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31 犬の方がマシ

【私の書き方がわかりにくいかもしれないので説明です】


○アルデラ→クリスが魔道具により簡易的な主従関係を拒絶したため、血の契約と口付けによりクリスに無理やり黒魔術をかけた(と勘違いしている。実際はかかっていない)


○クリス→すでにアルデラに好意を持っているので、魅了系主従関係の黒魔魔術がかからない状態。「ノアを守るため」と言われたので、困惑しながらも現状を受けいれて様子をうかがっている。


 顔を赤くしながらこちらを見ようとしないクリスにアルデラは語りかけた。


「ノアを守るためには、犯人捜しをしなければいけないの。これからは、たくさん人が集まる場所に参加できるようになりたいわ」


 今の伯爵家は『金の切れ目が、縁の切れ目』とでも言うかのように、人との交流がなくなってしまっている。長い間、社交の場にも一切、顔を出していない。


「人脈はサラサがすでに持っているものを利用する。だから、クリスには、伯爵家とサラサが親しくなる口実を作ってほしいの」


 クリスは戸惑いながらも「口実?」と、アルデラの言葉を繰り返した。


「そうね……例えば、医療関係の事業を始めるとか? 開業資金は援助するわ。とにかく私やブラッド、伯爵家の人達がサラサの琥珀宮に頻繁に出入りしてもおかしくない状況を作りたいの」


 クリスは真剣な顔で「医療関係の事業……」と呟いた。


「私には、君がどうしてこんなことをするのか見当もつかない」


「そうやって、また私を拒絶するの? 貴方に拒否権はないわ。従うまで何度でも繰り返すだけ」


 アルデラがあきれて顔を近づけると、クリスはまた顔を赤くした。


「いや、従うよ。君がノアのために一生懸命だということだけはわかるから」


「そう。ならいいけど」


 クリスは何か考えるように自身のあごに手を当てた。


「その、君はこういうことを良くするの? あまり良いこととは思えないのだけど」


 質問の意味がわからずアルデラが首を少しかしげると、クリスは「私以外にも、その、こういう取引を持ち掛けるのかい? ブラッドとか、さっきのコーギルとか……」と言いながら視線をそらす。


「私が? ブラッドやコーギルに? そんなことするわけないじゃない」


 なぜなら、クリス以外はアルデラのことを受け入れてくれたから。コーギルにはまだ銀のブレスレットを渡していないけど、おそらく受け入れてくれるだろう。


 こんな回りくどく面倒な主従関係の契約はできれば誰ともしたくないけど、クリスはノアを守るために必要なので仕方がない。


「貴方にしかしないわ」


 そのとたんにクリスが何故か嬉しそうに口元を緩めたので、アルデラはまた首をかしげた。


「とにかく、貴方のやることはわかった?」


「ああ、わかったよ。白魔術師サラサが必要としそうなものの事業を始めて、君を社交界に連れて行く……あっているかい?」


「そうよ」


 アルデラが黒髪をかきあげるとズキリと指先が痛んだ。ペンで刺した指は、まだ血が滲んでいる。


(痛いのは嫌ね)


 これから、クリスにかけた黒魔術が切れそうになる度に血を流すことになると思うとうんざりしてしまう。


「ねぇ、クリス。これから、一週間おきに、私に指を噛まれて血を流すのと、犬に噛まれたと思って私に口づけされるの、どっちがマシ?」


 クリスは驚いて目を見開いたあと、「犬のほうがいいね」と言いながら苦笑した。


「そう、それは良かったわ」


 クリスにそっと手を握られた。椅子に座っているクリスは、上目遣いでこちらを見上げている。青い瞳がまるで宝石のように輝いていた。


「アルデラ、君の言う通りにするよ。だから……」


 クリスはゆっくりとアルデラの手の甲に顔を近づけた。クリスの唇は、アルデラの手の甲にふれそうでふれない。


「私以外の男に、決してこういう取引を持ち掛けてはいけないよ?」


 優しい言葉遣いなのに、なぜか抵抗できないような圧を感じる。


「……わかったわ」


 アルデラはクリスの手を振りほどくと、さっさと部屋から出て行った。自分の頬が少し熱くなっていることには気がつかないふりをした。

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