6 依頼 《魔女を捕まえろ》
オルテッド達は商会ギルドが運営する買取所へ赴いた。
ここはダンジョンで発見した遺物や魔獣の素材を買い取りを行う場所で、中は多くのハンター達で賑わっていた。
オルテッドは受付へと真っ直ぐ進み、バイコーンの角を納品した。
バイコーンの角を見た受付と周りのハンターが驚き、ざわついていた。
「おい、討伐依頼のかかっていたバイコーンのものじゃないか?」
「あいつら二人だけで討伐したなんて……、何者なんだ?」
周囲からそんな声が聞こえてきた。
こういう風にチヤホヤされるのも悪くないと、オルテッドはこの状況を満喫していた。
報酬金を受け取り、中身を確認すると予想していたよりも多くの金額が入っていた。
思わず頬が緩んでしまう。
ギルドを立ちあげるには、これより倍の資金と5名以上のメンバーが必要だった。
当面は資金を稼ぎつつ、仲間を集めるのがオルテッドの目標になる。
しかし、今日は初めてシルヴィと協力して魔獣を討伐したのだ。
頑張ってくれた相棒に、ごちそうぐらいはするべきだろう。
そう思いながら買取所を出ようとすた時、一人の男に呼び止められた。
「ちょっと待ってくれ。バイコーンを討伐したっていうのは、あんたら二人か」
「そうだが。あなたは一体?」
「おっと、先に名乗るべきだったな。俺はC級ギルド『弱者の盾』代表のワルイドって言う者だ」
ワルイドと名乗った男は、かっしりとした体格で黒いスーツを身につけていた。
そして目を引くのが、頭に犬のような耳が生えていた。
それを見たシルヴィが呟いた。
「オル。あの人、耳が生えているよ」
「あの人が獣人である証だ。見るのは初めてか?」
「うん」
「俺もだ。それで、ワルイドさん。俺達に何の用です?」
オルテッドはワルイドへ顔を向けると、呼び止めた訳を聞く。
ワルイドは咳をしながら答えた。
「実は依頼を頼みたくて話しかけたのさ。報償は多くだそう」
「どのような依頼ですか」
「盗賊を捕まえてほしいのさ。うちのギルドはもう何件もそいつの被害にあっているんだ。分かっているのは黒い魔女の格好をした女と言う事だけだ。あんたらのバイコーンを討伐したという腕を見込んで、ぜひ頼みたいのさ」
「なるほど。しかし、そういう事なら犯罪の被害にあっているなら、警察ギルドに頼んでみてはどうですか」
「俺達にもプライドがある。警察ギルドには頼らずに、事を済ませたいのさ」
オルテッドは顎に手を付けて、少し悩んだ。
正直に言うと今日はもう休みたい所だが、報酬をもらいたいという気持ちもあった。
「シルヴィ、バイコーンを倒した後で申し訳ないが、まだやれそうか」
「余裕」
シルヴィの目はやる気に満ち溢れている。
そうと分かれば、話は決まりだ。
オルテッドはその依頼を快く引き受けた。
オルテッドとシルヴィは盗賊の情報を得るため、人々が行き交う大通りから離れた場所にある路地裏のスラム街の闇市に来ていた。
闇市は薄暗く怪しい雰囲気が漂っていた。
盗賊が盗んだ物を商会ギルドに売るとは思えなかった。
そんな事をすればあっとう間に足がついてしまうため、盗品を売りさばくとしたらこういった場所はうってつけだろうと踏んで、闇市に来たのだ。
オルテッドとシルヴィは手分けして闇市の商人に聞き込みを行なっていた。
その最中、どこからともなく音楽が聞こえてきた。
「〜〜♪」
どこか寂しげで、どこか切ない音色だった。
その音色に不思議と惹かれたシルヴィは、聞き込みの最中だというのに音色がする方向に歩き出した。
音色を辿っていくと広間に行き着いた。
広間にはボロボロのマントを着た若い女性が誰もいないにも関わらず、小さいハープを使って演奏していた。
女性は美しいブロンドの髪を揺らしながら、夢中になって演奏を続ける。
その演奏をシルヴィはしばらく黙って聞いていた。
やがて演奏が終わると、シルヴィはパチパチと手を叩いて拍手を送った。
シルヴィの存在に気づいた女性は、少し驚いた後シルヴィに微笑んだ。
「あら、お客さんがいたのね」
「いい曲だった」
「どうもありがとう。気に入ってもらえたみたいで、嬉しいわ」
「もっと人通りの多い所で演奏すれば、色んな人に聞いてもらえるのに」
「別にいいのよ。自分が演奏したかっただけだから」
女性はハープを懐にしまうと、シルヴィに近づいてきた。
女性は服装こそボロボロだが、どこか華麗さを感じさせる雰囲気を持っていた、
宝石のような翠色の瞳がそう感じさせるのだろうか。
