あれ、儂の部下も召喚された?
大変、お待たせしました!
少々忙しくしており、更新が滞って申し訳ありませんでした!
本日よりまた、よろしくお願いします!
手に持っている召喚石に魔力を込める。
さすがに魔法が苦手といってもこれぐらいのことは出来る。グローブを使ったとはいえ、魔力には何度も触れているし扱った経験もある。
あたしの魔力を受け取った召喚石は、それに応えるようにお母様と同じ輝きを放ち始める。
そして目の前に結界が広がり、召喚が始まった。
数ある召喚石の中で今回あたしが選んだのは、人型の召喚石だった。
そう、種族どころか系統すら分からなかった本当の意味で正体不明の存在を召喚する。
もちろん気まぐれなんかじゃないわ。ちゃんと選んだ理由があるもの。
まず現状であたしにとって「必要な従魔は何か?」という疑問について昨日の夜、考えてみた。
許可を出したお父様たちの需要としては、あたしの護衛が務まるという点を満たす必要がある。
ここで求められるのは一定以上の戦闘能力だ。とはいえ、どの程度の強さを基準とすればいいのか分からないし、身近なところにも参考に出来そうな人が色んな意味でいない。
それこそお母様が召喚したような『テンペストキャット』のエルザぐらいの格がある存在なら、そこら辺の心配もいらないんだけど……そもそもの話、エルザは例外中の例外だ。
元神の使いなんていうトンデモない存在がそう簡単に召喚出来る訳が無い。
普段のガチャガチャでいえば、きっと金色――いえ、虹色のカプセルぐらいのレア度でも何もおかしくないのだ。
よって、今回の基準としたのはAランク魔物に勝てるかどうかだ。
お姉様たちはフレイムドラゴンというAランクの魔物を何の気なしに倒したらしいけど――世間一般でいえばAランクの魔物とは国が軍を動かす場合があるような国家規模の問題ともなる魔物だ。
それと戦って倒せるだけの戦闘力があれば、よっぽどのことがない限り万が一もないはず。
だから倒せないまでも、互角程度に戦えるという部分を最低ラインとして設定したのだ。
そして、あたし自身が従魔に求めること――それは、あたしのお手伝いが出来ること。
これは最近の話なのだけど、助手のような存在がいればいいなと常々思っていたのよ。
最近は<ガチャガチャ>スキルのお陰もあって、これまでよりも出来ることの幅が大きく広がっている。その為それに付随して、新しく手を出したいアレコレもどんどん増えてしまったのだ。
じゃあ従魔じゃなく人を増やせばいいと思わなくも無いけれど、それも簡単には出来ないのだ。
何故ならあたしのスキルは少し、ではなくかなり特殊だ。それもあっておいそれと外部から人間を雇うわけにもいかない。
まあでもこれについては正直なところあまり期待はしていない。
従魔に自分の研究を手伝わせるっていう方が無理な気はしているから。だから最低限お父様たちの心配事である、あたしの護衛問題を解決出来ればいいと考えている。
「さて、どうなるかしら――」
ちなみに、二つあった人型の絵が描かれた召喚石。
一つが『全身をローブで隠した人型』、もう一つが『背中に何かが生えている人型』だった。
ローブの方は全く正体が掴めず、もう片方は「背後のコレは何?」という疑問に決着がつかなかった。
羽のようにも見えれば、四本腕にも見えるし、もっと言えばマントのようにも見えなくもない。
その中であたしが選んだのは、ローブの方だった。
どっちも怪しいには怪しいんだけれど……腕が四本あるかもしれない怪物よりも、多分形的には普通の人間と同じっぽいローブの方を選んだ結果だった。
まあ、あたしとしては『ウィッチ』とかそこら辺なんじゃないかって期待してる部分もあるんだけれど……
そんな期待? を抱きつつ、結界の中に注目していると遂にローブが姿を現した。
やはり、絵の通り全身にローブを被っているが背格好は人間の大人と同じぐらいだ。
しかし……やはり肝心の顔が分からない。深くかぶったフードのせいで、口元すら出来ない状態だった。
そして、それ以上に異様なのが結界の中の様子。
黒い靄のようなものが結界の中に充満し、ローブはまるでそれを纏うかのように佇んでいた。
『我を呼んだのは……貴様か?』
「っ……!」
声が聞こえてきた。
聞きようによっては、若い張りのある声にも皺がれた老人の声にも聞こえる不気味な声だった。ただ一つ分かるのは、男の声であるということ。
この時点でウィッチという線は消えた。では目の前のこの存在は一体何なのか……?
