表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の英雄に憑依された件  作者: 熊出
異世界の英雄に憑依された件
5/79

流れ着いた魂達2

 合計五ヶ所で結界を張った。

 町を安全にするためにも多少の手間は仕方がないところだ。

 そして、そのうち、結界に引っかかる異物を感じた。

 光の中にあって目立つ者。闇のように黒い魔の者だ。

 それをクリスに告げると、意を決したように顔を引き締めた。


「次のリビングデッドドールを作ろうとしているんだ。止めに行こう」


「説得でなんとかなるかな」


「馬鹿ね」


 クリスは、苦笑した。


「浄化すればいいんじゃない」


 そう言うと、クリスは駆け出した。

 矢のように速いとはこのことだ。


「ダウンロード……!」


 貴一は呟き、クリスの後を追う。

 二人はそのうち、廃工場へと辿り着いた。

 錆びついた壁が流れた歳月を感じさせる。

 その前には、闇に溶けるような黒い制服と黒髪をした少女が立っていた。


「こいつ?」


 クリスが、戸惑うように問う。


「いや、違う。反応は工場の内部からだ」


「クリスとヴィニーの憑依体と言ったところかな」


 少女は、楽しむように言う。

 クリスがバトンを振ると、それは一本の槍となった。

 それを構えて、クリスは臨戦態勢に移る。


「そう敵視しないで。今日の私は傍観者だから」


 そう、楽しむように少女は言う。


「お手並み、拝見」


 そう言って、少女は去っていった。


「今のは……?」


 貴一は、恐る恐るクリスに問う。

 クリスは険しい表情を崩さず、しかし臨戦態勢は解いた。


「わからない。けど、私と貴方の正体を看破していた。私達に近い人間の憑依体なのかもしれない」


「わからないことだらけだな」


「まったくよ。これで封印に必要な五人が揃うか甚だ疑問ね」


「五人も、必要なのか?」


「そう。光、火、風、土、水。五属性の加護を受けた戦士達が必要となる。私は土。土のクリスティーナ」


 世界は広い。それを探し当てるとなると、また一苦労だ。

 大学を休学して戦士探しをしている自分が目に浮かび、貴一は苦笑するしかなかった。

 二人で、工場の中に入る。祈る初老の男性が、一人。


「久しいわね、ドット」


 クリスが、親しげに言う。

 男は顔をあげると、目を見開いた。


「クリスティーナ……! 変わらぬ姿だ。国を追われてなお、使命に殉ずるか」


「なにやら死後の情報も持ってるみたいじゃないか。それとも、殺したか? 私達のような憑依体を」


 クリスの声が低くなる。

 剣呑な空気が周囲に漂い始めた。


「貴一、剣を出して」


 貴一は頷いて、剣が出るように念ずる。光り輝く双剣が両手に現れた。

 男の顔に憎悪が滲む。


「ヴィーニアス……! 貴様のせいで我々の計画は頓挫した。その帳尻をつけさせてもらおうか」


「頓挫するべくして頓挫したのよ。魔が栄えた試しはない」


 男は手を地面につけた。

 その瞬間、武装した骸骨が大量に廃工場の中へと現れた。

 骸骨が一斉に手に持った刀剣を投じてくる。

 クリスも、手を地面につけた。

 その瞬間、地面が盛り上がって、二人を庇う盾となった。


「双破斬は……使えないわよねえ」


 クリスが、躊躇うように言う。


「双破斬?」


「うん、それよ。仕方がない。私が撹乱するから、君はドットを一撃で葬って!」


「殺せってことか?」


「いや、取り憑いてる魂を浄化しろってことよ。切り替えの仕方はヴィニーが知っている」


 そう言うと、クリスは槍を片手に、矢のような速さで壁の外へと飛び出して行った。

 心音が高鳴る。

 ここで失敗すれば、自分も、クリスも、死ぬ。そんな恐怖感が足を竦ませる。


「やるしかないだろう……?」


 口が、勝手に言葉を紡いだ。


「ヴィーニアス?」


 問い返したが、返事はない。

 そうだ、やるしかないのだ。

 それが、二人で生き残るただ一つの道。

 貴一は双剣を握りしめて、土壁の上に立った。

 骸骨に囲まれるようにして立っている相手を目視する。

 黒い影の魔法の刃と光の双剣が動くのは、同時だった。


 貴一は、ドットと呼ばれていた男を双剣で叩き切り、その背後に着地していた。


「消える。私が消える。また、目的を果たせずに……こんなはずでは……!」


 男は首をかきむしり、貴一に手を伸ばすと、そのまま倒れ込んだ。

 骸骨が消えていく。


「消滅したのか……?」


 貴一は戸惑うように言う。


「あるべき場所に帰ったのよ」


 そう、淡々とクリスは言う。


「火葬が基本のこの世界じゃ、リビングデッドドールもそこまでの脅威じゃなかったわね」


 クリスは飄々とした口調で言う。

 倒したからいいものの、気楽なものである。

 クリスは、倒れた男の肩に手を置いた。クリスの掌に光が灯る。

 男は、悪夢から覚めたかのように勢い良く立ち上がった。


「あれ……私は……なにを……」


「悪い夢を、見ていたのよ」


 クリスはそう言って、男の背を撫でる。


「もう大丈夫。家に帰りなさい。家族が貴方を待っているわ」


 男はしばらく躊躇うように周囲を伺っていたが、そのうち立ち上がって去って行った。


「んー、冒険したって感じねえ」


 クリスが呑気な口調で言う。


「俺は早々に終わらせたいよ」


 貴一は正直な気持ちを述べる。

 けれども、今の自分を振り返ってみると、まるで冒険物語の主人公のようではないか。浮き立つような気持ちもあった。


「じゃ、次の敵と仲間を探しましょう。大丈夫。クリスお姉さんがついているんだから、どーんとでかい船に乗った気でいなさい」


 そう言って、クリスは自分の胸を叩いた。

 記憶が、脳裏に蘇った。これは自分の記憶ではない。ヴィーニアスの記憶。

 馬に乗って走っていた。幼いヴィーニアスは、ヴァイスの安否を心配しながら、夜の草原を馬に乗って駆けていた。

 涙がこぼれ落ちてきた。これから自分はどうなるのか。そんな不安が先に立った。

 クリスが。目の前に降りてきて、言った。


「大丈夫。クリスお姉さんがついているんだから、どーんとでかい船に乗った気でいなさい」


 そう、それが二人のスタート地点だった。

 貴一は、苦笑する。


「調子のいい奴」


 どうやら、新しい相棒は、悪い奴ではなさそうだ。

 頼りになるかどうかは怪しいところだったが。



次回『身近なところに……?』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