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異世界の英雄に憑依された件  作者: 熊出
琵琶湖攻防戦編
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貴一VSリグルド

「風が強いですね」


 セレナが、外と内とを隔てる薄いトタンを眺めて呟くように言った。


「そうさな」


 ピピンも同調する。

 全員、戦闘準備は万端だ。


 クリスならば勝つだろう。そんな思いが貴一の中にある。

 クリスの動きは尋常な速度ではない。それに対応できる人間が何人いるか。


「移動しましょう」


 セレナが言う。

 全員、車に乗って移動した。貴一達の車は最後尾だ。


「不甲斐ないわね」


 セレーヌは、自重するように言う。


「なにがだ?」


 貴一が訊ねると、セレーヌは苦笑して返した。


「だって、恵美里は琵琶湖に違和感を覚えていた。精霊を察知していた。魔術担当の私がそれに気づかないとは駄目駄目だなって」


「なんだ、そんなことか」


 ピピンが言う。


「恵美里は魔法も剣も人並み以上にこなす。魔法剣士という奴なのだろうな」


「そう持ち上げられると照れるな」


 恵美里はそう言って、窓の外に視線を向ける。

 一同、苦笑を顔に浮かべた。

 そのうち、車は琵琶湖の傍で停止した。


 全員が車の中から降りる。

 そして、琵琶湖の傍に陣取る二十名の傍に近づいていった。


「また来たか、おはよう女王」


 せせら笑うように、黒いローブのフードを目深に被った一人の若者が言う。

 敵の中から笑い声が上がった。


「おはよう女王?」


 貴一は怪訝な思いでピピンに問う。


「あー、そうさな」


 ピピンは顎に手を当てて渋い顔で考え込む。


「異世界にもおはよう、こんにちは、こんばんはに相当する言葉があった。それがある日、寝坊したセレナがおはようと言って咎められたのを不服に思ってな。挨拶をおはように統一したんだ」


「暴君じゃないか」


 貴一は片手で頭を押さえる。


「どうしてです、ネームレス! 貴方はあんなに優しかったではないですか」


 セレナは、苦しげに言う。


「利用されていたことにも気づかぬ愚か者よ。これが一国の女王とは呆れるしかないな」


 再び、敵の中から笑い声が上がる。

 この喋っている男がネームレス。幹部を二人屠った男。

 どこにでもいる細身の青年にしか見えない。


 しかし、それを言えばクリスもどこにでもいる女性にしか見えない。

 強さと外見は比例しない。

 それを、この二人から貴一は感じ取っていた。


 セレナは、苦しげな顔でうつむいていたが、意を決したように前を見た。


「今日は五聖が我が陣営に味方してくれました。貴方達の跳梁もここまでです」


「ほう、五聖」


「一対一の戦い。それで、ケリをつけましょう」


「五聖が味方になった途端に強気だな。それじゃあ、リグルド、出れるか?」


「御意」


 黒いローブの集団から、一人が前に進み出た。その手に、剣が現れる。


「それじゃあ私が相手をさせてもらおうかな」


 そう言って、クリスが歩み出る。

 どうしてか、浮かない表情をしていた。


「いや」


 若者は、そう言って貴一を指差した。


「その男がいい」


「俺?」


 貴一は、戸惑うしかない。

 相手がこちらの実力を知らない以上、選ばれる理由なんてわからない。


「誰でも迎え撃つと豪語してはいませんでしたか」


 セレナが、不服げに反論する。


「ルールが変わったんだ。その男でなければ、我々は退かない」


 沈黙が漂った。

 セレナとネームレスは、睨み合っている。

 そのうち、セレナは溜息を吐いた。


「貴一さん、頼めますか?」


 貴一は、悩んだ。この一戦に、水の精霊の加護がかかっている。

 しかし、自分が動かなければどうにもならない。そう思い、覚悟を決めた。


「わかった、いいよ。ダウンロード」


 貴一はそう言って、手に双剣を呼び出す。

 黒の兄弟の間にざわめきが起こった。


「双剣……ヴィーニアス国王か」


「さて、リグルドで相手になるかな」


 相手には戸惑いがあるように感じられた

 戸惑え、と貴一は思う。

 冷静さを欠いてもらったほうが貴一の勝率は高くなる。


 貴一とリグルドは距離をおいて向かい合った。


「光栄です、ヴィーニアス国王。直接お手合わせできるとは」


 リグルドは、そう言って剣を構える。


「ヴィーニアス国王は寝てるよ。俺は、ただの貴一だ」


 貴一も、応じるように双剣を構える。

 強い風が吹いて、リグルドのローブと貴一の髪を揺らす。


「始め!」


 ネームレスが叫んだ。

 二人は前方に向かって駆け出した。


 リグルドが剣を振り下ろす。

 それを右の剣で受け止め、左の剣で突く。

 しかしリグルドは、器用に体を反らしてそれを回避していた。


 そこからは、剣と剣のぶつかりあい。

 二刀を相手に、リグルドはよく持ちこたえる。しかし、攻めに転じるきっかけを失っているように思えた。


(それほど、強くはないな……)