そして同時に、自分と現れた存在との間で『何か』が繋がるような感覚が生じた。
『ふむ、もしや聞こえておらぬのか? ではもう一度聞こう。我を呼んだのは、貴様か?』
「ご、ごめんなさい。ちゃんと聞こえていたわ。ええ、あなたを呼んだのはあたしよ」
思わず呆気に取られて勘違いさせてしまったことを謝罪する。
もしかして怒らせしまったかと緊張したが、それは杞憂だった。
『そうか。まあいい、気にするな』
どんな感情なのかは、少なくとも声音からは判断できないが素直に受け取るなら怒ってはないらしい。
しかしこの存在の放つ形容し難い異様な気配が、これ以上失礼があってはならないと感じさせた。あたしは今度はすぐに反応して、取り合えず自己紹介をしておく。
「あ、ありがとう。あたしはクレハ・カートゥーン。ここハルモニア王国にあるカートゥーン男爵家の三女よ。突然召喚してしまってごめんなさい」
『なるほど、ここはハルモニア王国のある地だったか。それに貴族の小娘に召喚されるとは思ってもみなかったな。子どもながらに丁寧な挨拶に感謝しよう。では今度は我も番だな――』
すると、ローブ男は頭に被っていたフードを脱ぐ。
その下から現れたものを見て、あたしは息を呑んだ。
一言で表現するなら――骸骨。それ以上でもそれ以下でも無い。
窪んだ眼孔には不気味に揺らめく紫の炎が灯り、少し身体が動くだけで骨同士のぶつかるカチカチと言う音が聞こえてくる。
そしてローブを脱いだ瞬間、先程まで感じていた異様な気配が大きく増したのを感じた。
心に生まれたのは目の前の存在に対する『恐怖』という感情。いつの間にか全身には冷や汗をかいて、肌は粟立ち背筋には悪寒が走る。
まるで生物としての本能が、目の前の存在を拒否しているかのような―――そんな感覚。
それをあたし同様に感じたのだろう。
お父様とお母様、そしてエルザがあたしとローブの間に入って背に庇おうとする。
『――おっと、地上にはほとんど来ないものでな』
そうローブが呟くと、結界の中を漂っていた黒い靄が吸収されるようにローブの体内に入っていく。
すると先程まで感じていた異様な気配がかなり薄くなったのが感じられた。
「「「……」」」
『これは……うむ……――』
気配は薄くなったけど、さっきまでの感覚は身体に残っている。
どうしてもこの骸骨を前にして、身体が強張り警戒してしまうのを抑えることが出来なかった。
それを見た骸骨は、顎に手を当てて何かを考えるような仕草をする。
『……はぁ~、仕方ないか。怖がらせちゃってごめんな? 地上なんてかれこれ数百年は来ていなかったから、自分のオーラが地上の生物には合わないってこと忘れてたんだ』
「「「……え?」」」
そして放たれたのは、そんな言葉だった。
『改めて自己紹介をさせて欲しい――どうも初めまして! 俺の名前は『タウロ』。死者の魂の至る場所『冥界』にて宰相なんぞをやっている。種族は昔や骸骨だったけど、何度か進化を繰り返して今は【骨の大賢者】だったかな?』
さっきまでの威厳と威圧の伴った態度は何処へやら――
ローブの骸骨――タウロと名乗ったソイツは愉快そうの骨を鳴らしながら笑う。
しかも……冥界の宰相って――
「ねえ今、冥界の宰相って言った……?」
『ああ、言ったな。と言っても冥界にやって来る魂の管理とか、冥界に住む奴らの管理とか――とにかく面倒臭い雑用ばかりやらされるお飾りみたいな役職さ。もしお嬢さんが冥界に来るときは俺の名前を出すといい。裁判までの流れを優先してやるぞ?』
「……えぇ?」
ちょっと待って。いきなり情報が多すぎてかなり混乱してるわ……
まず何で急に態度が変わったの? さっきまでは威圧感すら漂う威厳を持った空気を纏っていたのに、今では街にいるような気のいいお兄さん? になってしまった。
それに自称、冥界の宰相という言葉……
冥界は、簡単に言えば死者の魂の生前の行いによって裁判し罰を降す場所のことだ。
良い行いをしていれば、罪も軽くなり――もし悪行を犯していれば、辛い責め苦を受けることになる。
ただし、冥界とは死者が辿り着く場所だ。
行って帰って来た人間なんて当然ながら存在しない――と言いたいが、歴史の中では何人か存在している。
あたしにはそれが嘘か本当か判断はつかないけれども、それらもあって『冥界』の存在は世間一般でも広く知られているのだ。
信じているかどうかはともかくとしてね?
