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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

〜輪廻転生〜 魔王は勇者に、勇者は悪魔に

作者: ぱおぱお






目を覚ますと、僕は見たこともない不思議な世界にいた。

目の前には閻魔という文字の入った帽子をかぶっているナニカがいて、どうやら生前の僕は国民を自分の駒のように使って多くの命を奪った最悪の魔王だったらしい。らしいというのも、今目の前にいるナニカから、そうきいたからだ。


「私は神々より、この世界の輪廻転生を任されている閻魔だ。私の手にもつ生前の記録から善悪を判断し、次の生を割り当てる役目を持つ。お前は前世であらゆる暴虐を重ねた。生まれて間もないころより、奪う必要のない命を奪い続けた。住む場所や家族を奪われたものは億を優に超え、……


閻魔の帽子をかぶったナニカ、閻魔というらしいは僕の生前の記録(見た目は完全にジャポ◯カだ)を見ながら僕の悪行ばかりを読み上げていった。どうやら僕には業ばかりが積み重なっているらしい。自分のやったことだと思うと言葉を失う。


……以上より、判決、働き地獄を言い渡す」



そういうと閻魔は僕の生前の記録のノート、その最後のページに地獄(働)の判を押す。どうやら僕は地獄行きらしい。生前の記憶はないけど閻魔が天国と地獄を司ることを、僕は知っていた。なに、すでにわかっていたことだ。僕の罪状はどんなに徳を重ねていたとしても覆せることがないということくらい。



「お前には働き地獄で死ぬまで働いてもらう」



その言葉を最後に、僕は暗闇に落ちていった。





















突然だけど僕は今、理不尽にあっている。生まれた時からずっと女王様のために働かされているんだ。女王様は王宮から一歩も出てこないし、眉目秀麗な絶世の美男子たちに囲まれて、僕たちが納めた税をたらふく食べてるだけの贅沢三昧だ。

そのくせ僕たちには休む暇もないほどに働かせるんだから、いかに僕が理不尽にあっているかわかるだろう。



「女王様のために働いて死ねるなんて、ボクの弟はなんて幸せなんだ!その上ボクに弟の死体を運ばせてくれるなんて、女王様はやっぱり素晴らしい方だ!」



と、過労で死んだ弟の死体を女王様の王宮に運びながら、僕の友人はまるで感動でもしたかのようにいう。絶望と涙で歪んだ、言葉とは正反対の顔で。僕たちはなにがあっても、たとえ家族が危篤になったり死んでしまっても、女王様のために働き続けなければならない。それが僕たちの運命だからだ。








王宮にまで死体を運び終えた僕と彼女は後日、王宮に呼び出された。なんと今度は女王様に会うことができるらしい。なんと喜ばしいことだろうか。実は僕は、こうなることを期待していた。というのも、かつて家族の死体を運んだ友人が後日王宮に呼ばれたことがあるからだ。友人が呼ばれたその前日、僕たちは友人の華々しい門出を、お祭りのように騒いだ。女王様は王宮から出てこないが、気に入った男がいれば王宮に呼ぶのだ。



僕と彼女は異端児だ。いつどこで生まれたのかもわからないが、気がついたらこの国にいた。この国の住民はみな、生まれてすぐに女王の魔法で操られる。思考と生存本能を全て女王本位にされるのだ。どこからかやってきた普通と違う僕たち2人はすぐにこの国に溶け込めた。なぜかは覚えていないが、当時の僕は罪悪感に駆られ、気づけば働き地獄のなかにいたし、聞いてはいないけど、きっと彼女も同じだったと思う。けど、そんな日々にも、転機が訪れた。彼女との出会いだ。彼女と出会って僕が真っ先に思ったのは、みんなを救えるかもしれないという希望だ。この国では女の子しか王様になれない。彼女にこのことを話したら、とても綺麗な見惚れる笑顔で味方してくれるといってくれた。



次々と一緒に育った家族が死んでいくなかで、僕と彼女は、この国を女王から解放することを誓い合った。

僕という生の始まりは罪悪感からだったが、今は女王から国を解放するという使命感に燃えている。だから今はたとえ僕たちの弟が死のうが我慢できるし、その死体がどうなろうと「女王様本位」を演技できると確信していた。























王宮に呼ばれた僕たちは、なんなく女王の部屋への入室の許可を得た。

魔法で洗脳しているのだ。なにも恐れることはないと思っているのだろう。部屋に入るとすぐに、目に入ったものがある。女王の部屋には、大量の良質な食事が置かれていたが、その中でも、女王が今まさに食している、黒い何かに僕は視線を奪われた。

遅れて入ってきた彼女も同様だったようだが、すぐにそれも女王からの言葉でかき消される。



「よくぞ参った。そなたらの家族の死体はとても美味いぞ」



その言葉に、僕の頭のなかを絶望、無力感、悲しみ、憤怒、色々な感情が支配した。


「喜ぶといい。我らが偉大な女王様は、いつも王宮から出たゴミばかりを食べるお前らに家族を食する権利を与えたのだ。」


女王のご機嫌取りをしているかつての友が、恍惚とした表情で何かを言っているが、僕には聞こえてこない。それは彼女も同じだったようで、尻餅をつき、女王の暗殺に用意していた特上の酸を漏らしてしまっている。


