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人と一人と二人と三人  作者: たろう
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20代の中頃、良く面倒を見て貰っていた年上の知人から部屋の鍵を預けられた。

気分転換に旅行するそうだ。

一週間くらいで帰ってくるらしいがその間ペットの世話をして欲しいと。

普段から飯を奢って貰うこともよくあり、快く鍵を預かった。


鍵を手にしたその日、仕事帰りに部屋に向かったのだが今思えば当時の私は余りにも人を疑う事を知らなかった。

マンションへの道を歩きながら、そういえばペットって犬だろうか、猫だろうかと考えていた。なんせ自分は猫アレルギーだ。

犬なら良いなと思いエレベーターのボタンを押した。


知人の家は分譲マンションの一室だった。

歳もそんなに変わるわけでもなく、また独身にも関わらず立派な建物である事に少し驚きと僻みを感じた。

階に到着し、エレベーターから出るとしんと静かで人の気配も無い。

余りの静けさに飲まれたのか、無意識に自らも音を出さないように部屋へと向かった。


自分が住んでいた所は所謂一人暮らし向けの賃貸物件であり、また幼少期に過ごした住居と思い比べた上で、こういう分譲マンションは子供の頃の友人の家のような、決して自分が関わるような場所ではないと感じていた。


部屋に着き、鍵を開ける。

ドアを開き、えと思う。


ヒールがある。


なんだ女と暮らしているのか。じゃあ女と旅行か。羨ましいな。と素直に嫉妬した。

綺麗なフローリングの床を静かに歩み、リビングへ向かうが目的の動物か見当たらない。

背負っていたリュックを投げ下ろし、おーいと呼び掛ける。

足音一つ返ってこない。

どこかの部屋かと思い、リビングに近いドアを開けるとそこには女がいた。

咄嗟に頭を下げる。誤解されてはよろしくない。必死に謝り事情を説明し、空き巣などでもないと言い訳を述べる。

ひとしきり勝手に述べ散らかした後、反応を窺うとまるで興味がないようで、まるで自分の事など認識もしていないような。


恐る恐るペットについて訊ねるが返事は貰えなかった。

戸惑いながら、作り笑いを浮かべながら部屋を出る。

同時に内心ではなんなんだよ人が住んでるじゃないかと苛立ちを感じながら。


残りの部屋も一応見ようとした時、ガチャリと玄関が開く音が響いた。

ゆっくりと、下を向きながらこちらに歩いてきたのは女の人だった。

また事情を説明しなきゃいけないと口を開こうとしたが言葉が続かなかった。

先の人と同じ様に、一瞥もくれず別の部屋に入っていったのだ。


さて、と考える。

変な汗が出ている事が分かる。

どうやらペットは居なさそうだ。

居ても同居人が居るならそもそも問題が無い。

しかも二人もいる。

考えたがわからぬ。何故自分に鍵を預けたのだろうか。


聞いてみよう。そう思い携帯に電話を掛ける。


出ない。

長い呼び出し音を繰り返し、何度も掛け直すが出ない。

最終的には電源が切られたようだ。


なんだ?なんだなんだ?どういうことだ?

部屋で一人頭を抱える。

何かを試されているのかこれは。

ペットってなんだ。ペット?ペット?

あれ?ペットって、、、ペットの世話って、、、


とりあえず何らかの世話をしなくてはいけない義務感、義理感。

もう一度確認してみよう。

そう思い彼女達に話を聞きに行った。


一人目

最初の子だ。ノックをし、軽く頭を下げながら部屋に入った。

ベッドで寝そべっていた。反応は相変わらず無い。

話し掛けても一切無視。

どうしようもない。

次に賭けよう。


二人目

同じ様にドアの外から挨拶を述べながら部屋に入る。

椅子に座って漫画を読んでいた。

この子もダメならどうしよう。帰ろうか。

話し掛けるがやはり反応がない。

よくそこまで無視出来るなと遂に笑いが出てくるくらいだ。


余りにも反応が無いから好き勝手話してやった。

なにしてるんだ?あの人と付き合っているのか?

ペットっていないよな?俺は何を頼まれたんだろうな?

散々喋ったが全部無視された。


帰ろう。

そう決めて出ていこうとした時、ふとリビングに何か、ほんの少しの何かを感じた。

静けさの違和感とでも言おうか、何か変な空気。

テレビもある。ソファーも食卓もある。

でも何か、綺麗過ぎる?ような。

台所を見ると食器棚には食器が並んでいるがシンクには食器もなく、水の跡も無く、新品のそれがただ置かれたような感覚。

冷蔵庫を開けると中には何もない。

何でだ?ゴミ箱は?ゴミ箱も空っぽだ。何故?


どちらに問うわけでもなく聞いていた。

食べ物とかどうしてるんだ?と。

当然返事は無いけれど。


何となく、ただ何となくこの違和感が気になり、スーパーで飲み物やお弁当、お惣菜、冷凍食品を買って戻り、冷蔵庫に入れて自宅へと帰った。


帰りの道すがら、ふと思った。

世話ってまさかあの子達の事か?

いやいやそれはないだろうと頭を振る。

歳は自分より下だろうがそれでも二十歳くらいはありそうだ。

それに女の子と住んでいるなんて聞いたこともない。

え?いやまて。ここがあの人の自宅?そう言っていたか?

まてまて。俺は家に行ったことがあるか?答えはNOだ。

じゃあこの鍵の家は誰の家だ?あの人のか?

わからん。

なんなんだよほんとに。


分からないけれど、たぶん何か理由があるんだろう。

そう言い聞かせ混乱の初日が終わる。



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