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【書籍化記念SS】穏やかなティータイム

この作品を書籍化していただけました!

12/8発売です。


挿絵(By みてみん)


『転生悪女の幸せ家族計画~黒魔術チートで周囲の人達を幸せにします~』(Mノベルスf/双葉社)


イラスト:しがらき旭先生

作品詳細:https://www.futabasha.co.jp/book/97845752469880000000?type=1


今回、書籍化にあたり文字数が多すぎまして。

WEB版の文字数を大幅カットするだけでは楽しくないなと思い、全文書き直しましたー♪( ง ^ω^)ว ♪(ว ^ω^ )ง ♪


おおまかなストーリー展開は同じなのですが、WEB版と書籍版ではヒーローの設定が違います。

三人称が一人称になっております。

WEB版を読んでくださった方でも楽しんでいただけるように頑張りましたので、どうぞよろしくお願いいたします!!


そして、しがらき旭先生による美麗イラストをぜひぜひ見てくださいませ!

本当にありがとうございました♪


***


この小説は、新人発掘コンテストで銀賞をいただいたものです。

他の受賞者様の作品詳細はこちらから:https://onl.la/Gf7TAM9


※Freedia公式サイトはこちらから:https://www.tohan-freedia.com/

「アルデラ奥様、クッキーが焼けましたよ」


 甘い香りを漂わせながらケイシーがクッキーをのせたお皿を運んでくる。


「それは、ここに置いて」

「はい」


 ケイシーはお願いしたとおりの場所にお皿を置いてくれた。庭園の屋外休憩所ガゼボに出されたテーブルの上には、たくさんのお菓子や軽食が並んでいる。


「うん、これで良し」


 私がそう言うと、隣でケイシーが優しく微笑んだ。


「素敵なお茶会になりそうですね」

「そうだったらいいんだけど……」


 このお茶会は私が急に思いついたものだから、誰が来てくれるのかわからない。


 そもそも初めはお茶会を開くつもりはなく、働き詰めのクリスや勉強ばかりしているノアに少しだけ休憩してもらおうと思って準備をしていただけだった。


 それに気がついたケイシーやレイヴンズ伯爵家のメイド達が手伝ってくれたので、予想外に規模が大きくなってしまった。


 もし、みんな忙しくてこられなかったら、どうするつもりなのかしら……。


 私の不安をよそに、お茶会の準備を終えたケイシーやメイド達は満足そうな顔をしている。


「じゃあ、私はノアの様子を見てくるわ」

「いってらっしゃいませ」


 にこやかに送り出された私は、ノアがいつも勉強している部屋に向かった。


 きっとまだ勉強中よね?


 私は足音を立てないように歩き、こっそりと扉のすきまから部屋の中をのぞいた。


 天使のような男の子ノアは真剣な表情で机に向かい、その側で執事服を着たセナが何か話している。


 白い髪に水色の瞳のセナは、パッと見お人形のように見えるけど、その声はとても優しい。


 一生懸命に勉強している二人の邪魔はできないわ。もう少しあとでまた誘いに来ましょう。


 声をかけずにその場から離れようとしたら、セナと目が合った。少し首をかしげたセナが私のほうに向かってくる。


「アルデラ、何してるの?」


 そう言いながら私が隠れていた扉を大きく開けた。


「あ、えっと……」


 私が戸惑っていると、満面の笑みを浮かべたノアも駆けてきた。


母様かあさま!」


 ノアに母様と呼んでもらえることに喜びを感じつつ、私はノアを抱きとめた。


「どうしたのですか?」

「その、今から休憩するから、二人も一緒にどうかなって思って。お茶会の準備をしたの」


 ノアの青い瞳がキラキラと輝きだす。ノアが確認をとるようにセナを見上げると、セナは小さくうなずいた。


「うわぁい、やったー!」


 ぴょこぴょこ跳ねるノアが可愛い。


「母様。父様も一緒ですよね?」

「うん、これから誘いに行くつもりだけど……」


 レイヴンズ伯爵である夫クリスはとても忙しい。領地経営や出資している事業のことなど、いろいろと他にも仕事があるようだ。


 そんなクリスの妻になった私は、伯爵夫人として少しでも役に立てるように、ブラッドから仕事を引き継いだ。


 長年にわたりクリスの右腕だったブラッドのようにすべてをこなすことはできないけど、私も勉強して少しずつできることを増やしていっている。


 新しい生活が始まり、みんな忙しいけど、忙しいからこそ休憩も大切よね?


