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7 風の魔女

 「隣にいる相棒(パートナー)には名を名乗っていなかったわね。私の名前はフェイク」 


 フェイクの周囲には激しい暴風が吹き荒れていた。

 彼女は魔法によって起こした風で、ふわりとその身を浮かせると、人差し指をピンと立てた。 


 「ひとつ教えてあげる。あなた達、逃げるなら今の内よ。私の風にかかれば、あなた達なんてひとたまりもないわ」

 「忠告どうも。だけど、お前を見逃す訳にはいかない。依頼を受けているからな」

 「そう。なら、こうするしかないわね」


フェイクは腕輪型魔導具をつけた右手を、まるで引き金を引くかのように構えると、「ウィンダ・バレット」と答えた。


 次の瞬間フェイクの指先から風の弾丸が、猛スピードでシルヴィに向けて発射された

 シルヴィがそれをハルバードで弾く。

 弾かれた弾丸は地面に着弾し、大きく抉った。


 「弾かれちゃった。 ならこの数ならどうかしら」


 そう言うと、フェイクの周囲から無数の風の弾丸が発射された。 

 オルテッドとシルヴィは二手に別れて、弾丸の雨から逃げる。

 着弾した箇所から土煙が舞う。

 オルテッドは走りながら、シルヴィに指示をだす。


 「シルヴィ、やるぞ! 魔法付与(エンチャント)火炎(フレイム)!、強化(ブースト)!」


 オルテッドは、シルヴィのハルバードに火炎(フレイム)強化(ブースト)を付与した。

 シルヴィは付与されたハルバードを竜巻に向けて、強化された炎の斬撃を、フェイクに向けて繰り出した。

 しかし、フェイクの周囲には竜巻が渦をまいてバリアの役割を果たしており、炎の斬撃をその猛風でかき消した。


 「オル、攻撃が届かない。どうしよう」

 「シルヴィ、俺に考えがある。銀のブーメランを作り出して、あいつに向けて投げるんだ」

 「わかった」


 シルヴィはこくんと頷くと、くの字型のブーメランを作り出し、フェイクに向けて勢いよく投げつける。  

 同時に、オルテッドがブーメランに向けて、付与魔法を発射した。


 「魔法付与(エンチャント)電撃(サンダー)!、脆弱(フラジール)!」

 「何をする気か知らないけど無駄よ。私の周りには風が吹き荒れている。その攻撃は届かない」


 フェイクが自身たっぷりに宣言し、風によるバリアで防御する。

 雷属性を付与されたブーメランはバリアに当たった瞬間、バラバラに破片となって砕け散った。

 バラバラになった破片が風によって巻き上げられ、フェイクの周囲を舞う。

 

 「何、今の。勝手に砕けた……?」

 

 フェイクが怪しんでいた時、風によって舞いあげられた破片がフェイクの体に触れた。

 

 「きゃあ!」


 直後、フェイクの体に電撃が(はし)り、空中で体勢を崩し、地面へと落下し始めた。

 雷属性を付与された破片によって、フェイクにダメージを与えたのだ。

 その隙をシルヴィは見逃さなかった。 


 すぐさま地面へと落下するフェイクへと目掛けて、火属性を付与されたハルバードを思いっきりぶん投げた。

 火を纏ったハルバードが空気を切り裂きながら、真っ直ぐ飛んでいく。


  

  「痺れた上に燃やすとか、勘弁!」

  

 フェイクが空中で身を翻し、ハルバードを間一髪の所で(かわ)して、地面に降り立つ。

 すぐさまシルヴィが猛スピードで近づき、またハルバードを生成し斬りかかっていく。

 フェイクは、シルヴィの連続攻撃をどうにか躱すのが精一杯だ。


 「ちょっと……、なんて動き、してんの……!」


 フェイクが毒づきながら距離をとるため、空中へと飛び上がった。

 距離を取られたら、また風の弾丸による一方的な攻撃が始まってしまう。

 そうはさせないと、オルテッドはシルヴィのハルバード目掛けて、付与魔法を発射した。


 「魔法付与(エンチャント)! 伸縮(エクステンド)!」


 伸縮(エクステンド)の効果を付与されたハルバードは鞭のようにしなり、倍以上の長さになった。

 シルヴィは鞭のようにしなるハルバードを空中に飛んだフェイクの体に巻き付けた。

 そのまま拘束したフェイクを力まかせに引っ張り、地面に叩きつけた。


 「ぐぇっ!」

 

