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異世界の英雄に憑依された件  作者: 熊出
新たなる世界で
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新たな神

 暗闇の中で、貴一は彷徨っていた。

 寒い。そして、気分が悪い。

 呼吸をしているだけで、死にたくなる。


「啀み合うことに怯え、すれ違い悲しむ」


 子供の声がした。

 周囲に響き渡る、透明感のある声だ。


「人は人と生きている限り傷つくことは避けられない。なのに、なぜ生きる? こんな狭い世界で」


 再び、子供の声がする。

 なぜだろう。

 言われてみれば、わからない。


 ヴィニーは、クリスとすれ違って、死ぬほど後悔した。ヴィシャスに誤解されて、悲しんだ。欠けた心の埋め合わせにセレーヌを求める弱さが許せなかった。

 人と生きるのは辛いことだ。

 それなのに、なぜ人と生きるのだろう。


「愛している人、大事な人がいるからよ!」


 クリスの声が響く。


「その愛している人とも、いずれすれ違い、疎遠になるかもしれないのに?」


「それでも、愛した瞬間は本物だから。永遠なんてなくてもいい。わかりあえた一瞬があればいい!」


 ピピンの声が響く。

 柄にもなく臭い台詞だな、と貴一は苦笑する。


「人を守るために俺は剣を取った。それは今も変わらない。お前からも、人々を守ってみせる!」


 ヴァイスの声が響く。

 そうだ、ヴァイスはいつも人を守っていた。人類が愚かだとしても、それを含めて人類を愛していた。


「人には可能性がある! 出会う可能性、わかりあう可能性! それらを無視してネガティブな側面だけを見る貴方にはわからないことね!」


 セレーヌの声が響く。

 そうだ。人には可能性がある。


 彼らの言葉が、脳裏に響き渡る。

 そして、貴一は、正気を取り戻した。


「行くぞ、ヴィニー。これで、最後だ」


 唱える。


「フル・シンクロ!」


 貴一の体は、ヴィニーのものへと変わっていた。

 ヴィニーは地面に手を当てて光の結界を張る。


「眩しい、眩しい……」


 子供は苦しげに呻く。

 五人は、いつしか不可思議な空間にいた。


 光の白と闇の黒で分裂した世界。

 その奥に、黒い巨大な球体が鎮座していた。

 果てが見えない大きさだ。


「何故人の心の光が、こんなに眩しい。僕を作り出したのも、人だというのに」


「これが、復活しようとしていた魔物……」


 クリスが、呆れたように言う。


「とんでもないわね」


 セレーヌも、呆れたように言う。


「僕は闇の神。苦しみから解放する善意の神。人々の心が僕を作った。なのに、なぜ同じ人類が僕に抗う? 人は苦しみから解放されたいのではないのか?」


「そう思う時もある。辛い時もある」


 ヴィニーは、一言、一言、はっきりと告げていく。

 その体が、徐々に輝きに包まれていく。


「けど、最後にはわかりあえると信じて、俺達は進む」


 それは、シグルド達が使った方法と対極の方法。

 東京に結界を作って人の心の闇を集めたように、五つの精霊の加護を使って人の心の光を集めたのだ。

 闇は、しばし考え込んだようだった。


「わかった、いいよ」


 闇は、呟くように言った。


「僕も生まれ変わるなら、君達のように……」


 ヴィニーは双剣を振りかぶる。

 そして、集めた光を双剣に集中させる。


「双破……!」


 双剣を振り下ろす。


「光帝陣!」


 光が走っていく。圧倒的に大きな闇を囲んでいく。

 それらが輪をなした時、その途中途中に作られた全ての刃は輪の中央に向かって駆け出した。

 完璧な光帝陣だった。


 闇が砕け、光が弾ける。

 そして、ヴィニー達は、元の世界へと戻ってきていた。


 冒険は終わった。

 そんな実感が、胸にあった。



次回『全てを書きかえる時』

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