8『強者の枷』
「うっ……。ここは……」
オルテッドが目を覚ますと、薄暗い倉庫のような場所にいた。
両手首、両足首には手錠をかけられ自由に動かすことができない。
身につけていた魔導具や荷物も無くなっていた。
「あら。お目覚めみたいね」
声のした方角を見ると、部屋の隅フェイクがいた。
彼女もオルテッドと同様に両手、両足に手錠を掛けられてり、元気なさそうに壁にもたれかかっていた。
「ここは一体……? いや、それよりもシルヴィがいないぞ」
「あぁ、あの子なら、ワルイド達に別の部屋に連れてかれたわ」
「くっそ、あの野郎……!」
オルテッドが怒りに震えていると、フェイクがワルイド達について語り出した。
「『弱者の盾』というのは表向きの名前。本当の名前はワルイドが率いている裏ギルド『強者の枷』。必要とあれば、殺人も躊躇わない危険な奴らよ。最近、この街でハンターを拐っているのも、『強者の枷』の仕業よ」
オルテッドは商人である小太りの男かr聞いた話を思い出した。
話を聞いていながら、シルヴィを連れ去られてしまうなんて。
オルテッドはもっと自分が警戒していれば、と悔しさで胸がいっぱいだった。
「まぁ、あんた達も災難だったわね。あんな奴らに目をつけられるなんて」
「お前を捕まえるために、俺とシルヴィは利用されたって訳か」
「そういう事。まぁ……、私も盗む相手を選ぶべきだったわね」
「それでワルイドって、どんな奴なんだ?何の目的があって、ハンターを拐っているんだ」
「目的に関しては、詳しくは私も知らないわ。ただワルイド個人については少し知っている。あいつは、獣人以外の種族を見下している差別主義者。獣人こそが世の中を支配すべきだって考えているのよ」
「ろくな奴じゃないな」
オルテッドは顔をしかめた。
そんな奴と一緒にいるなんて、シルヴィが危険だ。
助けにいかなくては。
オルテッドは手首につけられた手錠を外すため、指先に魔力を込めた。
フェイクがそれを訝しげに見つめる。
「何してるの?」
「手錠を壊すんだよ」
「できるわけないでしょ」
「まぁ、見てろ。魔法付与、脆弱」
オルテッドは手錠に、脆弱の効果を付与した。
たちまち手錠に脆弱性が付与され、ヒビが入った。
やがて、手錠全体にヒビが走り崩れ落ちた。
それを見たフェイクは、きょとんとしていた。
「できるんだ」
「金属物には、こうして付与魔法が使える。今使ったのは対象を脆くする付与魔法だ。直接触れれば、魔導具がなくても付与魔法は使える。連中が付与魔法の事を知らなくて良かった」
オルテッド達の閉じ込められている部屋の向こうから足音が聞こえてきた。
その足音は段々と大きくなってきている事から、こちらに近づいてきているようだ。
オルテッドは急いでバラバラ砕けた手錠の破片に、もう一度脆弱の付与した。
脆弱を付与された破片は粉末状になるまで細かくなった。
オルテッドはフェイクに確認する。
「フェイク。一応確認なんだが、直接触れれば魔導具なしでも、さっき使った風を操る魔法を使えるよな?」
「そうだけど……。何をする気?」
「この部屋から脱出する。協力してほしい」
オルテッドは、今からやろうとしている事を手短に話した。
やがて、ワルイドの部下二人が部屋に入ってきた。
オルテッドは部下二人に手錠のかけられていない手首を見られないように体を折り曲げ、その内側に隠した。
二人の部下はオルテッド達を見下していた。
「喜べ。道具になる時間だ」
「はっ。何を訳を分からない事を言っているんだ」
「お前達は何も知らなくていい。知ったところで意味はないからな」
部下と話しながら、オルテッドはフェイクに目配せをすると、フェイクは頷いた。
部下二人は気づいていないが、金属の粉末が宙に浮いて、ゆっくりと二人に近づいていく。
宙をまいた粉末は二人の耳に入っていった。
その瞬間、二人に電撃が奔った。
「ぐっ! な、何だ! うわああっっ!」
部下二人は白目を向いて、床に倒れた。
粉末状まで細かくした破片に電撃の効果を付与し、それをフェイクの風魔法で宙を浮かせ、部下二人の耳に侵入させたのだ。
その結果、部下二人は頭にダイレクトに電撃を浴びる形になり、気絶したのだ。
オルテッドは足首についたままだった手錠を脆弱で壊すと、フェイクの手錠も同様に壊した。
自由に動けるようになったフェイクは、オルテッドに「ありがとう」、と礼を述べた。
「これからどうするの?」
「シルヴィを助けに行く。フェイクも協力してくれ」
「その方がいいわね。私もここまでしたワルイドを見返したいし」
フェイクは「それに」と付け加えると、
「私が一人で演奏していた時、あの子は私の演奏を「いい曲だった」と言ってくれたの」
「そんなやり取りがあったのか。というか、演奏したりするのか。意外だな」
「失礼ね。まぁ、私の演奏を褒めてくれたからさ、私も助けたいのよ」
オルテッドにはフェイクが嘘をついているようには思えなかった。
彼女を信用してもいいかもしれない。
オルテッドは苦笑した。
「さっきまで戦ってた奴の台詞とは思えないな」
「まぁね。さて、急ぎましょう。早く助けに行かないと」
「まずは俺たちの魔導具を取り返す。魔導具がないとまともに戦えないからな」
「なら、私に任せて。居場所を探るのは得意だから」
フェイクはそう言うと瞳を閉じて地面に手を置いた。
そして指でトントンと床を叩くと、ぶつぶつと何かを呟いた。
フェイクはゆっくりと|瞼《まぶた」を開け、呟いた。
「分かったわよ。魔導具に置き場所が。ここから右に曲がってつきあたりの部屋にあるわ」
「場所が分かる魔法なのか」
「まぁね。よく盗む前に使ったりするの」
フェイクは得意げにウィンクした。
盗みに使うとはあまり褒められたものではないが、今はフェイクの魔法に感謝だ。
オルテッドとフェイクは、ひとまず目的のある部屋へと移動を開始した。