン、5歳、だ」


「ーー腕が鳴りますな」



 幸せな人生を生き直してほしいなどと思ってやるほど、優しくはないが。

 いい街を作ると約束したのだ。

 幸せな領民が1人増えるとしたら、それは、悪くはないことだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