そんな場所の自称宰相様が現れるなんて、何がどうなってるのよ……
『にしても驚いたな~。俺ってこれでも冥界でもかなり上位の存在だから、そう簡単に召喚されるはずは無いんだけどクレハ――ちゃんだっけ? よく俺のことを召喚出来たよな?』
「それに応えるより前に、どうして急に態度が変わったの? さっきまでとはまるで別人じゃないの」
あたしの言葉に同意するようにお父様とお母様がコクコクと頷き、エルザはまだ目を丸くして宰相――タウロ様を見ている。
もし本当に冥界の宰相だったとしたら、下手するとうちの国王よりも権威がある。許可もされてないのにさすがに呼び捨てには出来ないわよね……
『いや、それはさ? 折角滅多にない召喚だったし、冥界の宰相として最初はガツンッと威厳を見せておかないと思って。それに俺みたいな意思疎通の出来るアンデッドって尊大な態度してるイメージない?』
タウロ様の言葉にあたしはお父様とお母様に視線を向ければ、首を振るでもなく何とも言えないような表情をしていた。
ああ……そういう部分があるのね。つまりは様式美ってことかしら?
「思った以上に下らない理由だったわ……」
『あれ? 何気に酷くない?』
「……」
こ、こんなのが本当にあの冥界の宰相なの……? 本当に自称してるとかじゃなくて?
『ほら、次はそっちが答える番だぞ?』
「――え、ええそうね。残念ながらあたし側にはあなたを特定して召喚しようという意志は無かったの。この召喚石を使って従魔召喚を試みたらあなたが出てきたって流れよ」
『召喚石? なんだソレ――って、本当になんだソレ!? なんでそんな小さい石にこんな膨大な量の術式を込める事が出来るんだよ。しかも召喚対象が名指しで俺にされてるし……こんなの一体どこで手に入れたんだ?』
「う~ん、説明がちょっと複雑なんだけど――」
あたしは自分のスキルである<ガチャガチャ>のことと、今回の召喚の経緯について説明を行った。
その間、タウロ様はあたしの話に骨の身体ながら器用に感情を表現しながら反応していた。
この頃にはかなり警戒心も収まりつつあり、剣や杖を構えたままだったお父様とお母様もそれを収める。
『はは~……なるほどなぁ。神様方がまた変なことをし始めたってことか。で、君等は――というよりクレハちゃんは、その所為で色々苦労していると。てことは、急にこんな骨が出てきてビックリしただろう?』
「まあ、多少驚いたけれど、元々正体不明だった召喚石を使う時点である程度は覚悟していたから」
『えぇ……君本当に五歳なの? なんか随分と大人びてるけど―――もしかして転生者だったりしないよね?』
「てんせい、しゃ? 聞いたこと無い言葉だから、あたしがそれかどうかの判別がつかないわ」
『ああ、この言葉を聞いて分からないならそうじゃないから大丈夫だよ。でもそっか、これが転生チートじゃない本物ってことなのか……?』
「タウロ様は、そのてんせいしゃ、なの?」
『タウロでいいよ。いいや、俺は転生者じゃないよ。転生じゃなくて転移で来たから転移者だ』
「「っ!?」」
『おや? クレハちゃんのご両親はそこら辺ご存知だったか。まあでも今はそんな話どうでもいいね。それよりも重要なのは俺とクレハちゃんが契約するかどうかっていうところさ』
べ、別の世界――あっ! そ、そうよね。元々それが目的でタウロを呼んだんだから。
『それでなんだけど、悪いんだけどこれでも冥界の宰相っていう身で結構忙しいんだ。だから従魔契約自体は構わないんだけど、頻繁に呼び出されると困っちゃうんだよ。それでもいいなら、喜んで従魔契約するよ』
