闇のテリトリーへ
一行は久々の京都支部に辿り着いた。
シルカが、以前のように出迎えてくれた。
しかし、その笑顔には影がある。
「お久しぶりです、ヴィニー」
貴一は、ヴィニーに変わる。
「無事でよかった。ザザ様は……?」
シルカは、視線を落とした。
返事をしたのは、その傍にいた隆弘だった。
「お前達の連絡を受けて確認してみた。占い師ザザがいた結界は痕跡を残さず消えていた。現在陰陽連京都支部の総力をかけて探している、が」
そこで、隆弘は言葉を切って視線を逸らす。
「もう連絡は取れないと考えたほうがいいだろう……」
「ザザばあ……」
ヴィニーが呟く。
誰もが口には出さないが勘付いている。占い師ザザは、死んだのだと。
「お前が無事でよかった」
ヴィニーはそう言って、シルカを抱き上げる。
「もう、私はお子様ではありませんよ、ヴィーニアス」
シルカの表情が和らぐ。
ヴィニーは彼女に耳打ちした。
「陰陽連からしばらく距離を置くのだ、シルカ」
シルカの表情が強張る。
「俺は傍にいてやることができない。守ってやることができない。東京へ行かねばならないのでな」
シルカが、ヴィニーの胸を押して、地面に降りた。
「その東京にも異変が起こっているのです、ヴィニー」
「異変……?」
ヴィニーは怪訝な表情になった。
「数日前のことだ」
隆弘が口を開く。
「東京本部から連絡が途絶えた。最後の連絡では、東京が闇の結界に覆われた、とあった」
「そうか……」
ヴィニーは呟くように言う。
「陰陽連本部の人々は?」
静が、恐る恐るといった感じで訊く。
「生きていたなら、連絡を取るだろうな。東京は、敵の手に落ちた」
隆弘が淡々と告げた言葉に、重い沈黙が場に漂った。
「シグルドの仕業だろう」
ヴィニーが淡々と言う。
「闇の結界を張るとしたら奴だ。となると、東京には手下も何体もいると考えたほうがいい」
シグルド。
ヴィニーの前世でヴィニーの国を牛耳った魔物。
その魔力は絶大だ。
「辛うじて倒したって感じだったよな、前世では」
哲也が、ぼやくように言う。
「五聖が四人揃ってか」
戸惑うように言う隆弘に、哲也が答える。
「ああ。奴は魔物のエリートだ。闇の精霊の加護を受け、その力を十全に発揮する。奴の軍門に下れば矮小な魔物も強靭になった」
「厄介な統率者ということか」
「そゆこと」
「シグルドに闇の結界、陰陽連のサポートなしか。なるほどね」
ヴィニーは呟くように言う。
今回の冒険は中々ハードなものになりそうだ。
「まあ、ハードなのはいつものことか」
諦めたようにヴィニーは言った。
「行くのか? 東京に」
隆弘が、伺うように言う。
ヴィニーは頷く。
「退く道は残されていない。光の精霊の協力なしには魔物は封印できない。ザザ様が残してくれた最後の情報だ。俺達は、前に進むしかないんだ」
「そうか。なら俺も、出来る限りの協力はしよう」
「無理はしないほうがいい。常人が踏み入れられる戦いではなくなるだろう」
「いや、俺が提供するのは、人脈だ。まずは、ロックラックという人物がいる」
「ロックラック?」
ヴィニーは怪訝な表情になる。知らない名前だ。
「お前以外の、光の精霊の加護を受けし者だ」
その一言に、一同驚愕した。
ヴィニー以外にも、光の精霊の加護を受けられる人間がいた。
「昔から東京に住み、預言者めいた言葉をいくつも残した。彼が健在なら、お前の力になってくれるだろう」
「連絡先はわかるか?」
「それが、ザザみたいに神出鬼没な御仁でな。しかし、お前達が活動していると知れば、自然と惹かれ合うだろう」
「あてにならないなあ」
哲也がぼやく。
「まあ、それ以外にも臨機応変に協力はする。期待していてくれ」
そして、隆弘は頭を下げる。
「東京を、シグルドの手から奪還してくれ」
「任せろ」
ヴィニーはそう言って、隆弘の肩に手を置いた。
こうして、一行は東京の危機を知ったのだった。
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「任せろって気軽に言うけどな、お前は」
車を運転しているピピンがぼやくように言う。
「ダウンロード、フル・シンクロを使えばあっという間に捕捉されちまうぜ。実質、俺達は退場だ」
「それは……無謀な挑戦だな」
恵美里が沈んだ口調で言う。
しかし、ヴィニーは退くつもりはない。
「しかし、やるしかあるまい。俺達は以前の俺達ではない。精霊の加護を受け、強靭な力を得た。敵の大軍がなにをあろう。全て捻り潰して進むだけだ」
「前世でもそれ言った」
と、ピピン。
「クリスがいなかったらあんた五回は死んでたわよ」
と静。
周囲の反応は王様に辛辣だ。
「しかし、前に進む他に道はないもんなあ……」
ピピンがうんざりしたようにハンドルに顎をつける。
「そういうことだ」
ヴィニーは苦笑して言うと、貴一に戻った。
「ダウンロードなしで、俺達が……」
貴一は躊躇うように言う。
それはちょっと無理があるのではないかと思うのだ。
今までの相手も十分に化け物だった。
それを撃破してきたのは前世組の協力があってのことだ。
「大丈夫だ。いざとなれば俺達も出る。あとは、迅速に撤収して敵を煙に巻けばいいだけのことだ」
そう、ピピンは言った。
「覚悟を決めろ、貴一。ここが正念場だ」
貴一は、決意を固める。
不可能と思えるミッション。しかし、やり遂げなければならない。
「風の精霊は何処にいるんだろう」
「それは、あとで考えることだ」
自分の精霊のことだ。気にならぬわけがあるまい。だというのに、ピピンは飄々とした口調でそう言った。
一同は進んでいく。敵の手に落ちた東京に向かって。
今週中に最終章を完結させようと思います。
本日は二話投稿。
次回『不思議な声』