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突風で森の木々はごうごうと音を立てて揺れている。大きな雷が轟き、横殴りに降り注ぐ雨の中与えられたタスクを確認する。「換気用のダクトの修理」ダクトは遠隔操作で開け閉め可能だが今回のハリケーンでは何らかの原因で閉まらなくなってしまっているらしい。閉まらないダクトからは何故か水が大量に流れ込み我が家である地下は水浸しになっている。早く直さなければ姉妹たちは溺れてしまうだろう。


故障したダクトは一番川に近い位置にある。近いとは言っても十分離してあったはずだ。森の中を流れる比較的穏やかな川だ。


しかし川はハリケーンで大きく様変わりしていた。茶色い濁流で泡立ち、川幅もいつもの何倍にもなっている。川が怒ってるみたい。そう思ったが今はダクトの確認が優先だ。


増水した川に足を踏み入れる。腰の上まで水に沈む。危険な状況を示唆するアラートが頭に鳴り響く。母に確認すると゛このまま任務を続行すべき゛と返信が来た。ゆっくり激しい流れに足を取られそうになりながらもなんとかダクトの位置までたどり着く。


岩にカモフラージュされ配置されたダクトには大きな木の枝が絡まりごぼごぼと音を立てて水が入り込んでいる。どうやら異物のせいで閉まらなかったらしい。最悪応援が必要な可能性もあった。しかしこれは一人で解決できそうだ。


強引に引っ張る木の枝を引っ張る。なかなか取れない。水中でもう一度踏ん張り直し。思いっきり引っ張る。バキッと枝の折れる音と共に川の中にひっくり返った。


姿勢制御システムが正しい姿勢を取るように警告。拠点から離れている警告。母からは状況の報告を催促する通知。その他様々な警告がされる。しかし状況が確認できない。何とか水面に顔を出す。両脚は川底につかずバタバタと水中を掻いた。自分の記憶領域を探っても泳ぎに関する記憶は見つからない。水面を何度も沈んだり浮いたりを繰り返し川下に流されてゆく。


これは助からない。母に連絡し情報漏洩防止処理行うことを伝える。高圧電流で電子頭脳を丸ごと焼き切る最終手段だ。蓄電器にエネルギーを集中させる。あと二十秒で自分は機能停止する。


ふと無重力感を感じる。とっさに頭部を両腕で守る。恐らく滝だ。滝から落ちた。その判断は正しく。鈍い音と共に激しい衝撃が襲う。人工筋肉が断裂し、金属フレームが大きくゆがむ。運悪く岩に激突したらしい。蓄電器が誤作動し中途半端に貯めたエネルギーを放電し電子頭脳がエラーを大量に吐き出す。


身体のあらゆるパーツが正しく動作していない。指先さえも動かない。処理すべきタスクは無数にある。しかし一つも解決できそうにない。あらゆる通信から切り離され、初めて本当の意味で一人になった。毎分レポートの提出を要求する母もいつも一緒に任務をこなす姉妹も感じない。


水底に沈みながらひとりぼっちは嫌だなと思った。


挿絵(By みてみん)


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