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2 相棒結成


  シルヴィと出会ってから、オルテッドはクロークには内緒で二人でダンジョンを探索するようになった。

  

単独行動が多かったオルテッドは、誰かと共にダンジョンを探索するのは新鮮だった。

  一人で行動するよりも、ずっと効率的にダンジョン内の鉱石を採掘する事ができて、ギルドの上納金も順調に稼いでいった。

 その日々の中で、シルヴィについて不思議に思う事が二つあった。

 

  一つは魔導具も詠唱もなしに、武器を作り出せる事。

  通常魔法を行使するには魔導具を用いて、呪文を詠唱する必要がある。

  魔導具なしでも呪文を詠唱すれば魔法は行使できるが、手の届く範囲でしか使えず、ランクの高い魔法は魔導具がないと使えない。


  それにも関わらずシルヴィは詠唱もなしに、武器を生み出しているのが不思議だった。


  もう一つは異常な身体能力を持っている事。

  彼女は魔獣と戦う時、迷いのない動きで相手を翻弄し、一瞬の隙をついて魔獣を狩っていく。

  長年のハンターとしての経験によって(つちか)われたものだろうが、それでも彼女の動きには目を見張るものがあった。


  どうしてそんな事ができるのか彼女に聞いても、「自分でもよく分からない」としか答えず、オルテッドもそれ以上は追及するのは辞めた。


  オルテッドはダンジョンを共に探索する中で、シルヴィに色んな事を話した。

  今までダンジョンを探索した中で見つけた遺物や魔獣の事など。

  シルヴィは表情こそ変わらないものの、オルテッドの話に耳をかたむけ熱心に話を聞いていた。

  

  今までずっと一人でダンジョンを探索していたオルテッドには、そういった話相手がいる事はとても楽しいと思える事だった。

  そして、次第に自分がギルドを抜ける際は、彼女も一緒にギルドを連れて行きたいと考えるようになっていった。


  ギルドを抜ける為の上納金も順調に稼いでいく日々が続く中、オルテッドは思い切ってギルドを抜ける事を話した。

 


  「なぁ、シルヴィ。俺は実はギルド抜けようと思っているんだ。お前も俺と一緒にギルドを抜けないか?」

  「それは無理」

  「どうして? 何か理由があるのか」

  「これがあるから」


  シルヴィが左腕の裾をめくると、そこには鈍色の腕輪がはめられていた。

    

  「それは、C級遺物の『ペインバングル』じゃないか!」

  「うん。これがある限り、私はクロークに逆らえない」

  

  遺物。

  それはダンジョン内で時折発見される不思議な特性アイテムの事で、特性の希少さによってランク付けされている。

  

  「昔、図鑑で見たことがある……。腕輪を取り付けた者を従わせるためのアイテムで、命令に逆らったら、死ぬほどの激痛を味わせるって」

  「うん。しかも物理的な力では壊せない。だから、私はギルドを抜けれない」


  

  (クロークの野郎、涼しい顔して人の尊厳を踏みじりやがって!)


  オルテッドは怒りで身体中の血液が沸騰しそうだった。


  「シルヴィ、俺は今からクロークに話をつけてくる。俺とシルヴィが会っていた事がバレる形になるが仕方ない。こんな事許せるか!」

  「どうして私の事でオルが怒っているの。オルには関係ないのに」

  「関係あるさ。だってお前は……」

  「何を言い争っているんだ? 痴話喧嘩でもしているのかね」


  突然、後ろからここにいるはずのない声がした。

  オルテッドとシルヴィが振り向くと、そこにはクロークが手下を引き連れて、冷ややかな笑みを浮かべて立っていた。

 

  「クローク、どうしてここに!?」

  「おかしいと思っていたのさ、最近お前が集めてきた急に鉱石の量が増えてきた事に。そこで

こっそり手下に後を追わせていたが……。俺の予感は正しかったようだ」

  

  クロークが言い終わると同時に、クロークの手下の一人が電撃魔法を俺に目掛けて発射した。

  オルテッドは避けきれずにまともに電撃をあび、膝から崩れ落ちた。


  「がぁあっ……!」

  「オル!」


  シルヴィの声が聞こえたのを最後に、オルテッドの意識は途切れた。







  「オラッ! いつまで寝てやがる!」

  

  蹴られた衝撃でオルテッド目を覚ました。

  周りを見渡すと、ここはギルドの集会所らしく、ギルドの連中がニヤついた顔を浮かべて、オルテッドを取り囲んでいる。


  その中にはクロークの姿もあった。

  クロークの手下達がオルテッドの体を押さえつけているため、体を起こす事ができない。

  左腕に装着していたボウガン型魔導具は取り上げられていた。

  薄暗い部屋にクロークの声が響いた。


  「オルテッド、お前には感謝しているんだ。お前が集めてくれた鉱石はな、今度武器に加工されて、裏ギルドに引き渡す事になっているんだ。そうすれば多額の報酬金が手に入る!」