「演技を続ける必要はないぞ。我は生まれた子たちに魔法を施すが、何人かあえて魔法を施さない者たちがいる。我の魔法には魔力と呼ばれる、他者の絶望を食した時に生まれるエネルギーが必要なのだ。だから、我はそなたらが魔法にかかっていないことも知っているし、そなたらが我を誅そうと企てていることも知っている。強力な酸を用意したようだが、我に酸は効かぬぞ」


そう言うと、女王は僕の隣の彼女の股下に顔を寄せ、こぼした酸をとても美味しそうに飲み込む。

言葉が出なかった。僕たちの一生は一体なんだったのか。生まれてからずっと働き続けたし、大事な仲間が死んでも我慢した。それらの我慢は全部この日のためで、ようやく彼女との誓いを果たすために、今までずっと演技を続けてきたんだ。なのに、僕たちはずっと、こいつの掌の上で転がされていただけだったのか。


「なんでだ!なんでなんだ!絶対に許さない!お前も!隣で嬉しそうな顔をしているやつも!!なんでこんなことをするんだ!!僕は普通に生きたかったんだ!なんで!なんでなんでなんで!なんで、僕たちだったんだ…」


ひとしきり叫んで、出てきたのは怒りと、自分勝手な言葉だけだった。そうさ、僕はずっと、自分勝手だった。罪悪感から始めた罪滅ぼしも、どんな罪を犯したのかも、当時抱えていた罪悪感も全部忘れ、自分のためだけに、女王を殺そうとした。絶望に染まった彼女を見つけた時、真っ先に思ったのは、同族を見つけた安堵と、女王を殺した後の、政権を得られるかもしれないという期待だった。彼女が悲しみをかくして演技をしている横で、本当に演技していたのは僕だった。


僕が激しく自己嫌悪しているのを、救ってくれたのはまた、僕の隣にいる彼女だった。


「ボクは君に救われたよ。君と出会う以前のボクは、ずっと暗いところにいた。最後は結局ダメだったけど、でもきっと、君に出会えなければボクは最後をこんなふうに迎えられなかったよ。だから泣かないで。君は少なくとも、ボクを救ってくれたんだから」



彼女はどこまでも強い。最後の最後までずっと他者のためにあり続けたんだろう。僕とは違って過去にあった罪悪感も忘れずに、ずっと他者のためにあり続けたんだ。女王の腹のなかに意識が吸い込まれる中、彼女はずっと光続けていた。






















目を覚ますと僕は、みたこともない不思議な世界にいた。目の前には閻魔の文字が入ったナニカがいて、僕は生前仲間のために革命を企てた勇者だったらしい。らしいというのも、目の前の閻魔からそうきいたからだ。



「お前は生前、他者のために働き続けた。そして仲間のために、暴虐を働く魔王に立ち向かったのだ。惜しくも革命は失敗に終わったが、お前は充分に徳を積み重ねた。

判決は天国だ。」



どうやら僕の生前は閻魔様から見てもよくやっていたらしい。閻魔様が僕の生前の記録に天国という判を押そうとしたその時、


「閻魔様、恐れ多くもわたしはそのような善のものであるという確信がないのです。天国に行けるのということは、わたしの未来には幸せが待っているのでしょう。ですが、わたしは幸せになってはいけない。そんな気がするんです」


天国に行かせてくれるようだが、僕はいまいち納得がいかない。素直に聞いておけばいいと思うが、どうしても僕が生前、善人だったとは思えないのだ。


「うむ。たしかにお前は本来、善人なのではないのだろう。しかしお前が行ったことは確かに善だ。お前の来世は天国であるが、ふむ、特例だが記憶を与えよう。天国で自らの行いを反省するとよい」



その言葉を最後に、僕は光の中に消えていった。最愛の人を確かに記憶の中で思い出して…





















突然だけど僕は今幸せを噛みしめている。生まれてからずっと家族の愛情に支えられ、働くことなく生きている。あぁ僕は本当に幸せだ。僕が生まれた時から、あまり泣かなかったらしい。お母さんやお父さんは、とにかく手がかからないから、僕のことを子供らしくないっていう。こんな恵まれた子供の僕、そう、今幼稚園の友達たちと楽しそうに笑う僕には秘密がある。前世の記憶があるということだ。気がつけば僕には記憶があった。


前世の記憶があるからか、僕は結構物知りなんだ。足元で死体を運ぶ蟻たちのことも知ってるし、僕の隣で、自分とそう年の変わらない泣く子をあやす初恋の女の子のことも、僕は知っていた。


彼女は今でも他者のためにあり続けている。記憶を取り戻すまでの今世の僕には目標があった。彼女の隣に立つことだ。なんで過去形かって?今でも彼女の隣に立ちたいと思ってるよ。でも、だからこそ僕は償わなきゃいけない。あぁこんなこと、頼まなければよかった。僕には前世の記憶があるけど、彼女にはない。前世僕がまだこんなに大きくなかった頃、僕は物知りだった。あの女王の治める国が、巨人たちの国の中に、隠れるようにしてあったのも知っているし、今でもまだあることも知っている。だから僕は前世の誓いを果たすため、彼女の隣に並ぶため、罪を償うために、地獄へと、足を踏み入れた。















目を覚ますと不思議な空間にいた。目の前の閻魔の文字の入った帽子をかぶったナニカは僕が生前悪魔だったという。なんでも国一つを滅ぼし、多くの命を奪った最悪の悪魔だったそうだ。もちろん僕は地獄におちた。でもなぜか、心は晴れていた。



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