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13 不思議な来客

 黒ずくめの服から、執事っぽい服に着替えたセナは、少しだけ微笑んだ。そのガラス玉のような瞳には、アルデラが映っている。


「アルデラもその服……良く、似合っている」


「うん? えっとそれは私のこと?」


 聞き返すとセナはコクリと頷き「綺麗」と言ってくれた。


(そんなにストレートに褒められると……)


 じわじわと顔が熱くなってしまう。


「お、お世辞はいいわ」


 恥ずかしくてセナから視線をそらすと、ブラッドが「アルデラ様はお綺麗ですよ!」と追い打ちをかけてくる。


(過去のアルデラも、私も褒められ慣れていないから、こういうとき、どうすればいいのかわからないわ)


 赤くなった頬を隠すように手をそえると、アルデラはソファーから立ち上がった。


「クリス様、失礼します」


 クリスに頭を下げてから、そそくさと退出する。その後をセナがついて来た。


「そうだわ。セナにノアを紹介するわ。ノアは私の大切な人で、必ず守りたいの。だから、もしノアが危ない目にあったら助けてね」


「わかった」


「ノアの部屋は……」


 ノアの部屋に行く前にノアにバッタリ出会った。ノアは「あ!」と呟くと「ごめんなさい!」と頭を下げる。


「気になって……」


 どうやら、クリスとアルデラが何を話すのか気になって、こっそりとついて来たらしい。もじもじとしているノアに、アルデラは膝を折り視線を合わせた。


「ちょうど良かったわ。ノアに私のお友達を紹介するわね。セナよ」


 セナを見上げたノアはポカンと口を開けた。


(怖がるかしら?)


 セナの外見は色素の薄いお人形のようなので、見る人によっては怖いかもしれない。固まったままのノアの手をセナがつかんだ。ビクッとしたがノアは逃げない。


 セナは無言で、ノアの小さな手のひらに、紙に包まれたキャンディをのせた。


「もらっていいの?」


 セナがコクンと頷くと、ノアの表情がパァと明るくなる。「えへへ」と嬉しそうに笑うノアを見て、セナもどことなく嬉しそうだ。


(この二人は仲良くなれそうで良かったわ。そういえば、私もさっきセナからキャンディをもらったわね)


 どこにやったかしら?と思った瞬間、ずっと手に持っていたバスケットを馬車の中に置いて来てしまったことに気がついた。あの中には、空のビンやら、ブラッドの緑の髪束やら、とても怪しいものが入っている。


「あ! ちょっと忘れ物をしたから取りに行ってくるわ。二人で遊んでいてね」


 二人からは「はい!」と「わかった」という素直なお返事が返ってきた。一人で馬車置き場に向かうが、その途中で誰にも会わない。


(こんなに大きなお屋敷なのに、使用人の数が足りていないのね。公爵家でスカウトしたメイド達が本当にここに来てくれたらいいけど……)


 そんなことを考えていると、馬車置き場についた。御者はいなかったので、勝手に失礼して馬車の中に入りバスケットをとった。


(あって良かったわ)


 戻る途中で、見たこともない馬車が敷地内に入ってくるのが見えた。とても高貴な方が乗っているようで、真っ白な馬車には豪華に金の縁取りがされている。その後ろには、白馬に乗った騎士の姿も見えた。


(クリスのお客様かしら?)


 馬車が止まると、屋敷の中から慌ただしく迎えのための使用人達が出てきた。騎士にエスコートされて馬車から出てきたのは、とても美しい女性だった。


(うわぁ……美人)


 オレンジ色のフワフワな髪の毛が風になびいている。彼女がまとう白いドレスは神々しくまるで女神が降臨したかのようだ。少し垂れた優しげな瞳は、甘いハチミツのような色をしている。そして、何より彼女の周りの空気がキラキラと輝いていた。


(空気が綺麗だわ。よほどの聖人なのね)


 人に恨まれればその人の周りに黒いモヤができるように、人から感謝されればされるほど、その人の周りがキラキラと輝いて見える。


 アルデラが少し離れた場所で、ボーッと来客の美女を見つめていると、ふと美女と視線が合った。にっこりと微笑みかけられたはずなのに、なぜかゾクッと悪寒が走る。


(え?)


 気をつけてよく見ると、美女の周りでは黒いモヤが発生したとたんに、キラキラした空気にかき消されるという現象が起こっていた。


(ということは、この美女は恨まれているけど、それを無かったことにできるくらいに感謝もされているってこと?)


 もしかすると危険人物かもしれない。アルデラはそっと美女から距離を取り、ノアとセナの元へ戻るために走り出した。

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