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異世界の英雄に憑依された件  作者: 熊出
京都激動編

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奸計2

(無茶だ静! 私に主導権をよこして!)


 クリスが叫んでいるのを無視して、静は槍を振るう。

 縦に突く、突く、突く。

 けして相手の前進を許さぬように。

 それでも、相手は前進してくる。

 ヴァイスの剣術の緻密さを思い知らされる思いだった。


 後方に飛ぶ。相手もついてくる。

 そして、槍と大剣がぶつかりあった。


「楽しくなかったのかよ!」


 静は叫ぶ。

 恵美里の表情に、戸惑いが浮かんだ。それは、自分は何故こんなことをしているのだろうという表情にも見えた。


「楽し……かった」


 大剣の動きが止まる。

 静の、肩の力が抜ける。

 その次の瞬間、恵美里の顔に浮かんだのは憎悪だった。

 大剣が勢い良く振るわれる。

 いけない。そう思い、槍で受け止める。

 槍ごとふっ飛ばされて、静は尻餅をつく。


「楽しいからこそ、裏切りは残酷になる。貴女は私を見捨てる。これは否定しようがない事実よ!」


「なんで決めつけるんだよ!」


「それが事実になるからよ!」


「事実になるってなんで決めた!」


 静は怒鳴る。

 目から涙が出てきていた。

 振り下ろされようとしていた恵美里の大剣が、止まった。


「なんで、泣くの?」


「友達に、こんなこと言われて、泣かない奴いるか!」


「友……達……」


 恵美里の動きが、完全に止まった。

 静は、恵美里を抱きしめていた。


「いいかい、恵美里。この先、私達は離れ離れになるかもしれない。違う大学に行って、会う機会も少なくなるかもしれない」


 恵美里の腕に、力が篭もる。


(無理よ、静! 私に主導権を!)


「けど!」


 クリスの言葉を無視して、静は叫ぶ。


「あの時一緒にいて楽しかったなって思い出はずっと残る。そして、不意にそれを思い出して私はあんたに連絡を取る。どうしてる? って。また会いたいねって。そうやって、何度でも、何度でも、会える」


 恵美里の体が、震える。


「私はあんたの一生に責任は持てない! 伴侶にはなってあげられない!」


 恵美里の腕が、剣を下ろす。


「けど、あんたの馬鹿面を忘れないでやることはできる!」


「あああ……ああああああ!」


 恵美里の体が痙攣を始めた。

 静は戸惑い、恵美里の体を放す。


 恵美里の体が輝きを放つ。そして、その体は大柄な男性のシルエットへと変化していた。


「ヴァイス……?」


 ヴァイスは、頷いた。


「俺と恵美里の、操られたくないって思いが重なって、表に出れた」


「そっか、良かった。悪かったわね、クリス。フル・シンクロ」


 静は、クリスに体の主導権を譲る。


「ヒヤヒヤしたよ……会いたかった、ヴァイス」


 そう言って、クリスは手を差し出す。

 その手を、ヴァイスは力強く握ると、子供のように微笑んだ。


「おう、クリス。綺麗な女になったじゃねーか」


「おう、もっと褒めていいぞ」


「けど、時間がない。シルドフルは強敵だ。ヴィニー坊やを援護に行こう」


「ああ。行くよヴァイス。背に乗って」


「あの小さかったクリスが俺を抱えて走るってか?」


「侮らないでよ。体魔術、百パーセント!」


 クリスの体が輝きを放ち始めた。

 そして、ヴァイスを背負い、その体は矢のように飛んだ。



+++



 ピピンは危なげなく戦っていた。

 藤吾は確かに強い。しかし、条理を覆すような強さはない。

 その程度の強さならば、ピピンの許容範囲内だ。


「何故だ……! 俺は選ばれし王室警護隊の長……!」


 藤吾は、戸惑うように言う。


「化け物相手に実戦を積んできた俺達と、お前は違うんだ。お前は人としては強い。しかし、人を超えてはいないのだ」


 ピピンの蹴りが、藤吾の顎を跳ね上げる。

 そして、一回転しての剣の追撃。相手の体に十字傷を刻む。

 さらに、顎に掌底。

 そろそろか。

 脳を何度も揺さぶられ、藤吾は剣を取り落とす。

 ピピンは、その額に霊符を張った。


「破!」


 隆弘が叫ぶ。

 藤吾はその場に倒れ伏した。


(ヴィニー坊やはシルドフルの洗脳術を知っていたから前世の時に単独で退治に行ったのか。納得したぜ)


