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52 アルデラVS豪傑(ごうけつ)

 それまで事の成り行きを見守っていた王が口を開いた。


「息子よ。もうよい、下がれ」


「父上。面目ございません」


 王子は王の後ろに下がった。王は準備運動のように両手をブラブラさせる。


「我が祖先が黒魔術師に無様にやられてから数百年。我らはその間、強さを求め続けてきた。再び黒魔術師が現れたとき、決して負けぬために! わしの両手両足などくれてやるわ!」


 アルデラはバスケットひっくり返すと使用人達から集めた髪束を握りしめた。


「私達を守って!」


 髪束が黒い炎に包まれる。王が床を蹴るとコーギルに殴りかかった。見えない壁に守られ王の右拳はコーギルに届かない。しかし、王は引かず左拳で殴り掛かる。


 今度は見えない壁が割れコーギルが後方へ吹っ飛んでいく。壁に守られ勢いを殺されたはずなのに殴られたコーギルはピクリとも動かない。


 クリスがコーギルに駆け寄り「生きている!」と教えてくれた。


(あんなの……直撃したら、即死じゃない……)


 両腕が折れた王にブラッドが切りかかったが軽く避けられてしまっている。


(王を回復させてはいけない!)


 サラサを見ると魔力が切れてしまったようで苦しそうに床にしゃがみ込んでいた。その側に王子がいてサラサに自分のペンダントを渡そうとしている。あのペンダント型の魔道具を使うと犯罪者から魔力を奪い、サラサがまた白魔術を使えるようになってしまう。


「ダメ!」


 アルデラが王子を止めようとした瞬間、王の蹴りがアルデラに繰り出された。見えない壁に阻まれたが、すぐにもう片方の足が蹴り出される。


 迫ってくる王の足を見て、アルデラは死を覚悟した。とたんにアルデラは後ろに引っ張られ、アルデラと王の間に人影が割り込んだ。


「セナ!?」


 見えない壁が割れた。アルデラの代わりに王の足を受け止めたセナがおもちゃのように吹っ飛んでいく。


 両手両足が折れた王は床に崩れこんだ。その背後から剣を振りかざした王子がアルデラに切りかかってくる。


(黒魔術が、間に合わない)


 アルデラはぎゅっと目を閉じた。しばらくたっても痛みは感じない。そっと目を開けると、すぐ側にキャロルが倒れていた。


「キャロル!?」


 キャロルは胸辺りを切られ、流れ出る血でドレスが赤黒く染まっている。


「どうして!?」


 キャロルは何も答えてくれない。


 王子は「これが、最後のチャンスでした」と呟くと、持っていた剣を手放して両手を上げた。


「私達の負けです」


 そう言う王子の背後でブラッドが王子に剣を突きつけていた。


(終わった……でも)


 アルデラはしゃがみ込むと、床に広がっていくキャロルの血にふれた。


「どうしよう……黒魔術じゃ……私じゃ治せない」


 魔力切れを起こしたサラサは少し離れた所で倒れ意識を失っている。キャロルの傷口から流れる赤い血が床へと広がっていく。


「キャロル、私をかばったの? どうして? 私を殺したかったんでしょう!?」


 キャロルは少しだけ微笑んだ。


「どうして……?」


 ポンッと肩を叩かれた。振り返るとノアがいた。


「姉様、大丈夫ですよ! ぼくが治します!」


 ノアはキャロルの側にしゃがみ込むと傷口に両手をかざした。白く温かい光がキャロルを包んでいく。


 しかし、すぐに光は弱くなっていった。キャロルの傷を治すにはノアの魔力が足りていない。


 アルデラは王子が落とした剣を拾うと自分の長い黒髪を切り落とした。その黒髪を代償として願う。


「私の魔力をすべてノアに」


 黒髪が黒い炎で包まれていく。魔力切れを起こした身体ではアルデラも立っていられない。


 遠くでブラッドの叫ぶ声が聞こえた。


「アルデラ様、いけません! まだです! まだ終わっていない!」


 ひどく瞼が重い。


「違うのです! 私の夢の声とこの者達の声が! 違うのです! 夢の中でノア坊ちゃんを殺した犯人は別にいます!」


 アルデラの意識はプツンと途切れた。

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