5話
「その……困ったことがあって。自分じゃ判断がつかなくて」
「姫様はっきりとおっしゃってください」
彼女は緊張すると人差し指と中指を握りこむ悪癖がある。国の指導者たるものとして、しっかりとして欲しい。彼女は若すぎる。まだ18だ。しかしそれではまずいのだ。早く大人になってほしい。そもそも魔法の技量で後継者を決めるのを辞めて欲しい。あまりにも前時代的だ。
「でもそのアマコ将軍を信用してないわけじゃないけどなんていうかは暴力とかその荒っぽいことはちょっとやめてほしくてできれば穏便に解決してほしくて」
「姫様。車を待たせております。この後軍事演習の視察がありまして」
「えっとえっと……」
「この前ハリケーンがあったじゃない?あのとき変なものが海岸で見つかって……多分魔海の方から川を流れてきたみたいで……でもそんなの見たことなくて……一応魔海もうちの領土だから……えっとその将軍も何かわからない?」
「変なもの?」
姫様に手渡された分厚い紙束の資料に目を通す。読む気が起きない。またくだらない隣国との揉め事だろう。ペラペラ流し読みしていると一つの写真に釘付けとなった。白黒の写真だ。
「なんだこれは……。失礼急用を思い出しました」
「え……ちょっと……」
「この件、私にお任せを。我が星国を脅かす一大事です」
◇
「ドイ、今月の予定はすべて変更。演習も中止だ」
真っ黒な黒塗りの車に乗り込むと運転手のドイに矢継ぎ早にそう言った。
「アマコ様どういたしました?」
「とうとうあらわれたぞ。我々と戦うに相応しい相手が」
「本当ですか⁉」
「ああ、長かった。二十年待った。二十年備えた。いよいよだ。我々異世界人が英雄になる日がきた」
「本当に……本当なのですね……ようやく我々がこの世界に来た、意味が、できるのですね」
ドイは泣いている。気持ちは分かる。彼は故郷に妻子を残してきているのだ。ようやく戦える相手が現れた。私も同じ気持ちだ。泣かずとも、今にも踊り出しそうだった。
資料の写真、我が宿敵の顔を見る。検死台の上に横たわった頭から触覚の生えた機械を見てほほ笑む。これを造った奴はどんな奴かは分からない。だがダンスにこれ以上相応しい相手もこの世界にいないだろう。