「ああ、従魔契約はいいんだ……」
『全然いいよ。そもそも俺って冥界の存在だから地上にはあまり関与しちゃいけないんだよ。でも従魔契約を結ぶとなれば話は違ってくる。それなりに制限が緩くなって、地上に来ても文句を言われなくなるんだ。俺としては久しぶりに地上も見てみたいし、契約自体はむしろ大歓迎って感じだぜ』
「ふ~ん、そんなものなのね。分かったわ、じゃあお互いの条件を詳しく詰めてみましょう。それで問題なさそうなら契約を結ぶってことで」
『オッケー。それじゃあお互いに譲れない部分を出して行こうか』
そうしてあたしの条件とタウロの条件を元に従魔契約を進めるかどうかを決めていく。
あたしが想定していた条件、戦闘力に関しては問題無さそうだった。ちょっと実演してもらったので、お父様も頬を引き攣らせながら納得していた。
でも頻繁に呼び出せないので、助手としての採用は難しそうだった。
そしてタウロの条件は、召喚の頻度と地上の見物だった。召喚頻度は毎日は難しいので、精々週に一回程度であれば問題ないとのこと。それに加えて緊急時については、問答無用で呼び出してくれても大丈夫らしい。
でも逆に全然呼び出さないのもそれはそれでつまらないらしく、特にどこかへ出かけるときはなるべく召喚して地上の様子を見せて欲しいとのことだった。
「ふむふむ――あたしとしては別にこの条件でも良いんだけど、タウロはこれでいいの? そっちのメリットが少なすぎない?」
『と言っても、クレハちゃんは五歳の子どもだろ? そんな子から対価を要求するってのもなあ。でも確かにこれだと天秤が傾いてるか。となると……あっ、これとかどうだろう? さっき俺が別の世界からやって来たって話はしたよね?』
「ええ、聞いたけど……ちょっと信じ難いわよね。それに別の世界って言われてもいまいちピンとこないし」
『そこで、だ。俺が持っている別の世界――異世界の知識を君に教えて、君はそれを再現するってのはどう? 成功すれば俺は前の世界のあれこれを楽しむことが出来てハッピーだし、これなら助手――とまでは行かないまでも少しは君の研究に強力出来るかもしれない。なかなかいい条件だと思わない?』
「確かにいい条件ね。でもやっぱり少しあたしの方が貰いすぎな気もするんだけれど――」
『いいのいいの! まだ子どもなんだから貰えるものは貰っときなって! お祖父ちゃんお祖母ちゃんのいる実家に帰ったときにお小遣いを貰うのと同じ感覚だよ!』
「……?」
『まあとにかく! これで条件は揃った! それじゃあさっさと契約しちゃおうか!』
よく分かんないけど、タウロがいいって言ってるならいいか。
「じゃあいくわよ――『私、クレハ・カートゥーンは――』」
そうして、あたしに冥界の宰相とかいう肩書付きの従魔が出来たのであった。
しかも異世界の知識とかいう特大のご馳走を添えて……くふふ……
冥界の王「あれ、儂の部下なんか召喚されてね?」
創造神「従魔召喚に組み込んでおいてので~」
冥界の王「え? 儂等、関係ないよね? しかも普通に契約結んだんだけどアイツ」
創造神「拒否権もありませんので~」
冥界の王「(´;ω;`)」
知恵の神「ねえ、召喚対象どうなってんの? ちゃんと許可とってるんだよね?」
獣の神「うちの眷属にはウチが話を通したんだぞ。後は創造神に任せたから知らん」
創造神「(後でフォロー入れとかないとなあ……仕事が増える……)」




