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18 私達は家族なのだから

 騎士が帰った後、アルデラは来客室に残り一人で考え込んでいた。


(過去のアルデラの人生では、サラサと関りがなかった。確実に流れは変わってきているわね。このまま運命を変え続ければ、今度は『ノアが殺されない世界』になるかもしれない。そのためなら、私はなんでもするわ)


 サラサからの手紙を握りしめ、部屋から出ると「あ、出てきたよ!」と可愛らしい声が聞こえた。振り返ると、ノアがセナの隣でこちらに向かって手を振っている。


(この二人、いつも一緒にいるわね)


 よほど気が合うのか、二人で遊んでいる姿をよく見かけた。


(セナがノアに、ついていてくれるから安心だわ)


 セナがいる限り、屋敷内でノアが危険な目にあうことはない。


 駆け寄って来たノアが「アルデラさん、今、遊べますか?」と聞かれた


「うん、遊べるわよ。あ、そうだ……」


 お金が手に入ったら、ノアにいろんなものをたくさん買ってあげようと思っていた。


(そういえば、セナも服とかいろいろ必要なものが、あるんじゃないかしら?)


 生活必需品は、一通り伯爵家から支給されたようだけど、セナにも買いたいものくらいあるだろう。


「よーし、決めた! 明日は三人でお買い物に行くわよ!」


 ノアはきょとんとしながら「お買い物?」と呟き首をかしげている。


(そっか、借金のせいで、今までお買い物に行ったことないものね)


 少し涙ぐみながら、「街の中心部に行って、お店で好きなものを買うのよ」と伝えると、ノアは「お買い物……楽しそう!」とパァと表情を輝かせた。


「じゃあ、まずはクリス様に買い物に行ってもいいか聞きましょう」


「はい!」


 元気なノアの勢いに任せてクリスの書斎に押しかけると、クリスはいつものように輝く笑顔で迎えてくれた。


 「父様!」と言いながら駆け寄ったノアの頭をクリスは優しくなでる。


「どうしたんだい?」


「父様、アルデラさんと、お買い物に行ってきます!」


 驚いたクリスと視線が合った。


「私がほしいものがあるので、ノアに付き合ってもらおうかと」


「そういうことなら、行っておいで」


 クリスはノアを見つめると「ノアは、明日はアルデラの騎士だ。アルデラをエスコートして守ってあげるんだよ」とウィンクする。


「はい、父様!」


(ほんと、絵になる親子だわ)


 この場に亡くなったクリスの奥さんがいれば、さらに幸せ家族になる。


(黒髪のアルデラじゃ、浮いちゃうわね。家族には見えないわ)


 サラサの護衛騎士に言われた『迷惑な後妻』という言葉が小さなトゲになって、今も胸に刺さっている。


(いいのよ、浮いていても、迷惑でも……ノアを助けられるなら)


 アルデラは微かな胸の痛みに、気がつかないふりをした。


 その後は、ノアとセナとかくれんぼをして遊んだ。そして、二人と別れて、アルデラはまたクリスの書斎に本を借りに行った。


(過去のアルデラは、本を読まなかったし、そもそも、この国に興味がなかったのよね)


 過去のアルデラは、優しくしてくれる伯爵家の人間以外、少しも興味を持っていなかった。それではノアを守れない。犯人を見つけるためにも、できるだけいろんなことを知っておく必要があった。


 遠慮がちに扉をノックしてから書斎を覗くと、書斎机から顔を上げたクリスが笑みを浮かべる。


「今日は良く会うね」


「何回も、お邪魔してすみません」


 借りていた白魔術の本を返し、新しい本を借りたいと伝えるとクリスは立ち上がった。


「次は、なんの本が読みたいの?」と聞かれ、前回、手がふれただけで赤面してしまったことを思い出して、アルデラは「いえ、自分で探します」と固い声で返事をした。


「そう」


 クリスは、それきり黙ってしまった。


(感じ悪かったかしら?)


 少し心配しながら本棚の背表紙を眺めていると、クリスが近づいて来た。


「アルデラ」


 名前を呼ばれて顔を向けると、優しく左手をつかまれた。


「!?」


 驚いて固まっていると、手のひらに鉛色の鍵を置かれた。冷たい金属の感触がする。


「これは、この部屋のカギだよ。いつでも入っていい。どの本を持って行ってもいいからね」


「そんな重要なカギ、預かれません!」


「預けるんじゃない。君にあげるんだ」


 クリスは両手でアルデラの手を包み込んでカギを握らせた。


「貰ってくれるかい?」


 誠実そうな綺麗な青い瞳に、動揺している自分が映っている。


(ち、近いわ)


 神々しいクリスの顔がとても近くにある。アルデラは、徐々に頬が熱を持っていくのがわかった。


(神父系イケメンの破壊力が、すごい!)


 緊張で何も言えなくなっていると、クリスは少し悲しそうに眉を下げた。


「迷惑かな?」


 慌てて首を左右にふると、クリスはホッとしたように微笑む。


「そんなに緊張しなくていいんだよ。私達は、もう家族なのだから」


 優しいクリスに勇気をもらう。


(そっか、そうよね。クリスは「兄と思え」って言ってくれてたものね)


 亡くなった奥さんの代わりには決してなれないけど、『迷惑な後妻』でもないのかもしれない。アルデラは手の中にあるカギをそっと握りしめた。


「ありがとうございます。その、あの……クリスお兄様」


 勇気を出してそう呼ぶと、一瞬なぜかクリスの表情が固まった。不思議に思ってクリスを見つめると、すぐにいつもの優しい顔に戻る。


「そうだね、私は『お兄様』だね」


 クリスは、何かを言い聞かせるようにそう呟いた。

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