 クリスもお茶会に参加できたらいいんだけど……。


 そんなことを考えていると、ノアが私の手を握った。


「父様のところに行きましょう!」

「そうね」


 悩んでいても仕方ない。私達はそろってクリスの執務室へと向かった。


 執務室の扉をノックすると、中から「どうぞ」と声が聞こえる。執務室の中には、クリスとブラッドの姿があった。


「あら、ブラッドも来ていたの?」

「はい、クリスに用事がありまして」


 今は王宮騎士団の騎士団長をしているブラッドは、いつものように指でメガネを押し上げた。メガネをかけている騎士団長は、この国で初だそうだ。


 ブラッドが騎士団長になってから、王宮騎士の質が劇的に良くなったと評判だった。そんなブラッドだけど、相変わらず私にとても礼儀正しい。


「アルデラ様、お仕事でお困りのことはありませんか?」

「今のところ大丈夫よ」

「何か困ったことがあればご連絡ください。何があっても、すぐに駆けつけますので!」

「あ、ありがとう」


 ブラッドは、未だに私への忠義に満ち溢れているのよね。その熱量に少し押されていると、タイミングよくクリスが私達の間に割って入ってくれた。


「アル、ノア。何か用事があって来たのかい?」


 クリスの手がさりげなく私の肩にまわるけど、そういう牽制はブラッドにはいらないわよ。ブラッドの私への気持ちは、感謝しかないから。ほら、ブラッドも急にクリスににらみつけられて、訳がわからず戸惑っているじゃない。


 この微妙な空気をノアが明るい声で打ち消してくれた。


「父様、休憩しましょう!」

「休憩?」


 ノアの代わりに私が答える。


「お茶会をしようかと思って」

「いいね、お茶会」


 ニコリと微笑むクリスの笑顔は神々しい。


「今日は天気が良いから、庭園の屋外休憩所ガゼボにお茶会の準備をしたの」

「それは楽しそうだね」とクリス。


「ブラッドも一緒にど――」

「喜んで!」


 食い気味に答えるブラッドに笑ってしまう。


 皆でぞろぞろと庭園まで歩いていく。花の香りに交じって甘いお菓子の香りが漂ってきた。その香りに誘われたのか、レイヴンズ伯爵家の騎士服を着たコーギルが急に現れて私達の道をふさいだ。


「ちょっとアルデラ様! 俺だけのけ者って、ひどすぎません!?」


 半泣きで情けないけど、これでもコーギルは、レイヴンズ伯爵家の騎士団長なのよね。


「だって、伯爵家の騎士団員全員を誘うわけにはいかないじゃない? コーギルだけ呼ぶのはおかしいし。騎士団には、あとから差し入れをしようと思っていたの」

「おかしくないですよ! 俺だけ誘ってくれたらいいんですって!」


 あ、そんなに顔を近づけたら……。


 私がクリスに肩を抱き寄せられたと同時に、ブラッドにられたコーギルの身体が吹き飛ばされていく。


 地面に倒れたコーギルが「ど、どうしてここにブラッド先輩が!?」と叫ぶ。


 ブラッドはコーギルを見下ろしながら「私がいたら何か問題があるのか?」とすごんでいる。


「な、ないっす」


 コーギルの名誉のために言っておくけど、彼も普段はとても礼儀正しい。でも、ふとした瞬間に昔のなれなれしい態度が出てしまい、クリスにこおるような目を向けられているけど。


 小さくなっているコーギルに、ノアが近づいていった。


「コーギルさんも一緒にお茶会しましょう」

「ノ、ノアぼっちゃぁあああん!」


 感動の涙を浮かべるコーギル。ノアは本当に優しいわね。仕方がない、騎士団にはあとから豪華な差し入れをしておきましょう。


 お茶会は立食パーティー形式にした。皆、食べたいものを自分でとってからそれぞれ席に着く。


 私の右にはノア。左にはクリスが座っている。


「アル、これおいしいよ」

「母様、これもすごくおいしいですよ」

「そうね」


 お茶はおいしいし、お菓子も最高。初夏の風はここちよく、木漏れ日がキラキラと輝いている。そして、私の大切な人達が幸せそうに笑ってくれる。


「……幸せだわ」


 ポツリと漏れてしまった私の言葉を聞いて、ノアが「ぼくもです!」と手をあげる。クリスは穏やかに微笑みながら「私もだよ」とささやいた。


 きっとこんな日々が、これからもずっと続いていくのね。


 私は晴れ渡った空を見上げて、本物のアルデラのことを思い浮かべた。


 ねぇ、アルデラ。あなたもそっちで幸せに暮らしているの?


 マスターやマスターの奥さんに、娘として大切にしてもらってる?


 答えはない。でも私は本物のアルデラが幸せいっぱいで過ごしていると確信していた。




 END




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