 これなら、恵美里のほうが上だ。シルドフルのほうが上だ。そして、そんな強敵たちと貴一は渡り合ってきたのだ。

 リグルドは数歩後ろに下がる。


 黒の兄弟達の顔には、笑みが浮かんでいる。


「出すか、閃光突」


 誰かが言う。

 リグルドの剣に光が集まっていた。

 それは、前方へと弾けた。

 慌てて、回避運動を取る。


 流星のような光が突きのモーションと同時に前へと放たれていた。

 光は貴一の腕を傷つけ、後方へと飛んで行った。


 後方で鉄の響く音がする。

 閃光突を恵美里が大剣で受け止めたようだった。


「遠距離攻撃か……」


 貴一が呟いている間にも、リグルドの剣には光が集まっていく。


「閃光突の連撃。受け切れますかな、王よ」


 リグルドの剣から、次々に光が放たれ始めた。

 貴一は時に避け、時に弾き、その光に対応していく。

 それと同時に、貴一の双剣も光を放ち始めていた。


「来るぞ、リグルド!」


 リグルドの腕が止まるのと、貴一が双破斬を放つのは同時だった。

 光刃がリグルドへと襲いかかる。

 それを回避したリグルドに、距離を詰めていた貴一が襲いかかる。


「こうも密着されていては閃光突も使えまい!」


「ぐっ」


 図星だったようで、リグルドは悔しげに呻く。

 貴一の双剣が、リグルドの腕を深々と突いた。


 リグルドは片腕になっても貴一に襲いかかろうとする。その額に、掌底を当てる。

 リグルドは地面に倒れ伏し、その首筋に貴一の双剣が突きつけられた。


 仲間達の間に喝采が起こる。

 貴一は、琵琶湖の攻防戦に勝利したのだ。


 拍手の音が鳴り響いた。誰かと思えばネームレスだ。


「なるほど、なるほど。流石は双剣で高名なヴィーニアス閣下だ。いいものを見せてもらえた」


 ネームレスは、そう言ってリグルドに歩み寄っていく。


「すいません、ネームレス様」


「かまわんさ。お前は近接戦闘では我々の中で三番手。負けたなら相手がそれほど強かっただけのことだ」


 三番手。

 リグルドより強い相手が、まだ二人いる。

 貴一の体に緊張が走る。

 混戦になった時、味方に犠牲が出る可能性を考えたのだ。


 しかし、貴一とて味方の中で三番手。

 より強い味方は背後に控えている。

 それを思えば、貴一は気が楽になった。


 守りたいのは自分だけではない。仲間がいる。それが貴一に勇気を与えた。


「さあ、一対一では勝った。場所を譲り渡してもらおうか」


「一対一で勝った? はて、国王陛下はなにか勘違いなされているようだ」


 そう言って、ネームレスは剣を呼び出す。

 それは、双剣だった。

 貴一の姿を鏡で写したような、双剣だった。


「一対一はこれから始まる。相手は俺だ」


「そんな! 卑怯です! 幹部すら撃破する貴方の相手をさせようなどと!」


 セレナが不平の声を上げる。

 ネームレスは喉を鳴らして笑って、相手はしない。

 その視線は、ただ貴一に向けられている。


「どの道、俺を倒さねばこいつらは退かんよ。さあ、どうする国王。度量を見せる時だと思うがね。そうでなければ我々は総勢でかかって貴様らを蹂躙するだろう」


 貴一は、双剣を構えた。


「いいだろう。相手をしてやる」


 幹部を二体屠った男。

 その実力も知らぬままに、戦いが始まろうとしていた。


今週の更新内容は

『貴一VSリグルド』『敗北の味』『三つの誤算』『剣士、再び』『秀太の覚醒』『目覚めたヴィーニアス』

となっております。

一回沈む回があるので浮上する回まで書こうと思ったら長くなりました。

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