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異世界の英雄に憑依された件  作者: 熊出
阿蘇山地下迷宮編
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岩石の敵

 ヴィニーは敵の間近まで接近していた。

 炎を纏う四メートルはあろうかという岩石の敵。

 その腕を掻い潜り、斬りつけたはずだった。


 その瞬間、敵の体がパーツごとに分かれて周囲を飛び交い始めた。


 複数のパーツがヴィニーに向かって火球を放つ。

 その前に、恵美里が立ち塞がった。


 恵美里の放つ炎のカーテンが火球を吸い込む。

 しかし、火球は吸い込めても敵の体を焼くには至らない。


 敵の腕のパーツが突進してきて、ヴィニーと恵美里は跳躍して散開した。


「厄介だな、これは」


 ヴィニーがぼやくように言う。


「できるだけ近くにいて! 炎から守れなくなる!」


「わかった!」


 周囲を旋回しながら時に突進し、時に火球を放つ敵にヴィニーと恵美里は対応していく。

 接近してきた腕を、恵美里が大剣で受け止めて、軌道を逸した。

 腕は地面に落ちて、再び空中に上がる。


「恵美里、本体はわかるか?」


「本体?」


「核みたいなものがわかればいい!」


「……五秒頂戴」


「わかった」


「きゃっ」


 ヴィニーは恵美里を抱き上げ、駆け始める。

 その後を、敵のパーツが、火球が、追う。


「五秒経ったぞ」


「いきなり抱き上げないでよ! 吃驚するじゃない!」


「それは悪かったよ。十秒」


「頭のパーツだわ。あれだけがいつも攻撃には参加せずに遠くから見守ってる」


「そうか」


 ヴィニーは恵美里を下ろす。

 恵美里は炎のカーテンを作り出して、敵の火球をすべて受け止めた。


「攻撃が効くかどうかだな」


 ヴィニーはぼやいて、双剣を掲げる。

 双破斬のモーションだ。


 両腕が突進してきて炎のカーテンを切り裂いた。

 その時、見えた。確かに、敵の頭部が。


「双破……!」


 ヴィニーは光り輝く双剣を振り下ろす。


「猛襲斬!」


 双剣から勢い良く光刃が放たれた。それは、敵の両腕をも斬り裂いて先へと進んだ。

 それを、敵の頭部は回避しようとする。

 しかし、回避しきれず、頭部の半分をもっていかれる形となった。


 斬り裂かれた敵の両腕が空中で結合する。

 そして、頭部のパーツも、地面から浮かび上がり、元の位置へ戻りつつあった。


「駄目なの?」


 恵美里が悲鳴のような声を上げる。

 ヴィニーは動じていなかった。


「双破斬!」


 双破猛襲斬で振り下ろされた双剣が、上へ向かって振り上げられる。

 再び光刃が放たれた。

 それは、敵の頭部を見事に四等分していた。


 静寂が漂う。

 敵の纏っていた炎が消えた。

 そして、敵の体は壁の中へと溶けていって、消えた。


「技の連撃かぁ」


 恵美里が安堵したように手に炎を浮かべ、大剣を消す。


「階段を塞ぐ岩をどかしたら、今日はここで休憩していこう。もし復活しても、あのでかい図体じゃ階段までは追ってこられまい」


「そうだね」


 ヴィニーは階段を塞ぐ岩の傍まで行って、双剣を掲げる。

 そして、しばし力を溜めた。

 双剣が再び輝き始める。


「双破猛襲斬!」


 岩が吹き飛んで階段が見えた。

 あとは、手作業だった。

 岩の破片を持ち上げて、どかしていく。


「静達はなにをやっているかな」


「バケーションを満喫してるんじゃないかね」


 ヴィニーは、淡々と言った。


「バケーションかぁ……」


 恵美里が、感情のこもらぬ声で言った。



+++



「こっちの服が似合うんじゃない?」


 優香がある服を持ち上げて提案する。


「えー、攻め過ぎだよー」


「いけるいける」


 場所はショッピングモール内の服屋だった。

 季節は既に夏。いつまでも春の服は暑いということで、夏服を買いに来たのだ。


 沙帆里が服を抱えて持ってきた。


「似合う?」


 服を自分に重ねて、哲也に問う。


「うーん。俺は露出が多いのは好かんな」


「他の女の人だったら?」


「露出大歓迎」


「哲也に聞いた私が間違いだったわ……」


 そう言って、沙帆里は優香に向かって駆けていった。


(なんか場違いだよなあ……)


 そんなことを、思う。

 なにせ周囲は女性服売り場。そこに、男が一人ポツンと立っている。

 浮くというものだ。


 カップルで来たならまだしも、静達にはそれぞれ相談し合える女友達がいる。

 自分の出番はない。


「ちょっと俺、あっちでジュース飲んでるわ」


 そう言って、哲也は片手を上げた。


「いってらっしゃい、哲也」


 優香が微笑んで手を振る。


「ちょっとかかるかもしれないわ。ごめんねー」


 静が悪びれずに言う。


「こうしてまた部屋に荷物が増えるのであった」


 沙帆里がからかうように言う。


「春服は置いていきますー」


 静は気まずげに反論する。


 そんな和やかな時間が流れた時のことだった。

 哲也は、闇の気配を察知して素速く動いていた。


 優香を抱き上げ、その場を離れる。

 静も、沙帆里の手を引いてその場から離れていた。


 さっきまで、三人がいた場所に、黒い巨大な拳が振り下ろされていた。

 試着室が倒れ、床が割れる。

 そして、黒い巨大な拳は、ゆっくりと天井に向かって消えていった。


「敵襲……?」


 静は、周囲の気配を探り始める。

 哲也も、周囲の気配を探る。


 しかし、敵意らしいものはどこからも感じられない。


「あの、哲也……哲也!」


 優香が、恥じ入るように言う。


「なんだ?」


 哲也は周囲の気配を探りながら答える。


「下ろしてくれると嬉しいなって……」


 優香は照れ臭げに視線を逸している。

 哲也は、慌てて優香を下ろす。

 つられて、哲也も少し照れた。


「早めに決めてくれ。状況が変わった。早急にこの場を去ろう」


「うん、わかった」


 優香を抱き上げた。トラブル上のやむないこととはいえ、哲也はそれが嬉しかった。

 そして、同時に心配にもなった。優香があまりにも軽すぎたから。


「君って力持ちだねー」


 優香が感心したように言う。


「野球部のバーベルよか軽いよ」


 哲也は、更に照れつつそう言った。

 何故だろう。優香を前にすると、とても初心になる。

 そもそも、哲也は求められる者だった。それが今、求める者になっている。

 攻勢には向かないのかもしれなかった。


「また君の凄いところ、一つ見つけた」


 そう微笑んで言うと、優香は静達に向かって歩いて行った。

今週の更新は『岩石の敵』『異変』『師、再び』『飛行機雲』『虚しいコール音』となります。

四章完結です。

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