七話
ここでの生活には慣れてきた。いったい何日経ったかはわからない。窓もなければ時計もないからだ。目が覚めるとあの謎の食事会が始まる。まずいキノコを食べてからはすることがないので出口を探して此処をふらつく。そしてもう一度食事会ののち独房のような自室でうずくまって眠りにつくのだ。
精神が削れていくのを感じる。そして硬い床で寝ているので体も痛む。俺は出口と毛布を家探しして回っていた。ここは私の思っている何倍も広い。迷路のようで迷うこともある。そうなると決まって少女がどこからともなく触覚を揺らしながら現れ、いつもの部屋に導くのだ。自由はあるが監視されているらしかった。
物置以外にも部屋には色々な種類があった。謎の機械のある部屋。キノコの栽培施設。そのキノコを加工している部屋。裁縫工場。少女たちが頭につけている触覚を組み立てる工場まであった。どうやら少女たちはここで生産され、運営までしているらしい。どこかに少女の体を造る工場があるのかもしれない。
◇
家探ししていると見たことのないタイプの部屋に出た。扉を開けるとむわっとした張り付くような湿度と熱気を感じた。どの部屋より巨大でドーム状をしている。そして一面緑の草木で覆われている。亜熱帯のような木々が覆いかぶさるように立ち並び、天井には巨大な半球状のライトがこうこうと輝いている。
「人口太陽か」思わずそうつぶやいた。SFでしか聞いたことのない技術を前にして俺は改めて少女たちを造った者の技術力の高さに驚いた。
入り口から真っすぐ道が緑の中に伸びている。俺は誘われるようにその先へ進んだ。
草木を押しのけて進んでいくと少し開けた場所に出た。ティーテーブルが置かれ、椅子に少女が腰かけている。少女はこちらに気が付くと手招きして向かいに座るように促した。
少女は金色の流れるような髪をしていて、服装も今まで見たメイド服の少女たちとは少し違っていた。しかし頭からは触覚が2本突き出している。人間でないことは確かなようだ。
そして彼女からは変な音が鳴っている。ぴーという雑音のような機械音が出ている。音程が絶えず変化しており不安を煽る。もしかしたら故障かもしれない。
彼女は机に置いてあった食器を手に取ると、また変な音を鳴らした。ふぉ、ふぉ、ふぉと空気の漏れるような音までし始めた。まずいかもしれないこいつが故障していて爆発したらどうしよう。
机の皿の上に置いてあるキノコには手を出さずコップの水だけ飲んだ。経験上恐らくこのきのこは不味い。というよりここの食事はすべて不味い。腹は膨れるが美味しかったことは一度もない。少女を造った奴は彼女たちに味覚を搭載すべきだ。
「ふぉ……お……く」
俺は固まった。背筋が凍り付くのを感じる。聞き間違いかと思った。しかし彼女は今度はハッキリと話した。
「ふぉーく」
「ちがう。それはスプーン」
俺が動揺しながらそう返事をすると金髪の少女は口角をあげて笑顔を作って見せた。