  「裏ギルドって、強盗や殺人をする屑の集まりじゃねぇか。そこまで落ちぶれていたとはな」

  「気安くしゃべるな!」


  囲んでいた取り巻きの一人が、顔に蹴りを入れてきた。

  思いっきり蹴られた衝撃で、オルテッドは口から血を吐き出した。


  「ぐっ……。どうしてその事を俺に話した」

  「冥土の土産に聞かせたくてな」

  「あぁ、そういう事ね。クソったれが」

  「どうとでも言え。シルヴィ、出てこい」


  クロークが声をかけると、物陰からシルヴィが姿を現した。

  シルヴィの表情は暗く、俯いていた。


  「シルヴィ、お前には失望した。だから、罰を与える。この男を殺せ」

  「シルヴィ……」


  シルヴィは俺を見つめていた。

  しばしの沈黙の後、シルヴィは口を開いた。


  「いや……」

  

  クロークが顔をしかめた。


  「何?」

  「私、そんな事できない」

  「そうか。ならばこうするしかないな」


  クロークは懐から腕輪を取り出すと、魔力を腕輪にこめた。

  直後、シルヴィの体を電撃が走り、悲鳴を上げる。


  「きゃああああああ!」

  「シルヴィ!」


  駆け寄ろうとするも、取り巻きの連中に肩を掴まれ押さえつけられてしまった。

  シルヴィは電撃を浴びても、涙を浮かべながら必死に耐えていた。


  「どうした、シルヴィ。早くこの男を殺せ! でないとお前が死ぬぞ!」

  「……いや!」

  「シルヴィ、もういい! 我慢しなくていい! お前まで死ぬ事はないんだ!」

  

  シルヴィを首を横にふって、必死に抵抗していた。

  クロークは舌打ちをして、腕輪を握りめるのを辞めた。

  同時にシルヴィを苦しめていた電撃が消え、シルヴィは膝から崩れ落ち、オルテッドの目の前に倒れ込んだ。

  激痛のせいか肩で大きく息をしている。

  

  「シルヴィ、大丈夫か」

  「オル、ごめんね……。何もできなくて」

  「何でお前が謝るんだよ。俺のために苦しむ必要なんて無かったんだ」

  「私、オルの夢を聞けて良かった……。私には夢がないから。未来の事を想い描く事なんて無かったから。だから、素敵だなって思ったの。私には戦う事しか知らなかったから。オル、ありがとう」

  

  (違う。

  お礼を言うのは俺の方だ。

  お前が、俺の夢を素敵だと言ってくれたから、俺は自分の夢を再確認できたんだ)


  自身の夢を素敵だと認めてくれた。

  たったそれだけでも、オルテッドは救われていたのだ。

  師匠と別れて以降、今までギルドマスターになる夢を認めてくれる者など誰一人としていなかった。

  

  



  「もういい。言う事を聞かない道具など必要がない。その男が殺される様を見届けてから死んでいけ」


  クロークがため息混じりに呟いた。

  手下の一人が剣を取り出して、オルテッドの首をはねよう、と近づいてきた。


  絶対絶命の中、オルテッドは閃いた。

  この危機を乗り越えられる力がある事に。

  彼はシルヴィの左手首の『ペインバングル』にそっと左手をのせた。


  「シルヴィ、動けるか?」

  「? どうして、そんな事を聞くの」

  「まだ終わりじゃない。俺が終わらせない。今からこの腕輪を壊す」


  オルテッドは右手に魔力を流して呟く。


  「魔法付与(エンチャント)脆弱フラージル

  「何をゴチャゴチャと言っている! 死ねぇ!」


  取り巻きの一人がオルテッドの首目掛けて、剣を振り下ろした。

  しかし、その剣は届く事は無かった。

  なぜならその剣は、ハルバードを持ったシルヴィが防いでくれたからだ。


  シルヴィの左手首からボロボロになった『ペインバングル』が崩れ落ちた。

  驚く手下達をシルヴィが、ハルバートで一気に弾き飛ばした。

  体を拘束していた手下達が離れた事により、オルテッドの体は自由になった。

  周りからどよめきが起こる。


  「どうして、壊せないはずの『ペインバングル』が!」

  

  オルテッドはよろめきあがら立ち上がり、答えた。  


  「俺が物体を脆くする付与魔法をかけた。魔法も使い用だ。物理的な耐性があっても意味なかったな」


  クローク達は状況が急変した事についていけていないようだった。

  シルヴィはオルテッドをちらりと見た。

  

  「オル、後は任せて」

  

  シルヴィはハルバードを手下達に構え、冷たい眼差しで呟く

  

  「あなた達、もう終わり」


  とても少女が発するとは思えない威圧感にクローク達はうろたえるも、手下の一人が叫んだ。


  「ガキ相手に何をビビっているんだ。 全員でかかればどうにでもなる!」

  「む、無理だ! お前らごどきが敵うもんか! あ、あいつは────」


  先程の余裕はどこへやら、クロークが唾を飲み込む。


  「めちゃくちゃ強いんだ!」


  直後、ハルバートを構えたシルヴィが突っ込んできた。

  慌てて手下達が応戦しようとするも、シルヴィの芸術的ともいえる動きに誰もついてこれず、

  次々と吹き飛ばされていった。

  手下の一人が魔法を放つため杖を構えた。

  

