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異世界の英雄に憑依された件  作者: 熊出
新たなる世界で
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富士樹海決戦

 そして、一同はロックラックの運転する車に乗り、山梨県に辿り着いた。

 富士山樹海。それが、最後の決戦の場。


 五人は所定の配置につき、トランシーバーで連絡を取る。

 貴一の目の前にも、樹海があった。

 その上空は曇天。今にも雨が降りそうだ。

 目の前には濃い闇の結界。人が立ち入ればたちまち精神を侵されるだろう。


「いいか。状況は細かく伝えてくれ」


 武雄がトランシーバー越しに伝える。


「了解」


 貴一はトランシーバー越しに答える。


「わかりました」


「了解っす」


「氷帝に任せておきなさい」


「了解した」


 トランシーバー越しに皆の声が伝わってくる。

 緊張しているのが、隠していてもわかった。


 貴一も、緊張で胸がいっぱいだった。


 武雄が、トランシーバーを下ろした。


「シグルドと話したそうだな、貴一」


「ああ。それがなにか?」


 貴一は、そっぽを向いて答える。

 家族の距離は未だぎこちない。


「奴はこの世の絶望を説いただろう。けど、それだけではないのだ。愛があるから、人は戦える」


 武雄は、躊躇うようにその言葉の続きを告げた。


「この長い旅、母さんやお前達がいたから頑張れた」


 貴一は、返答に困る。


「……一方通行すぎるんだよ」


「死ぬなよ」


「ああ」


 家族の会話は、それで終わった。

 武雄はトランシーバーを持ち上げる。


「十秒後に光の結界を張る。この濃い闇の結界と中和させるのが限界だろう。その隙に、五人がそれぞれ一匹ずつ魔物を倒してほしい。魔物がいる場所。それは封印にも復活にも使える魔術的スポットと考えて、印をつけておいてくれ」


「了解っす」


「わかりました」


「氷帝の出番ね。腕が鳴るわ」


「了解しました。善戦します」


 恵美里の言葉に、武雄は訂正を求める。


「善戦では駄目だ。勝つんだ」


「訂正。勝ちます」


「それでいい」


 武雄はトランシーバーを下ろす。


「貴一。行くぞ」


「ああ、頼んだ……親父」


 二度と、父のことを呼べないかもしれない。そう思い、貴一は父をそう呼んだ。

 武雄は一瞬言葉を忘れたようだったが、すぐに行動に移った。


「十」


「行くぞ、ヴィニー! フル・シンクロ!」


「五」


 貴一の姿がヴィニーに変わる。

 ヴィニーは双剣を掲げた。

 双剣に光が集まり始める。


「零」


 光が迸った。

 それは、曇天を晴らし、闇に覆われた結界と中和しあった。


「双破猛襲斬!」


 光刃が木々を薙ぎ払って飛んでいく。

 その後を、ヴィニーは駆けて行く。


 他の場所では、魔力の光が、水が、炎が、木々を薙ぎ倒していくのが見えた。

 皆、前進しているのだ。

 ヴィニーも、貴一も、それに勇気を貰ったような思いだった。


(願わくば、自分に一番の難敵を……)


 そう祈って、ヴィニーは駆けた。



+++



 樹海上空を飛行しているピピンは、気配を察して回避行動に移った。

 レーザーがピピンの髪を掠めていった。


 おかしい。気配を感じる。それも一つではなく、複数だ。


「ふふふ。貴方が相手かい。ピピン」


 笑うように言うのは、一人の女だ。


「余裕だな。フル・シンクロしないのか?」


「五聖最弱の男、ピピン。全方面作戦を取っているようだが、それが私に当たるとは、私はついている」


「舐められたもんだぜ、俺も」


 殺気を感じて、ピピンは急上昇する。

 さっきまでピピンがいた位置を、レーザーが通過していった。

 その発射元は、ピピンが気配を感じている位置と一致している。


 ピピンは、唇の端を持ち上げて、トランシーバーを口に当ててスイッチを押した。


「こちらピピン。最高の相性の相手と巡り合った」


 そして、トランシーバーを口から離す。


「なにを言っているの? 貴方は、囲まれて死ぬのよ」


 女は、嘲笑うようにして言う。

 そして、木々の中から目玉が数十個上空へと移動してきた。

 これがレーザーの発生源。


 ピピンは矢筒から矢を三本掴み、一本を放つ。

 それは、見事に目玉に突き刺さった。

 振り向きざまにもう二本立て続けに放つ。


 矢を再び手に取る。同時に移動してレーザーを回避する。


「馬鹿な。馬鹿な。なぜ殺せない! この包囲をなぜ躱せる!」


「認識を改めることだな」


 ピピンは矢を放ち、言った。


「五聖空戦最強、ピピン! ここにありだ!」


 女は絶句したようだった。



+++



「こちらヴァイス。場の制圧を完了した」


 ヴァイスは、そうトランシーバーに告げた。

 弱い敵ではなかった。ただ、それ以上にヴァイスが強かった。それだけの話だ。


「こちらロックラック。了解した。君のところに強敵が割り当てられたなら良かったのだが、中々上手くいかないものだ」


「他の場所へ援護へ行けるが?」


「いや、そこを守ってくれ。そこを守っていれば、闇の結界は張れなくなる」


「了解した」


 ここが、封印の地。

 ここが、旅の終着点。

 恵美里は、感慨深い思いでいた。


(負けないで、皆……)


