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60 これからのお話【侍女ケイシー視点】

 伯爵家を苦しめていた長く厳しい冬がようやく終わり、温かい風が吹き込んでいる。


 中庭からはノアとアルデラの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。侍女ケイシーは亡くなったクリスの前妻を描いた絵画を一人で見つめていた。


(奥様。これまで、いろんなことがありましたよ……)


 伯爵家の当主クリスが後妻を迎えると聞いたとき、決して口には出さなかったがケイシーは激しい怒りを覚えた。


 亡くなった奥様を忘れるのかとクリスを怒鳴りつけてやりたかった。断われない事情があったし、アルデラ自身が可哀想な子だと分かって怒りはおさまったけど、どうしても、彼女を『奥様』とは呼べなかった。


(でも……アルデラ様がここに来てくださって良かったんですよね?)


 なぜなら、亡くなる間際に奥様はこう言っていた。


――私ね……幸せになってほしいの。クリスにもノアにも。そして、ケイシー、貴女にも。それが私のたった一つの願いなの。


(奥様、叶いましたよ。皆、幸せですよ。もしかして、アルデラ様をここに導いてくださったのは奥様ですか?)


 そう心の中で尋ねると、絵画の中の奥様が微笑んだように見えた。


「ありがとうございます……奥様」


 悲しくて辛いことが多かったはずなのに、今になって思い出されるのはなぜか楽しい記憶ばかりだった。


 中庭から「きゃあ」とアルデラの悲鳴が聞こえた。


 慌てて窓から外を覗くと、ノアがこけて怪我をしてしまったようだ。クリスがノアを抱き上げている。


「ケイシー!」


 アルデラが自分を呼んでいる。早く行かなければ。


 窓を開けてケイシーは答えた。


「今、行きます! 奥様……あっ」


 アルデラは気がついていないようで「ノアが怪我をしてしまって!」と慌てている。


(そうよね、今の奥様はアルデラ様なのだから、私もいい加減、ちゃんと『奥様』って呼ばないと)


 そう決めてしまうと長年の引っ掛かりが取れたように清々しい気分になった。


 救急箱を持って駆けていくと、そこには仲の良い家族がいた。


(これだけ仲が良いなら、赤ちゃんもすぐ生まれるわね)


 ノアが産まれたときに使った道具がまだあるか確かめておいたほうが良いかもしれない。


(女の子かしら? 男の子かしら? アルデラ様は女の子を産みそうね。どちらにしろ、可愛い赤ちゃんだわ。私も健康で長生きしなくっちゃ!)


 そう遠くない未来にノアに黒髪の可愛らしい妹ができることを、なぜかケイシーだけは知っていた。



おわり



最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!


このお話は、第2回新人発掘コンテストにて銀賞をいただき、書籍化が進んでおります。

発売情報は、活動報告やTwitterなどでお知らせいたします。


よければ、書籍のほうも、どうぞよろしくお願いします^^

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