女性はシルヴィに話しかけてきた。
「私の名前はフェイクよ。あなたの名前は?」
「シルヴィ」
「シルヴィね。演奏を聞いてくれたのは嬉しいけど、子供がこんな所にいるのは危ないわよ」
「大丈夫。私は強いから」
「あら、頼もしいのね」
フェイクはくすくすと笑った。
二人の間には和やかな空気が流れていた。
「フェイクはこの街に住んでいるの?」
「いや。この街にはたまたま寄っただけ」
「旅の目的はあるの?」
「特にないわ。各地を気ままに、自由に旅しているだけ。結構楽しいのよ」
「そうなんだ。私はこの街には、ハンターとして男の人と一緒に来たんだ」
「へぇ。もしかして相棒同士だったりするのかしら」
フェイクが興味津々で聞いてきたので、シルヴィはこくりと頷いた。
「うん。その人は私の事を相棒って呼んでくれるんだけど、私にそう呼ばれる程の価値があるのかなって……。その人はもっと自信を持て、って言ってくれたけど、なかなか難しくて」
オルテッドとはまだ出会ったばかりだが、確かな信頼をシルヴィは感じていた。
オルテッドは自分にはない夢を持っている
だからこそ、シルヴィは惹かれたし、同時に悩んでいいた。
自分はオルテッドの相棒に相応わしいのか、と。
フェイクはシルヴィの話を聞いて、うーんと唸っていた。
「まだ会ったばかりの私が言うのも何だけど……、つまりシルヴィはその人の相棒に相応わしいと自覚できるようになりたいって訳ね」
「うん。そう思いたい」
「じゃあ、相棒同士である事を目に見える形にすればいいのよ」
「どうすればいいの?」
「大事な相棒同士、お揃いのブレスレットを身につける事で絆を深めるのよ。そうすれば、段々と自覚できるようになるでしょう」
「お揃いのブレスレット……。試してみるね。ありがとう、フェイク」
「いえいえ。演奏をきいてくれたお礼よ」
フェイクはそう言って、ウィンクをした。
会ったばかりなのに親身になってくれたのが、シルヴィには嬉しかった。
「ねぇ、シルヴィ。この街に来たのは『迷いの樹海』に行くためかしら?」
「うん。それもあるけど、今は人を探しているの」
「どんな人?」
「黒い服を着た女の人。その人、何回も盗みをしているから捕まえるために探しているの」
「へぇ……。そうなの」
シルヴィの話を聞いた瞬間、フェイクの表情が明らかに変わった。
先ほどまでシルヴィに笑顔で接していたのに、まるで獣のような鋭い目つきでシルヴィを見つめていた。
シルヴィもフェイクの纏う雰囲気が変わったのに気づいた。
フェイクがはぁ、とため息をつく。
「シルヴィ、悪く思わないでね」
フェイクはマントから腕輪型魔導具をつけた右腕を見せると、シルヴィにかざした。
「ガル・ウインダ」
直後、フェイクの手のひらから竜巻がシルヴィに向かって放たれた。
シルヴィは間一髪の所で、跳び上がって躱した。
空中で後方に体を反転させ、地面に着地した。
着地と同時に、銀のハルバードを出現させ構える。
「あらら、避けられちゃったわね」
「フェイク、どういうつもり?」
「あら。何となく察しはついているでしょ?」
フェイクはシルヴィを睨みつけた。
そこに先ほどまで、親身に相談に乗ってくれた女性の姿は無かった。
「魔法弾!」
突然、明後日の方角から魔法弾がフェイクに向かって放たれた。
フェイクは「ウィンダ・シルド」と唱えると、右手に風を集めて、竜巻の盾を形成し魔法弾を防いだ。
シルヴィが魔法弾が発射された方向を見ると、オルテッドがそこにいた。
「シルヴィ、勝手にいなくなるから探したぞ」
「オル、ごめん……」
「まぁ、いいさ。そのおかげで目当ての盗賊にたどり着けた」
「あなたがシルヴィの相棒ね。思ったより凶暴な見た目ね」
「初対面の相手に、いきなり容姿で文句を言われるとは思わなかったぜ」
オルテッドはシルヴィの側に近づくと、フェイクと対峙した。
フェイクはシルヴィに話しかける。
「シルヴィ、残念だわ。こんな事になるなんて」
「シルヴィ、何があったのか知らないけど、躊躇うじゃないぞ」
「……わかってる」
シルヴィはハルバードを握る手に、ぐっと力を込めた。
フェイクがボロボロのマントを脱ぎ捨てた。
黒の下地に白いの幾何学模様のラインが入った服を纏ったフェイクが姿を現した。
そして、どこからともなく三角帽子を取り出して頭に被ると、彼女の周りに風が吹き荒れ始めた。
「さぁ、二人ともかかってきなさい。相手してあげる」
風を操る魔女との戦いの火蓋がきって落とされた。