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48 魔道具というより神器

 その日、アルデラは魔道具を購入するために街に出かけていた。ラギー商会との会合の日が迫って来ている。


(しっかりと準備をしておかないと!)


 またクリスが買い物について来ているけど気にしている場合ではない。


 大通りから路地裏に入り、馴染みの魔道具屋の扉を開けるとフードを被った男がいた。男はアルデラを見るなり「アルデラ様、お待ちしていました!」と歓迎する。


「貴方……確か王宮お抱えの魔道具師?」

「そうです、覚えてくださっていて光栄です!」


「どうしてここに?」


 アルデラは『もしかして店主のお婆さんに何かあったのでは?』と思い店の奥を見ると、お婆さんはいつも通りカウンターに置物のように座っていた。そして、あきれた顔で「その人、ここで毎日お嬢さんが来るのを待っていたんだよ」と教えてくれる。


「そうなんです! 僕は王宮お抱えなので陛下の許可なく自由に王都から出れないんです! だからアルデラ様に会いに行けなくて……。ここでアルデラ様を待っているといつかお会いできると思っていました!」


 魔道具師が両腕を伸ばしてアルデラの手にふれようとした瞬間、クリスが手とうで魔道具師の腕を叩き落とした。


「気安く私のアルにふれないでほしいな」


 クリスにニッコリと微笑みかけられ、魔道具師は「あ、すみません……」と小さくなっている。アルデラはそんな二人を眺めながら『魅了にかかっていない状態で、この行動を取るクリスってなんなの?』と戸惑った。


「それで、私になんの用?」


 魔道具師は「あ、実はアルデラ様にこれをお返ししたくてですね……」とポケットをごそごそと探る。


「あ、あった!」


 魔道具師はポケットから高級そうな黒い箱を取り出しアルデラに手渡した。


「これは?」

「前にアルデラ様にお借りしたブローチです!」


 箱を開けると確かに公爵家当主の証のブローチだった。


「もう研究は終わったの?」

「いえ、終わったというより……」


 視線を彷徨わせた魔道具師は言いにくそうに口を開いた。


「なんというか、やはりマスターの創られた物は魔道具というより、もはや神器で……。まったく参考にならなかったというか……」


「どういうこと?」


 アルデラが尋ねると魔道具師は「実は研究した結果、そのブローチは異界の扉を開くことができるようなのです」と深刻な顔で教えてくれた。


(異界の扉?)


 もしそれが本当なら、その扉を開くと、本当のアルデラがいる和室や、前世に生きていた現代にも行けるのだろうか?


「あ、アルデラ様のその顔! 信じていませんね!? 私も信じられないんですが本当なんです!」


「違うの、異界の扉って何かなって考えていて……」


 魔道具師は「僕も詳しいことまではわからないんですが……」と前置きしてから説明を始めた。


「このブローチには、ある場所を示す座標みたいなものが刻まれていたんです。おそらく、マスターが公爵家当主の誰かをその場所に導こうとしているのだと思います」


「ブローチで行ける場所は決まっているのね……」

「はい、そうです。このブローチに一定以上の魔力を注ぐといけるようですが、必要な魔力量が尋常ではないので常人には不可能です」


 アルデラは『もしかしたら、私ならできるかもしれない』と思いながら魔道具師の話を聞いていた。


(でも、今はどこにも行く気がないわ。そんなことより、ノアと本物のアルデラを助けないと……)


 魔道具師は「そういうわけでお返しします。マスターの創作物は決して真似ることができない。それが分かってスッキリしました! 本当に、本当にありがとうございました!」と、九十度のお辞儀をする。


「お役に立てて良かったわ。じゃあ私もこれを返すわね」


 アルデラは手に持っていたバスケットからアンティークな懐中時計を取り出した。受け取った魔道具師は懐中時計のフタを開け、何かを呟いたあと、懐中時計をアルデラに返した。


「僕の命は抜きました。よければこれをもらってください。前にも言いましたが、生命を一時的にこの中に保管できます。保管しておけば一度だけ生き返ることができます」

「そんな貴重なものを貰っていいの?」

「はい、僕の感謝の気持ちです!」


 魔道具師は店の奥に向かって「じゃあまた来ますね、お婆さん!」と言って笑顔で去って行った。


 お婆さんは「あまりに毎日来るから、今じゃあすっかり茶飲み友達だよ」と笑っている。


「さてお嬢さん、今日は何を買ってくれるんだい?」


 お婆さんにいつものアクセサリーセットを頼んだあと、アルデラは改めて懐中時計を見た。


(生命を一時的にこの中に保存できるということは……。もしかして、この中に私の魂をうつせば、本物のアルデラの魂が復活したときに、この身体を返せるんじゃ……)


 そう考えたところで「深刻な顔だね」と声をかけられた。


 見ると、クリスが微笑んでいる。その手にはいつの間に購入したのか魔道具のアクセサリーが入った箱を持っていた。


「払っておいたよ」

「……ありがとう」


「アル、一人で悩まないで」


 クリスの大きな手が優しくアルデラの頭をなでた。


「……そうね」


 一人で決めてはいけない。本物のアルデラとも相談しなければ。


(それに、私も幸せになるって約束したからね)


 約束は破ってはいけない。最高のハッピーエンドを見つけるまで決してあきらめないとアルデラは固く誓った。

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