火のダンジョンへ
陰陽連熊本支部は、やはり地下に存在していた。
地表部分にヘリコプターが停まっているのが気になるところだ。
各々、地下施設で割り当てられた部屋に荷物を置き、再び集まった。
扉が左右に開き、地上に繋がるエレベーターが目の前に現れる。
一同、そこに乗った。リューイや陰陽師も数人一緒に来ている。
「今回は阿蘇山の中岳に行こうと思います。僕もあるならそこだろうと思って重点的に探っていた」
そう、リューイは口を開く。
「山の中にダンジョンがあるということか?」
「そうなりますね」
哲也の問いに、リューイは答える。
「階層はどれぐらいなんだ?」
貴一が問う。
「不明です。目的地までの道を破壊して進もうかとも思ったのですが、特殊な方法で作られているようで」
(一筋縄ではいきそうにないな)
ヴィニーがぼやくように言う。
そして、一同は外に出て、ヘリコプターに乗り込んだ。
「大丈夫よね、これ。大丈夫よね、落ちないよね」
沙帆里が不安げに言う。
「パイロットも熟練者です。安心してください」
リューイは落ち着いた物腰で言う。
「氷の魔術でヘリが落下しても受け止められるんじゃないか?」
「それもそうね。恵美里より頭が回らないとか混乱してるわ」
「失礼だな」
恵美里は苦笑している。
「私の精霊か。楽しみだな」
そう言って、恵美里は窓の外に視線を向けた。
ヘリは飛び立った。
地上が遥か遠くに見える。
落下すれば死は免れないだろう。
そうして、数十分が経っただろうか。
山は、もはやすぐ側にあった。
ヘリコプターは少しずつ降下して、山に接触しないようにホバリングしている。
ハシゴが下ろされ、リューイを先頭にして一行は降りていく。
リューイは山肌を探るように触り始めた。
そのうち、その腕が山の中へと消えた。
「ここです」
貴一も、手を出してみる。すると、それはするりと山肌の奥のなにもない空間へと沈んだ。
「表面上は埋もれているが、隠れた通路がある」
「恵美里。違和感は覚えるか?」
哲也が問う。
恵美里は考え込むような表情だ。
「私の中の加護とこの奥に眠る精霊が共鳴を起こしている。間違いないと思うよ」
「そうか。じゃあちょっと探索に出かけるか」
そう言って、哲也が中に入っていく。
貴一もその後に続く。
「今日のところは偵察に留めてください」
ヒューイが言う。
静が入ってきた。
最後に、恵美里が入ってくる。
そして、そこでトラブルが起こった。
「入れないんですけど……」
沙帆里が不満げに言う。
全員、一度外に出る。
確かに、沙帆里の手はカモフラージュの壁の奥へと進もうとしない。
「水の精霊の加護を受けたからか……?」
哲也が、訝しげに言う。その姿が、ピピンに変わった。
「いや……」
ピピンは一歩を踏み出してダンジョンの中に入る。
「貴一、フル・シンクロして続いてくれるか」
貴一は言われた通り、ヴィニーに変わり、洞窟の中に入ろうとする。
しかし、何故か入れない。
「なんでだろう。入れなくなった」
「やはりか。レベル制限だな」
ピピンは淡々とした口調で言う。
「一定の力量を持った人間が入れなくなっている。それでも達人一人分の余裕はあるようだが。フル・シンクロを解いて入ってみてくれるか」
ヴィニーは貴一に戻る。
すると、次は入れた。
ピピンに押され、二人は外に出る。
「さて、考えものだな。加護を受ける恵美里は外せないだろう。セレーヌ以外で護衛がもう一人必要だ」
「ダンジョン攻略能力に優れたクリスかピピンね」
静が、淡々とした口調で言う。
「いや」
ピピンは躊躇うように言う。
「岩の敵なんかが出てきたら困ったことになる。そうなると、適任者はヴィニーだろう」
静は、腕を組んで思案する。そのうち、頷いた。
「無難ね。恵美里とヴィーニアスで入ってみて」
言われた通り、貴一はヴィニーに変わって恵美里と中に入る。
問題なく入れた。
「決まりね」
静が淡々とした口調で言う。
「ずるいなー」
沙帆里は憤慨しているようだ。
恵美里は少し、困っている様子だった。
「俺と一緒だと困るか?」
ヴィニーが悪戯っぽく問う。
「い、いや。そんなことはないけど」
恵美里はそう言って、視線を逸らす。
「戻って荷物を用意しよう」
ピピンが、指揮を執る。
「長期滞在も見越して食料と水を用意しなければならない。背負えるだけ背負って貰わねばな」
こうして、ダンジョン攻略面子は決まった。
ヴィニーと恵美里が、火のダンジョン攻略に挑むことになる。
「分断するのは少し不安ね」
静が、躊躇うように言う。
「仕方あるまいよ。俺達は今目の前にあるトラブルを一個一個処理していくしかない。そうするといつか全部片付いてるもんだ」
ピピンはそう言って、素速くハシゴを登り始めた。
翌朝、一同は再び火のダンジョンの前にいた。貴一と恵美里は大きな荷物を背負っている。
静が、貴一の手を握る。
「信じてるから」
念押しされた気がして、貴一は苦笑する。
「大丈夫だよ、静。きちんと戻る」
「うん」
静は、手を離すのを躊躇っているような様子だった。
貴一が、その手に空いた手を重ねる。
静は一つ頷いて苦笑すると、手を離した。
「それじゃあ、行くよ」
沙帆里は珍しく絡んでこなかった。
ただ、貴一と静が手を重ねるのを、感情の読めない表情で見ていた。
今週の更新は『火のダンジョンへ』『出会い』『揺らめく心』『野球バカ一代』『近づく心』となります。