 恵美里は、祈った。



+++



 一投閃華金剛突で開けた通路ができた森を、クリスは走っていく。

 その時、トランシーバーが小さな音を経てた。


「こちらヴァイス。場の制圧を完了した」


 トランシーバーから聞こえたその声に、クリスは目を丸くした。


(化け物ね)


(真似しちゃいけないよ)


 クリスは苦笑混じりに言う。


 その時、前方から光が向かってくるのが見えた。

 クリスは、咄嗟に横に回避する。しかし、衝撃波で吹き飛ばされ、木に叩きつけられた。


(今のは?)


 静が動揺混じりに言う。


「あー、まいったな」


 クリスは、トランシーバーに向かって言う。


「反射のガリオスだ」


 クリスは跳ねるように立ち上がり、再び駆け始める。

 そして、反射のカリオスがいた。

 外見は、華奢でアイドルグループにでもいそうな青年だ。


「これはこれはクリス。君に当たるとは僕も運がいい。反射してやった金剛突の味はどうだった?」


「最悪」


 クリスは苦い顔で言う。


「前世では君はヴィーニアスに頼って勝利を得た。けど、今日はヴィーニアスはいないようだ。いよいよ、僕にも運が回ってきたということかな」


「どうかしらね……体魔術、百五十パーセント」


 クリスは唱える。その体が輝きを帯び始めた。


「あんたの反射の速度を越えて接近する。今日は負けるわけにはいかない。私は勝つ」


「お気楽クリスにしてはシリアスじゃないか」


「宿主の意向なんでね。私は必死で貴方を殺す。自分の世界を守るために」


「いいさ。僕の反射が早いか、君の体魔術が早いか、勝負と行こうじゃないか」


 クリスは、地面を蹴って駆けた。



+++



 セレーヌはまだ接敵していない。足が遅いのだ。

 他の四人からの連絡は受けている。ピピンは優勢、ヴァイスは圧勝、クリスは苦戦、そして、ヴィニーも苦戦。

 自分はどうでるか。

 その結果は、まだわからない。


 その時、セレーヌは足元の岩を飛び越そうとして、足を引っ掛けて倒れ込んだ。

 顔から地面に倒れて痛みがすぐにやってくる。


「楽してたからなあ……」


 ぼやくように言うと、立ち上がってすぐに駆け始めた。

 そのうち、敵が見えてきた。

 鎧を着た三メートル近くある大きな敵だ。


「私もちゃちゃっと決めるわよ。悪いけどね」


 セレーヌはそう言って、地面に杖の切っ先を叩きつける。


「水よ走れ! 水線華!」


 水が走り、鎧を切り刻む、はずだった。

 しかし、鎧が濡れただけで、ダメージはなかった。


「嘘……」


 トランシーバーのスイッチを押して声をかける。


「対魔術コーティングされた鎧を着てる。相性最悪!」


 敵が駆けてくる。


「嘘、嘘、嘘……」


 今までは誰かが抱き上げて駆けてくれた。今日はそうはいかない。


「氷よ咲き誇れ! 氷華!」


 セレーヌは足元に氷山を作り出すと、その上に逃れた。

 敵は巨大な剣を投げてくる。

 それを、セレーヌの氷が捕らえた。


「やるな」


 楽しげに、敵は笑う。


「伊達に五聖は名乗ってないわ」


 セレーヌは鼻息も荒くそう言った。

 しかし、このあとどうする?

 炎の魔術は使える。しかし、魔術耐性があるあの鎧に通じるだろうか。


(最近の魔術殺しは本当に効くなあ……)


 セレーヌはぼやくように言っていた。



+++



 そして、ヴィニーはシグルドと向かい合った。

 ヴィニーの手には双剣があり、シグルドの手には炎がある。


「嗅ぎつけるかなとは思っていた。まさか、こんなに早くとはな」


「前世から続いた因縁に決着をつける。俺が勝者、お前が敗者だ、シグルド」


「忘れたかな。僕は君の師匠の仇なのだがね」


「俺も遊んでいたわけじゃないさ」


 ヴィニーはそう言って、右肩を双剣の片割れで二度叩く。

 そして、トランシーバーのスイッチを押して、告げた。


「シグルドと遭遇。戦闘に突入する」


 ヴィニーは魔力の高まりを感知して回避行動に移る。

 さっきまでいた場所に炎が巻き上がった。


 そして、掲げていた双剣を、振り下ろす。


「双破斬!」


 シグルドは指を振っただけで双破斬を掻き消した。

 魔術のコントロールが抜群に上手い。それが敵の特性。


 接近を試みる。

 すると、その瞬間にシグルドは視界から消えていた。


「ここだよ」


 背後から声がする。

 そして、炎が迫ってくるのがわかった。


 跳躍して、木に飛びつく。

 瞬間移動。

 それもまた、シグルドの得意技。


(さて、どう当てる……)


 捕まっていた木が炎に包まれる。

 ヴィニーは、木から木へと駆けた。


次回『富士樹海決戦2』

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