2話
状況を理解するのに時間がかかった。俺は目が覚めると知らない場所にいた。俺は毛布もなく転がされていたようだ。白いプラスチックのような硬いタイル張りの部屋で、独房を思い浮かべた。
記憶をたどると崖から滑り落ち、木の枝のようにへし折れた右足を思い出した。恐る恐る確認すると不思議なことに傷一つなかった。触ってみると更に不思議なことに足に触られた感触がない。立ち上がると少しよろけたが問題なく立ち上がれる。しかし足の裏からは地面の感触は一切感じない。歩き回ったり軽く跳ねたりいろいろ試したが歩行に問題はなかった。感覚は無いのに俺はどうやって歩いてるんだ?いろいろ動き回ったが自分でもよくわからなかった。
擦り傷や打撲は体中に残っており、老人のように節々が痛む。崖から落ちたのは事実のようだ。
飛んだり跳ねたりしながら自分の足を確かめていると扉が開いてメイド服のような服にあのへんな触覚を付けた女の子が入ってきた。
「助けてくれてありがとう」
俺は少女に目線を合わせてお礼を言った。しかし少女は動かない。おおきな目をぱちくり瞬きをして、触覚をゆらゆら揺らしている。
「それでここはど……うっぷ」
少女は突然頭に生えた触覚を顔面に押し付けてきた。切れた唇が痛いし鬱陶しい。しかしこの村の独自の挨拶かもしれない。俺は手で軽く触覚を押し戻す。
触覚に触れると二回ほど触覚を大きく動かし時が止まったように固まった。
「俺の名前はハルキ。君は?」
「おーい」と声をかけながら少女の目の前で手を動かすが反応がない。少女の瞳を覗き込む。瞳の奥で何かが動いてる。いくつもの金属の板やカメラの絞りのようなパーツ、レンズに人工的な光、無数の機械が動いている。
「ロボット?」
俺がそう呟くとくるりと背を向けて部屋から出て行ってしまった。なんだ?森に少女の形のロボットがいてそれが俺を助けたってことか?俺は混乱した。
しばらくするとまた彼女は戻ってきた。もう一人誰かを連れている。彼女たちは瓜二つだった。同じ顔に同じように触覚を生やして同じメイド服を着ている。双子?
そっくりな二人は俺に頭から生えた触覚を押し付けてきた。今は立っているので腹辺りに触覚が当たってくすぐったい。俺はさっきしたように触覚に触れてやると彼女たちは満足したのかまたすぐ出て行ってしまった。
なんだこれ?俺が困惑しているにも関わらず今度は四人になって現れた。全員同じ顔に同じ服装コピーしたように同じ見た目。本当にまだ俺は夢を見ているのではないだろうか。また同じように触覚を押し付けてくる。だんだん気味が悪くなってきた。しかし押しのけることも出来ずに同じように触覚を撫でてやるすると同じように出ていく。
すると当然ぞろぞろと列をなして同じ顔の少女が八人部屋に入ってくる。俺は内心怯えきって、触覚を突き付けてくる彼女たちから後ずさりして気が付けば部屋の角に追い詰められていた。