「気絶したのですか……?」


 シルカが、不安げに言う。


「ああ、そうだ」


 隆弘が答える。


「奴にぶちこむために溜めておいた気を多少使ってしまった。残念だが、充電もここまでか」


 そう言って立ち上がると、隆弘は地面に置いていた霊符を握った。

 その威圧感に、ピピンは戸惑った。


「今のあんた。すげえ迫力だぜ」


「さもあろう。ずっと気を練っていたゆえにな」


 光り輝くクリスが空を駆けていく。

 背中にはヴァイスもいる。

 ピピンは、セレーヌを抱きかかえた。


「ヴィーニアスの元へ!」


 そう高らかに叫ぶと、ピピンは駆けていった。



+++



「何度再生すればお前は死ぬのかな」


 ヴィーニアスは、双剣の片割れで己の肩を二度叩き、呆れたように言っていた。

 五度、腕を破壊した。

 それでも、シルドフルは再生を繰り返す。


「ヴィーニアスゥゥ……」


 シルドフルは性懲りもなく剣を構える。

 ヴィーニアスは即座に、双剣を構える。


「お前は強くなったよ、シルドフル。闇の力の扱いが上手くなった。それでも、光には敵わない」


「人が光などと、ほざけ……」


「一投閃華!」


 鈴のように可愛らしい声が周囲に響いた。

 光り輝く槍が、シルドフルの頭を貫通した。

 ヴィーニアスは構えを解き、振り向いた。


「クリス、ヴァイス先生!」


 クリスがヴィーニアスの傍に降り立ち、背負っていたヴァイスを下ろした。


「これで俺も力になれる。待たせたな、ヴィニー」


「先生がいれば百人力です」


「俺も忘れてくれるなよ」


 後方に、ピピンとセレーヌが来ていた。


「これで真に、五聖揃い踏みだな」


 そう、ピピンは微笑んだ。


「ああ……!」


 ヴィーニアスは双剣を再度構えた。


「貴一。もう恐れることはない。俺達は無敵だ!」


「ああ!」


 四人の言葉が異口同音に重なった。


「おのれ、おのれ、何故私の術が……人など脆弱な心を持つ存在。それが何故、こんなにも眩い!」


「人の心は確かに弱い」


 ヴァイスは口を開く。


「弱いから、隣人と、友人と、子供と、力を合わせられるのだ」


「いくぞシルドフル、最後の時だ!」


 ヴィーニアスが駆け出した。


「待て!」


 隆弘の声が響き渡った。

 霊符が風に乗ってやってくる。そして、シルドフルの足元に落ちた。


「破!」


 隆弘が叫んだ。

 その瞬間、凄まじい光がシルドフルを襲った。


「退魔の結界だ。その中では魔の者は動きを制限される」


 隆弘は腕を組んで、シルドフルを仰ぎ見た。


「とどめを刺すのだな」


「ああ! 双破……!」


 ヴィーニアスは双剣を掲げて力を溜める。


「豪覇……!」


 ヴァイスが大剣を掲げて力を溜める。


「一投……!」


 クリスが槍を掲げて力を溜める。

 三つの輝きが、闇の中に煌々と輝いた。


「今回は、私の負けだ」


 そう呟くと、シルドフルは即座にその場から消えた。

 闇が、後には残った。



+++



「シルドフルの洗脳下にあった漂流者達を全員解放しました!」


 部下の報告を聞き、隆弘は満足そうに頷くと、背を向けた。


「私は眠い。眠るとしよう」


 そう言って、地下のエスカレーターへ向かって歩いて行く。

 静と恵美里は、抱き合って泣いていた。


「ごめんね、静。ごめんね。酷いこと、沢山言った」


「いいのよ。あんたみたいな不安症の子と付き合ってたら、この先面倒事は何度もあると思うから」


 静はそう言って肩を竦める。


「それでも私のこと、良い思い出にしてくれる……?」


 恵美里は鼻をすすりながら言う。

 その頭を、静は抱き寄せた。


「あんたといたら退屈しないわ、恵美里」


「静ぁ~!」


 恵美里は膝をつき、静に縋って泣き始めた。

 静と貴一の視線が重なる。

 互いに苦笑して、視線を逸した。


 恵美里は貴一への、淡い思いがある。

 それは、一生封じ込めようとこの時誓った。

 静と友達でいたいから、一生封じ込めようと誓った。


 この日、片貝恵美里には友達ができた。一歳年下の、けど恵美里よりもしっかりした、頼りになる少女だ。


次回『負けヒロイン達のお茶会』

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