  「く、くそ! 電撃魔法で────」

  「させない」


  シルヴィは凄まじい速度で電撃魔法を使おうとした手下の一人をハルバードで殴り飛ばした。

  そいつの懐から、オルテッドのボウガン型魔道具が床に落ちた。

  シルヴィはそれを拾うと、オルテッドに向けて投げつけた。

  

   「オル、受け取って!」

   「サンキュ!」


  オルテッドは受け取ると左手に魔道具を装着した。

  これで魔法を遠くに飛ばせる。


  「なめやがって!」


  剣を持った手下の一人が襲い掛かってくる。

  しかし、脆弱(フラジール)の特性を理解した今のオルテッドの敵ではなかった。

  

  「魔法付与(エンチャント)脆弱(フラジール)


  魔道具から発射された光が下っ端の剣に命中する。

  相手は構わず剣を振りかざすも、付与魔法で脆くなった剣は、オルテッドが左手で受け止めた途端に砕け散った。

  その隙に魔法弾を発射して、相手を弾き飛ばした。

  オルテッドはシルヴィに向かって叫ぶ。 


  「シルヴィ、俺についきてくれ! 考えがある!」

  「了解」


  オルテッドは集会所の扉を蹴飛ばして、倉庫へ走って目指した。

  シルヴィも取り巻き達を蹴散らしつつ、後をついてくる。

  倉庫まで走ると、目的であるものが保管されている硬い扉の前にきた。

  すぐそばには外へと通じる窓がある。


  「シルヴィ、扉を破壊してくれ」


  シルヴィは手に持ったハルバートで扉を叩き斬った。

  扉の奥には、紅い色をした鉱石が大量にあった。


  「オル、これは?」

  「俺が集めていた鉱石の一つ、発火石だ。これは少しの火種で爆発する性質を持っていて、爆発するまでには少しタイムラグがある。シルヴィ、ハルバートをこっちに向けてくれ」

  「こう?」

  「よし、魔法付与(エンチャント)火炎(フレイム)!」


  魔道具から赤い光が飛び出し、ハルバートに命中し、赤い光を帯びた。

 

  「お前のハルバートに火属性を付与した。振りかざせば火がボッって、出るぞ」

  「すごい」

  「シルヴィ、今からやる事を話す。言う通りにしてくれ」


  オルテッドはシルヴィに耳打ちをした。

  そうしている内にクロークが取り巻きを引き連れて、倉庫にやってきた。


  「オルテッド、何をする気だ!」

  「俺たち、今日でこのギルド辞めるからさ。脱退記念に花火をあげようと思っているんだ。

飛びっきり熱くて激しい奴をな」

  「な、何を……」


  クロークは大量の発火石を目にすると、みるみる内に顔が青ざめていった。

  どうやら何をしようとしているか分かったらしい。


  「オルテッド、それだけはやめてくれ……。それだけは、頼む……!」

  「あー、どうしょうかなー。やめようかな。いや、やっぱダメだわ。シルヴィ、今だ!」

  「やめてくれえええええええ!!!!!!」


  クロークの絶叫を無視して、シルヴィはハルバートを振りかざした。

  ハルバートから炎の刃が飛び出し、大量の発火石に命中した。


  「脱出だ!」


 俺とシルヴィは近くの窓から外に飛び出した。

 直後。


  ドカカカアアアアン!!


  大きな轟音と共にギルドの集会所は爆発した。

  俺たちは後ろを振り返らずに走り続けた。





  「はぁ、はぁ。ここまでくれば大丈夫だろ」


  オルテッド疲れのあまり地面に座り込んだ。

  かなり距離はあるが、爆発によって生じた黒煙が空に立ち昇っている。

  いい眺めだ。


  「オル、これからどうするの? 別のギルドに入るの?」

  

  シルヴィが首を傾げて聞いてきた。

  かなり距離を走ったのに息切れひとつしないシルヴィに驚きながらも、オルテッドは答えた。


  「いや、入らない。これからダンジョンを巡って仲間を探す。そしたら、俺は自分のギルドを作るんだ」

「私たち二人しかいないけど大丈夫?」

「お前の金属の武器を作る魔法と俺の付与魔法があれば何でも乗り越えられるさ、相棒!」

「相棒? それは何。よく分からない」

「あー、ハンターの習わしで信頼してる相手にはそう呼ぶんだ。俺とお前は対等な関係だ。俺は一人の人間としてお前が必要なんだ」


シルヴィはしばらくきょとんとしていたが、僅かに微笑んだ。


  「うん。あなたが望むなら、わたし相棒になるね」

  「あぁ、よろしくな! 相棒!」


  オルテッドは右手を差し出し握手を求めると、シルヴィもそれに応じて、手を握った。  




  ────これは夢を目指す男と、夢を持たない少女の物語。。







    



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