不思議な声
「何処まで続くのこのビル街。見る景色見る景色ビルがあるんだけど」
静が呆れたように言う。
「……こりゃ就職は東京ね」
沙帆里は淡々とした口調で言う。
空は雲が覆っている。生憎の曇り空だ。
一同は電車に乗っていた。まずはフル・シンクロ不可の条件でピピンが運転できなくなったこと、そして東京では電車を使ったほうがいいと隆弘に忠告されたことがきっかけだ。
通勤時間でもないのに電車は混んでいて、人口の多さを伺わせた。
電車は秋葉原についた。
「これが秋葉原電気街かぁ」
哲也が興味深げに言う。
「降りるか?」
貴一は問う。
「観光じゃないぜ」
哲也は苦い顔で言う。
「しかし、何処にそれが隠れてるかわかんないだろ」
「渋谷のスクランブル交差点見たいなー」
と、静。
「じゃあ私は忠犬ポチ公の像」
と恵美里。
「観光じゃないぜ」
哲也が二回目、苦い顔のままで言う。
「哲也も一苦労ね」
沙帆里が笑うように言う。
年長組は、浮足立ってるのを指摘されたようで黙り込んだ。
なにせ、初めての東京だ。浮かれ気分にもなる。
「まずは陰陽連の本部の様子を見に行くか」
哲也は淡々とした口調で言い、ポケットから地図を取り出す。
場所は千代田区だ。
哲也はスマートフォンを操作し、目的の場所への最短距離を調べていく。
「あちこち行くことになると思うが、なあ、お前ら」
哲也は一同を眺めて呟く。
「初めての東京でミスなく乗り換える自信はあるか?」
沈黙が漂った。
「俺はないね」
哲也は投げやりに言うと、スマートフォンに視線を落とした。
+++
陰陽連の本部はすぐに見つかった。
それが、跡地とでも言うべき惨状になっていたから。
地面に穴が空き、クレーターにはエレベーターの残骸が残っていた。
周囲には警官が立っており、近寄れないようにロープが貼ってある。
「そりゃ連絡も取れんわな」
哲也がぼやくように言う。
「どうする? 哲也。ここにいても悪目立ちするだけだと思うが」
貴一は言う。
「アテにしてたんだけどなあ。ロックラック」
哲也が呟いた。
その時のことだった。
「高い場所に行きなさい」
貴一の耳に、声が届いた。
何処かで聞いたことがある声だ。しかし、それが何処か、思い出せない。
「そこならば、闇の結界の穴を一望できるだろう」
「待って」
貴一が言ったが、声は途絶えてしまった。
「どうしたの? 貴一」
静が怪訝そうな表情で言う。
「いや……声がしたんだ」
「ロックラックか?」
哲也が問いかける。
「かもしれない。高い場所へ行けと、そう言っていた」
「罠かもしれんが……」
哲也が躊躇うように言う。
「罠なら、補足された時点で襲われてないか?」
「尤もだ。なら、行き先は決まったな」
哲也は建物の上を指差す。
東京タワーが、一同を見下ろしていた。
+++
「貴一達を確認した」
その連絡に、美鈴は肩の荷がおりた気分になった。
「貴方が動いてくれたなら、貴一達も動きやすくなるでしょう。ロックラックさん」
「老骨に鞭打つよ」
「そんな歳でもないでしょ」
美鈴は笑う。
「そうかな」
「そうですよ」
「ならちょっと自信を持とう」
「長い計画でしたね」
美鈴は、しみじみとした口調で言う。
「貴方が言い出し、貴方は実現した。私の人脈作りも、貴方の協力があってのことです。各地を放浪し、貴方は成し遂げた」
「これからだよ、美鈴君。大詰めは、ここからだ」
「シグルド。厄介な魔物をあとに遺してしまいましたね」
「陰陽連本部の人々には悪いことをした。しかし、光の精霊は輝き続けている」
確信の篭った口調でロックラックは言う。
「貴一とは、会わないのですか?」
「……それは、言わないでほしい」
躊躇うように、ロックラックは言う。
「貴方でも迷うことがあるのですね。安心しました」
美鈴は苦笑混じりに言った。
「迷ってばかりさ、人生なんてものは……」
そう、ロックラックは苦々しげに言った。
「年長者のお言葉、ためになります」
「そう茶化すなよ」
「大真面目ですよー私は」
「そうかな。そう聞こえないのが君の美点であり欠点なんだろうな」
「……ためになります」
「すまんな。歳を取ると説教臭くなっていけない。そろそろ通話を切る。君の方も、京都陰陽連と連絡を取り合って、次の段階に備えておいてくれ」
「了解しました」
美鈴は元気良く言う。
通話はそこで途絶えた。
次回、明日更新




