キツネの巫女(画像あり)
とある山奥に、小さな祠がありました。
そこにはとても偉いキツネの神様が祀られていて、
代々、キツネの巫女がその場所を守ってきました。
キツネの巫女は、特別な力を持って生まれます。変化が
得意で、いつも人間の姿に化けては、悪さをするものを懲らしめたり、
神様を信じるものを見守ったりしていました。
そして彼女達は、とても長寿でした。
先代の巫女が100年でその役目を終えて、今の巫女が生まれてから、
ちょうど20年が経ちました。
そして、巫女は今まさに、絶望的なまでに後悔していました。
先代の巫女が遺した手記には大切な教えがたくさん書かれていて、
その巫女は何度も何度も読み返してきました。
「祠はいつも清潔に」「参拝者にはできる限りのもてなしを」
「神様は気まぐれなので、いつ何時いらっしゃるか分からない。
恥ずかしくないよう、あまりさぼらないこと」
100年分の心得が、いつも巫女を導いてくれました。そして、そこには
ひと際大きな文字で「他の生き物と関わりを持たないこと」とありました。
巫女が生まれたばかりの頃は、その意味がよく分からなかったので気にもせず、
同じ頃に生まれたキツネ達と仲良く過ごしていました。
「私達、ずっと一緒に暮らしていこうね!」
そんな約束をしていたのに、他のキツネ達は10年も経たず、
遠くに行ってしまいます。巫女は彼女達の子ども、そしてその孫を見届けて、
ようやく先代の巫女が遺した忠告の意味が分かりました。
「…寂しい」
自分のことを知っている仲間はもう、この世には誰一人としていません。
他のキツネ達と暮らしてみても、年をとらない自分は恐れられ、
もう祠にしか、彼女の居場所はありませんでした。
そうして巫女は、他の誰かと同じ時間で生きることができない悲しみに
押しつぶされそうな毎日を、独りきりで過ごしていました。