 フェイクが女性とは思えない声をあげると、拘束されたフェイクが目に涙を浮かべて足をじたばたさせた。


 「くやしい〜。そんな魔法使うなんて聞いていない! 何なのよ、あんた達!」

 

 先ほどまで余裕たっぷりだった彼女はどこへやら、まるで目当ての玩具(おもちゃ)を買ってもらえなくて駄々をこねる子供のように、地面を転げまわっていた。

 そんな彼女を尻目に、フェイクの処遇についてオルテッドとシルヴィは話していた。

 

  「オル、この人どうしよう。 頭以外地面に埋めて、道行く人達に注目してもらう?」

  「やりすぎだ。 縄で縛って建物から吊り下げて注目されるくらいにしておけ」

  「どっちにしろ見世物扱いじゃない! やだ〜、この歳でそんな羞恥プレイ受けるなんて〜」

 

  聞き慣れない単語にシルヴィが反応した。


  「しゅうち、ぷれい?」

  「シルヴィ、そんなとこに反応しなくていいんだ」

  「私、どういう言葉か知らない。オル、教えて」

  「別に覚えんでいいわ!」


 その説明は色々と面倒だ。

 シルヴィがこれ以上の追及をしないように、オルテッドは話題を変える事にした。


 「シルヴィ、早くこいつを連れて行くぞ。こいつを引き渡せば依頼完了だ」

 「待って。あんた達にひとつ教えてあげる。私は悪人にしか盗みを行わない」

 「おう。そうか」


 オルテッドは極めて淡白な返事をした。

 その反応に不服だったのか、フェイクは頬を膨らませた。


 「なにその反応。もっと驚きなさいよ」

 「誰が盗賊の言う事を鵜呑みにするんだよ。人から物を盗んでいる時点でアウトだからな」

 「オル。この人の言う事は無視して早く連れて行こう」

 「待って! あんた達、誰に依頼されたのか教えて」


 フェイクが真剣な顔で懇願してきたので、オルテッドは呆れながらも答えた。


 「あ? あー、『弱者の盾』のワルイドって言う人からだけど」

 「……ワルイドですって? 悪い事は言わないわ。今すぐこの街を離れた方がいい。ついでに拘束も解いて」

 「何でそんな事をしなきゃいけないんだよ。まだ報酬ももらっていないのに」

 「あんた達は知らないでしょうけど、そいつらは────」


 フェイクが何かを言いかけた時、遠くからオルテッド達を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

 「おお、捕まえてくれたのか。さすが、俺の見込んだハンターだ」


 声のする方を見ると、そこにはワルイドがパチパチと拍手を送っていた。

 背後にはワルイドの部下が3人おり、全員ワルイドと同じように頭部に獣耳が生えていた。

 その姿を見たフェイクは顔を引きつらせて叫んだ。


 「あんた達早く逃げて! そいつは────」


 フェイクが最後まで言う事はできなかった。

 何故ならワルイドが素早い動きで、フェイクに近付き蹴り飛ばしたからだ。

 蹴り飛ばされたフェイクは、地面に転がる。

 

 突然の事態に困惑していると、ワルイドの部下達がシルヴィを取り押さえていた。

 悲痛な声をあげるシルヴィ。

 ワルイドの行動が理解できず、オルテッドは叫んだ。


 「おい、急に何をするんだ! シルヴィを離せ!」

 「それはできない相談だ。何故ならお前達は、俺の所有物になるからな」


 そう答えたワルイドは獣のような動きでオルテッドに近づき、その顔面を殴りつけた。

 悲鳴をあげる暇もなく、口から大量の血を吐きだす。

 

 「オル!」


 シルヴィの悲痛な叫びが聞こえたが、返事する事が出来なかった。

 朦朧(もうろう)とした意識の中、ワルイドが近づいてきた。


 「喜べ。今日から俺の道具だ」


 その光景を最後にオルテッドの意識は途切れた。


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