6話
トイレの問題は解決した。この独房のような部屋の向かいの扉を開けると大きな穴がありそこに少女たちは生ごみを投げ捨てていた。つまり何が言いたいかというとそういうことだ。無論仕切りも紙もない。紙は適当な部屋にあった古い本を拝借した。全く知らない言語のその本は値打ちものかもしれないが背に腹は替えられない。
この本もしかりここには人間の生活用品が雑多に集められている。しかし使っているわけではないようだ。ただ集めてるといった具合で積み上げられ放置されている。そんな物置のような部屋がいくつもあった。この山のどこかに俺の荷物があるのかもしれない。
◇
「出口はどこかなー?わかる人ー?はーい」
俺は適当な少女を捕まえてやけくそ気味に遊んでいた。向かい合うように座って彼女の手を取り上げ下げして、万歳させて遊ぶ。
「もう一度行くぞー出口どこかなー?ばんざーい」
無理やり万歳させられた彼女は無表情だ。その能面顔を見ていると虚しくなってくる。なにをやってるんだろう俺は。彼女を解放してやった。
しかし少女の中で強制万歳ごっこは何か火をつけたようで俺の手を取ると激しく万歳し返された。ブンブン振り回される腕が痛い。やめてくれ。その遊びは俺の中でブームは過ぎた。
俺の願いとは裏腹にこの万歳ごっこは少女たちの中で瞬く間に浸透し、数時間後には知らない少女からもこの遊びを要求されるまでになった。俺が座ると少女たちも向かうようにすわり両腕を伸ばしてこれを要求するのだ。
やはり彼女たちの間には言語のようなものが存在するらしい。触覚を触れ合わせるあの行為で伝え合ってるのかもしれない。凄まじい伝播力だ。人間は音で情報を伝えるため、情報を伝えるのに時間がかかる。同時に複数人に伝えられるというメリットはあるものの複雑な情報ほどそれは顕著になる。そのうえ聖徳太子のような優れた聴力を備えていない限り、複数人が同時に話すと聞き手は情報を理解できない。
しかし彼女たちが仮に触覚を触れ合うだけで情報を交換しているのなら、かなりの短時間で情報を伝えることができる。さすが機械。無駄なおしゃべりで時間を取られる人間より幾分優秀だ。
もしかするとこの遊びを人間の挨拶だと思っているのかもしれない。彼女たちは触覚で触れ合って挨拶する。行動と接触で会話するのだ。彼女たちにとってこの万歳ごっこは馴染みやすかったのかもしれない。そうでなければ俺の腕をブンブン振り回すのが楽しいかどっちかだ。表情からは読み取れないので推測するしかない。
どちらにせよ俺は肩を痛めた。